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夜明けのルカ  作者: 真山慶
第1章 再会
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第16話 死よりも恐ろしいもの

 ──全く、よくやる。

 ようやく地面に倒れた少女を見下ろしながら、零は大きくため息をついた。

 併せて脇腹の痛みに思わず小さく呻く。つい数十秒前に少女に思い切り蹴飛ばされた箇所だ。

 ──にしたって、想定外にもほどがあったが。

 そう、本当に想定外だったのだ。

 田舎の道場で剣術を齧っている程度の実力だと勝手に予想していたが、まるで違った。

 狙撃に関してはまず初めてでないことは確実だろう。体術においても、数秒組み合っただけで優れた技術を有していることが感じられた。

 おまけに頭の回転も早く、判断力もあるときた。御坂の隊員でもここまで動ける者はほとんどいないだろう。

 それでもたった今目の前に伏せる少女は、青い顔で小さく呼吸する死にかけの少女でしかない。

 そのことに罪悪感を抱かわないわけでもない。が、頭を切り替え、持参していた救急用具で少女に対し応急処置を零は行う。

 動きを封じるためにあえて颯に撃たせたが、ここで死なせるつもりはなかった。

 この少女を使わなければ、おそらくエルは動こうとしないからだ。


「いやあ、一瞬マジで零さん死ぬつもりなのかと思っちゃいました」


 背後からの声に目線だけ向けると、銃を抱えた颯がこちらに向かって歩いてきていた。

 重いだとか荷物になるだとか、颯からは散々文句を言われたが、装備課所管の最新式の銃を持ってこさせたのは正解だったと零は心の中で頷く。

 同時にばつが悪いような気持ちにもなる。

 口調は軽かったが、常日頃は淡々としている颯の声が今は若干震えていた。

 零のすぐ後ろにまでやって来た颯が、少女を見つめながら言う。


「背後から襲った時に、適当に斬り付けちゃえば良かったのに」

「元々お前の射撃頼りの作戦だっただろう。俺の刀じゃこれくらいの傷では済ませられなかっただろうし」

「でも、これまだ1発残ってましたよね?」


 少女のすぐそばに転がる銃を指され思わず口を紡ぐが、颯が追い打ちをかける。


「あの瞬間俺が撃たなかったら、多分零さん死んでましたよ」

「…悪かったよ。正直この子がここまでやるとは思ってなかった」

「まあ、それは同感ですが」


 ──最近、あまり鍛えられていなかったからな。

 内心で1人ゴチてみる。それにしたって少女の動きは異常としか言いようがなかったが。


「アスカは?」

「エルと一緒に、ここからかなり離れた場所まで移動したようです。先程ちらっと見た感じだと凡そ勝負はついていましたし、場所は把握してるんでいつでも行けますよ」

「そうか」


 頷きつつ応急処置が済んだ少女の身体を背負う。

 気を遣ってだろう颯が眼差しを向けてきたが、案内だけ頼むと伝える。

 ふと岩陰に零が目をやると、少女のものと思われる荷物があった。

 それなりの量の荷物と道行から察するに、武蔵へと向かう途中だったのだろう。この春からの新生活を夢見る少女だったのかもしれない。

 しかし、おそらく少女は少年がエルだということを知っていた。

 きっかけはなんであれ、そんな存在を野放しにしておけるはずがない。

 口封じに何をすべきかということは、零が一番よくわかっていた。

 死体は喋らない。それが答えだった。

 一方で、せめて自分達が命を奪おうとしている少女の素性を、知っておかなけばならないという思いがあった。


「颯」

「はい?」

「この子の荷物を、見てきてくれないか」


 岩陰を頭で指しつつ言えば、振り向いた颯が苦々しい顔で零を見た。

 ──もし素性がわかるものがあったとして、その後どうする。

 ──結果はもう決まっているのだから、わざわざ素性を知る必要なんてないだろう。

 言葉にしてもらわずとも颯が言いたいことはわかっていた。

 それでも零は颯に「頼む」と言う。

 こういう時に無関心でいられる程の強かさがないことが、自分の欠点であることを零自身よくわかっていた。

 大きくため息をついた颯が岩陰へと向かう。


「零さんのこういうとこ、俺本当良くないと思う」


 そう言いつつもちゃんと荷物を見てくれるあたり、連れてきたのが颯で良かったと少し安心する。

 闇の中で淡々と動く颯の背中を眺めつつ、零は少女の身体を背負い直す。

 完全に力の抜けた少女の身体はずっしりと重く、立っているだけでそれなりに体力が奪われた。

 それでも投げ出したいとは、思えなかった。

 この重さを忘れてしまうことの方が、零にとっては自分の死よりもずっと恐ろしいことのように思えてならなかった。


「零さん」


 しばらくして颯が零を呼んだ。

 何かわかったかと思いつつ、少女を近くの木に寄り掛からせ、零が颯の元へ行くと意外な表情が待っていた。

 なんというか、やってしまったという表情。

 かといって、もう手立てがないという絶望よりも困惑に近い表情。

 一体何を見つけたのだと、颯が手にしている紙を見る。どうやら何かの証明書のようだ。

 そうして目を凝らした瞬間、颯と同じ表情を零も浮かべることになる。


 2人が手にしていたもの。

 それは、少女が士官学校の首席卒業生であることを示す証書。

 そして少女がこの春から、零や颯と同じ御坂の配属になることを示す証明書だった。


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