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おっさんのごった煮短編集

善性の愛

繋屋 堕としの眞鍋、スピンオフ作品として書きましたが、未読でも問題なく読めます。


https://ncode.syosetu.com/n2607hr/

上記リンクより、繋屋も読めますので、よろしければご笑覧ください。




 「権田さん、またいらしてくださいね」


 馴染みのママに、スナックからの帰り際に言われて、ご機嫌で帰る。

 

 もう40過ぎのおっさんの俺の楽しみだ。


 権田健三、今年で42になる俺は、スナックあかりの4つ年下のママ、工藤朱里さんに惚れ込んでいる。


 地方の代々続く土建屋の四代目、地元に不動産も抱える俺は、この片田舎の中じゃ稼ぎも家柄もいいが、如何せん熊のような体と筋ものみたいな顔で女っ気はとことんない。

 そんな俺にとって、あかりママとの一時は幸せな時間だ。


 あかりさんがこの田舎に来たのは4年も前になる。



 ~~~



 4年前。

 あかりさんはろくな荷物も持たず、まだ赤ん坊だった息子さんの駿介くんを抱えて、町の駅に降り立ったまま、立ち尽くしていた。


 年若い女性が赤ん坊を抱えて、荷物もなく立っている様子に、観光資源もない町なこともあって、実家に帰省したのかと思っていたが、どうにも動かないし、ついには赤ん坊も泣き出して。


 「大丈夫ですか」


 声をかけたのが出逢いだった。



 ~~~



 駿介くんのおしめを替えてあげて、近くの喫茶店でご飯を食べながらでも話を聞こうと案内して。


 「夫にずっと暴力を振るわれて、この子が産まれて、この子を殺されるんじゃと思ったら、何も考えられずに飛び出していて」


 彼女の口から出てきたのはDV男から逃げ出したという、割とありきたりではある話だったが、地域の結束の高い田舎者にとっちゃ、許しがたい話だった。


 当然のように顔見知りの爺なマスターは「おい、健坊、何とかしてやれ」と言い、奥さんは可哀想に、酷いわねと慰めたあと、お孫さん用なのか、哺乳瓶にミルクをつくって持ってきていた。


 喫茶店での一幕のあと、あかりさんが元々、水商売で働いていたこと、夫との結婚にさいして実家と疎遠になり、頼れないこと、彼女自身にいま、貯金などが無いことがわかった。


 この時、まだ赤ん坊の駿介くんを抱えて。


 「どうか、この子の里親を探してくれませんか。私はどうなっても、この子だけは幸せな人生を」


 そう言ったあかりさんのことを俺は惚れてしまった。


 「任してください。俺が何とかします。お子さんのことも、貴女のことも、全部任せてください」


 そう胸を張った俺を不安そうに見たあかりさんに。マスターが。


 「安心しな、こいつに任せときゃ大丈夫だ」


 そう声をかけて、彼女は一言お願いしますと頭を下げていた。




 ~~~


 それからは彼女の引っ越しのための手続きや赤ん坊がいるため、病院との顔繋ぎ、そして仕事の斡旋と全て手配した。


 権田組は地元の土建業と不動産に絡んだ老舗で、筋ものとも関係して裏表合わせた人脈を持つ顔役だ。

 親父から家督を継いだ俺も、今じゃすっかり大旦那。彼女が住むための部屋も所有しているマンションの一室を格安で貸してあげて、店の大家として、そろそろ引退を考えていた「スナックまり」のママに彼女を雇って貰えないかと頭を下げた。


 スナックまりで働き初めて一年でまりママが引退、スナックあかりに名前を替えて一人ママとして今に至る訳だ。


 ~~~


 「いつもすいません。権田さんのお陰でこの子と暮らしていけます」


 駿介と三人、駿介の好きなファミレスで夕食を摂っていると、あかりさんは頭を下げて、お礼を言ってきた。


 「何を言ってるんですか、スナックと昼の内職仕事や地元の農家や市場の手伝い仕事で、あかりさんが頑張って駿介くんを育ててるんです。俺は、駿介が可愛いから、飯を食わせたりしてるだけですよ」


