第12話 彼女と彼女
自分を囲うものの中に人間も、亜種もいない。
そのことがルカにとっては何よりも幸福なことのように思えた。
いつか出会った亜種達のように、木々や風、鳥達の声を聞くといった芸等はルカにはできない。それだけの魔力を持っているのに不思議だと言われたこともあった気がする。どんな返事をしたのかは覚えていなかった。多分、曖昧に笑って誤魔化したのだろう。
これ以上自分の中に声が溢れるような経験は、耐えられる気がしなかった。
「ねえ、ルカ」
草木の騒めきや鳥達の囀りに耳を澄ませながら、ルカはアモウを離れた時のことを思い出していた。
そうだ、あの時も。彼女がルカをオルデアンの基地から連れ出した先も、森だった。森を抜けた先に辿り着いた崖で、海を見つめながら彼女が言ったのだ。
ここじゃない、どこかへ行けと。
だからこそ、ルカはまだこの国で歩き続けることができている。
「ね、ルカってば…」
夜明けを待つ海を、彼女はただひたすらに見つめていた。基地から連れ出されてもなお絶望から死を望むルカに対し、彼女は言葉をかけ続けた。
そうして、ルカが彼女の言葉に向き合おうとしたそのとき。変わり果てた彼女の姿にようやく気づいたのだ。
次第に光を失っていく彼女の瞳。
どれだけ抱きしめようと、大地に還ろうとする彼女の身体。
頬に触れた指先。濡れた青い血の冷たさ。
全てをまだ鮮明に思い出せることが、ルカにとっては何よりの救いであり、そして罰のように思えた。
──それでも、あなたの優しさが好きだった。
その言葉をルカにくれた彼女は、この世界にはもういない。
彼女はルカをあの場所から連れ出した時から、全てを決めていたのだ。
ルカも言葉にせずともわかっていた。同じドアをくぐることはできないと。
自分はこの先、1人きりで全てを決めていかなくてはいけないのだと。
「…ルカ!」
自らの名を呼ぶ声が現実のものであることに気づき、慌ててルカは振り返る。
──そうだ、今は1人ではなかった。
つい数時間前に出会った少女。
ルカの頭を吹き飛ばすと脅した少女が、目の前に立っていた。
「ごめん日向…ぼうっとしてた」
名前を呼ぶルカに対し、日向の顔がわずかに軋む。
もしかして名前を間違ってしまったのかと思い尋ねると「ううん、合ってる」と固い返事だけが返された。どういうわけか出会った当初に比べて、口数も少なければ表情も暗い。何かしてしまったかと思い、理由を考えてはたと気づく。
そういえばほぼ丸一日、全く休憩をとっていなかった。わかりやすく動揺するルカの思考に気付いたのか、日向が小さく笑う。
「いや、思ってること全部顔に出るなあと思って」
「ごめん、俺…全然気づかなかった」
「いいよ。エルは疲れを知らないってこと、私もわかってて止めずにいたから…でも流石にちょっと疲れた」
言いつつ日向が周りを見渡す。
「向こうに川があるみたいなの。そこで少し休憩させて」