 「なっ、駿介」


 少し間をあけて駿介に語りかけると、口いっぱいに頬張ったハンバーグを飲み込んで。


 「おじちゃん、大好き」


 そう笑っていた。


 思わずと涙ぐみそうになるのを堪えて、駿坊は可愛いなーと、無理に笑って見せれば、あかりさんは微笑みながら、俺を見ていた。



 ~~~


 「実は眞鍋さんに呼ばれてまして、何か頼みがあるようなので、もし手を借りることがあればお願いしたいなと」


 あかりさんたちをマンションへ送り届けたあと、少し部屋に上がらせて貰った俺は、駿介を寝かしつけてから、彼女に本題を話した。


 「眞鍋さんにですか。力になれることがあるかわかりませんけれど、眞鍋さんと権田さんのお願いなら、この身に替えても」


 力が入り過ぎなあかりさんに、そこまで気負わなくて大丈夫ですよと、軽く肩を撫で、じゃあ、またお願いするかもしれませんと、帰ることを告げる。


 「もう少し、ゆっくりしていきませんか。今日はお店も休みですし、部屋で飲んでいっても」


 「駿介も寝ましたし、あかりさんみたいな綺麗な人と二人きりで間違いがあっちゃいけませんから、帰りますよ」


 そう言って、俺は部屋を後にした。



 ~~~


 眞鍋幸太郎さんはまだ30代前半で高身長でスマート、渋目なマスクの色気のある、男にも惚れられるタイプの美男だ。


 あかりさんの元夫の件で、俺は東京の知り合いを頼った。大学時代の先輩や後輩に声をかけて、元夫との離婚をどうすれば出来るか、元夫に居場所がバレずに彼女と縁を切らせる方法は無いか、あかりさんの希望を元に相談していたんだが、その時、先輩の一人から紹介されたのが眞鍋さんだった。


 様々な事業を手掛ける青年実業家で、まだ若いながらも豊富な人脈と知識でかなりの遣り手だと先輩に引き合わされた俺は、とにかく、報酬はいくらでも俺が払うのでお願いしますと土下座して頼んだりした。


 「その、あかりさんとはご結婚を考えておられるんですか」


 穏やかな笑顔で聞いてきた眞鍋さんに。


 「とんでもない、駿介くんの面倒も見てくれる親切な人でしかありませんよ、彼女みたいな美人からしたら。俺は彼女と駿介が幸せなら、それでいいんです」


 もちろん、惚れてる手前、そういう願望が無いかと言えば嘘になるが、あかりさんからすれば、面倒見のいい兄や、父親のような存在だろうし、駿介からしても、母親の友達として、大好きなおじちゃんな筈だ。その関係を無理に壊したくはない。


 「そうですか。誠実な方なんですね。出来る限りのお手伝いはしますし、腕の立つ方を紹介しますから。料金は紹介する弁護士の方の法的に定められている報酬を払って頂ければ、私はいりませんから、気になさらず」


 それから、眞鍋さんに紹介して貰った弁護士の先生と眞鍋さんのお力で、時間はかかったものの、あかりさんが町にやって来てから2年後に、無事に離婚が成立した。


 眞鍋さんが元夫の男と会ってみますかと尋ねてきて、俺は一度、顔を合わせている。


 離婚が成立し、駿介の養育費もあかりさんへの経済的支援もしてこなかった男に、俺はそれでも、駿介と会う機会をつくってやるべきか悩んでいた。

 最後になるかもしれない。そう思ったがあかりさんは駿介を会わせたくないとはっきりと言い、ならば俺一人で会いに行くべきだと思った。


 「私が話します」


 あかりさんはそう言って、東京での面会に同伴した。正直に言えば、彼女を連れて行きたくなかったが、あかりさんの希望だったために俺は受け入れた。


 眞鍋さんと三人で相対した元夫だった男はヤクに手を出したという眞鍋さんの話もあって、酷く窶れて、しょぼくれた、小汚ない格好の男で、それでもあかりさんを見た途端、そいつは声を荒げて手を振り上げた。


 「息子をよこしやがれっ 」


 俺はすぐにあいだに入ったが、あかりさんは怯えるふうも無く、よく通る声できっぱりと言った。


 「貴方の子だけれど、あの子の父親は貴方じゃないの。あの子の中に貴方はいないんだから、父親面して会いに来ないでね」


 男は興奮して、あかりさんを睨むと捲し立てた。


 「なんだ、金持ちの強そうな男を騙くらかしたら、随分と強気じゃねーか、男に守って貰って余裕そーだな」


 俺は面会にあかりさんを連れてきたこと、少しでも父親として駿介に会わせるべきかと悩んだことを後悔した。

 握った拳が震えて、頭に血が登り、脳内を駆けていくのがわかる。

 ぶん殴りそうになったところで、眞鍋さんに肩を叩かれる。


 「権田さん、貴方が手を上げる価値なんてありませんよ。貴方はそんな安い人じゃない」


 そう言った眞鍋さんは、いつもの紳士的な態度から豹変すると。


 「いい加減にしろ、この屑が」


 そう、男に向かって吐き捨てた。


 俺はびっくりしちまったが、ふと振り返れば、毅然としていたあかりさんの表情や、すっくと立った姿に、必死で怯えを隠す何かを感じて、彼女が駿介を守ろうとしている姿に、怒りに任せて殴ろうとした自分を恥じた。


 止めてくれた眞鍋さんと、因縁を断ち切る勇気を見せたあかりさんに、俺は何が正解か、考えて、結局はろくな考えがうかばないままに宣言した。


 「二度と彼女たちの前に姿を見せるな。俺の町で見かけたら、ただじゃおかないからな」


 こんなことしか出来ない自分に情けない気持ちになりながら、それでもあかりさんと駿介の明日のために俺はありったけの気迫を込めて吠えた。


 完全に俺に気圧された男は竦み上がって、縮こまり、結局は眞鍋さんに何処かへと連れられて行った。

 本当に殴る価値もない男だったが、そんな奴に長年あかりさんが苦しめられていたことが悲しく、怒りが湧いた。だが、一番、あの男を怨んでいるはずの女性は。


 「ありがとうございます。権田さんがいてくれて、あんな奴のことはすぐに忘れられます」


 そう言って、芯のある温かい笑顔で俺を慰めてくれるんだった。



 ~~~


 

 こうして、眞鍋さんに助けられて、あかりさんと元夫の縁は切れた訳で、俺にとって眞鍋さんは大恩人であり、あの時、俺の拳の行き処を正してくれたことも含めて、ずっと年下ではあるけれど、人生で出会った中でも、一番に凄いお人だと尊敬しているのだ。

 

 なので、眞鍋さんからお願いしたいことがあると言われて、俺は東京までやって来ていた。


 「わざわざ来て貰って申し訳ありません」


 そう頭を下げた眞鍋さんの後ろには20後半くらいの若そうな女性が三人いた。


 「彼女たち、クラブのホステスしてて、客からストーカー被害にあってましてね。店のオーナーから相談されて、ストーカーのほうは私が対応しますが、彼女たち、一度、東京を離れたいそうで、ただ三人とも、実家との折り合いが悪いようでして」


 そこまで言われて俺は納得した。あかりさんの時と違い、三人は貯蓄がないという訳では無いだろうし、子供を抱えてる訳でも無いが、それでも共通するところはある。


 「いいですよ。俺の町で良ければ、俺が生活基盤を整えてやります」


 そう胸を張って言う。この程度で恩返しになるなら安いもんだ。


 「流石は権田さんだ。あかりさんを保護された経緯を伺った時の手腕はお見事ですから、安心してお任せします」


 

 ゆみ、いくえ、さな、と三人はそれぞれ名乗った。本名なのか源氏名なのかもわからないが、取り敢えずはそれでいい。どうせ暫くは俺の所有するマンション住まいだ、事態が好転すれば東京に戻るかもしれないのだし、名乗れない事情もあるかもしれない。


 「俺に任せときな」


 そう言った俺を三人娘は不安そうに眺めていた。


 ~~~


 引っ越しのための準備で一週間ほど東京にいるうちに三人娘はすっかり懐いた。特に最初、さなと名乗った娘は俺によく絡むようになった。


 「ボスー、ボスの町ってどんなとこ」


 時任佐奈と改めて名乗ってくれた彼女は幼げでボーイッシュな元気いっぱいな子なんだが。


 「なんでボスなんだよ」

 

 「だって、ボスじゃん」


 なぜかボス呼びをしてくる上に三人娘の残り二人にまでボス呼びが定着してしまった。



 「まぁまぁ、いいじゃないですか。権田さんの風格ならボスと呼んでも違和感ありませんよ」


 眞鍋さんにそう言われて、何と無く嬉しくなってしまい、結局は呼称がボスのまま、三人娘と帰郷した。


 

 取り敢えずと用意した部屋への引っ越しも終わり、俺は三人娘を引き連れて、あかりさんの元へと向かった。


 「こういう事情でして、出来ればで結構ですから、あかりさんの店でしばらく面倒みて貰えませんか」


 東京であったことをかい摘まんで話したあと、俺はあかりさんに頭を下げてお願いする。


 「眞鍋さんと権田さんの頼みなら断りませんし、お二人の紹介なら信用できますから、大丈夫ですよ」


 そう言ってくれたあかりさんは優しげな顔で大変だったわねと三人娘に語りかけていて。


 「ありがとうございます。あかりさん、この三人の給金ぶんくらいは呑みに来ますから安心してください」


 そうもう一度頭を下げた俺に、あかりさんは俺の手を取って。


 「十分助けて頂いてますから、この子たちは任せてください」


 と微笑んでいて、俺はその顔にみとれてたんだが。


 「なー、ボスかっこよすぎない」


 なんてさなが言って三人娘は楽しそうにはしゃいでいた。


 「お前ら、これからお世話になるんだから、ちゃんと頭下げてだな」


 振り返って楽しそうに会話を弾ませる娘たちに注意していると。


 「でも、権田さんは本当にかっこいいわよね。頼りになるし、顔もワイルドで私もそう思うわよ」


 あかりさんは俺の横を通り抜けて、さなにそんなことを告げて。


 「あー、ボス真っ赤になってる」

 「ホントに、耳まで赤いですよ」

 「ボスって、強面なのに(うぶ)なんですね」


 三人娘にニヤニヤされてからかわれた。


 「ふざけるな、このバカどもっ」


 そう怒鳴りながら、三人娘と漫才を繰り広げる俺を、楽しそうにあかりさんは見つめていた。


 俺はそんな時間に幸せを感じていた。



 ~~~



 元は東京のクラブでホステスをしていた三人娘だ。田舎にはない、垢抜けた女性たちで、客あしらいも上手い。結果的にはすぐに人気が出て、一人ママの静かなスナックは、今は町の男衆の集まる人気店だ。


 カウンターに座り、あかりさんに相手して貰って水割りを呑む。


 「ごめんなさいね権田さん、煩くて。それに若い子じゃなくて相手も私だし」


 カウンターの向こうであかりさんが言うが。


 「俺のほうこそ、美人のママを独り占めで申し訳ない。お店が繁盛してるのは良いことです。あいつらも楽しそうで良かった」


 そう笑うと、後ろから声が飛んでくる。


 「そうそう、俺らはさなちゃんたちと楽しく呑んでますから、健三の兄貴はそっちで楽しくやってください」


 「そうっすよ、ボス。ボスの恋路の邪魔はみんな怖くてできないっす」


 俺の関連会社の若いのがグラス片手に軽口を叩いて、いくえが乗っかる。

 

 「お前ら、あかりさんのほうがそこの三人より綺麗だろうが。まったくわかってねーな」


 だから、俺も冗談に乗ってやるが。あかりさんに向き直った俺に。


 「ありがとうございます」


 そう微笑むあかりさんは本当に綺麗だった。



~~~



 三人娘とあかりさん、駿介を連れて、飯に行ったり、地元の遊園地に行ったり、そうやって、俺はあかりさんと駿介、そして三人娘の仲を深めつつ、駿介が楽しめることをやって、寂しい想いをしないように、あかりさんと楽しく過ごせるよう、俺は誘っては、遊びに行った。


 三人娘の助言も聞きつつ、俺はあかりさんを全力でサポートしてたんだが。


 駿介の誕生日が近付いて来て、俺はスナックでカウンターに座りながら尋ねた。


 「ママ、駿介は何が欲しいかな」


 「誕生日ね、それとなく聞いてるんですけど、答えてくれなくて」  


 うーんと考えて、まぁ、人気ヒーローものの玩具でも買っておくかと考えた。


 「あかりママ、ボスとは結婚しないんスか。ボスは強面だけど、まぁ見た目は悪くないし、金あるし、強そうで頼りになるし、金あるし、面倒見いいし、金あるし、まぁ優しいし、金あるっすよ」


 「お前の俺の評価、半分以上金があるじゃねーか」


 珍しく人の少ない店内で、俺とあかりさんの会話に割って入ったいくえに呆れながら言うが。


 「大事なことッス」


 そう言われて苦笑う。


 「でも、権田さんは本当に良い方よね。私も一緒になりたいの」


 そう返すあかりさんの顔が俺には読めなくて。


 「また冗談を」


 そう返した俺に小さく「本気ですよ」と動いた唇が俺の思考を止めていた。



 「酔いすぎたみたいで、今日は帰りますね」


 そう逃げた俺は、頭の中がグラングランと揺れていた。


 「酔いすぎたんだ。酔っぱらい過ぎたんだ」


 何度も反芻する言葉で、俺はあかりさんの言葉をかき消そうともがいていた。



 ~~~



 「眞鍋さん、こんな相談に乗って貰って申し訳ない」


 東京に来た俺は、眞鍋さんとサシで呑んでいた。

 三人娘の近況報告と、ストーカーたちの処理状況の話がメインで、三人娘が上手く馴染んでいることを告げて、ストーカーたちはそれぞれに法的に対処している内容を教えて貰った。


 その上であかりさんのことについて、俺は眞鍋さんに相談していた。

 俺だっていい歳したおっさんだ、あかりさんの好意をわからない訳じゃない。それでも、それを受け止める踏ん切りがついて無かった。


 「いいじゃありませんか。お互いに両想いで、息子さんとも良好な関係なんですから、前向きに考えては」


 眞鍋さんは俺のグラスにビールを注ぎながら、いつもの優しい顔で穏やかに言ってくださるが。


 「眞鍋さん、おらぁね。俺は彼女を幸せにしたいんです。DVに苦しめられた彼女が、男と一緒になって、苦しい思い出に悩まされるかもしれない、そう思うと怖いんですよ。もし、俺との間に子供が出来ちまって、駿介に寂しい想いをさせちまったら」


 グラスを握ったまま、気づけば下を向いて話す俺に、眞鍋さんはテーブルごしに肩に手を置いて諭してくれた。


 「権田さん、ご自身をあの元夫と重ねて、不安になられる気持ちもわかります。ですが断言しますが、そこまで配慮されている権田さんが、あんな屑と一緒な訳がありません。権田さんはご自身とあかりさんの関係が変化することへの不安に、あの屑男を引き合いにして言い訳しているだけですよ。

権田さん、貴方は誠実な方だ。なら、その生来の誠実さで、あかりさんに向き合ってみては」


 その言葉を胸に、俺はまた町に戻った。



 ~~~


 駿介の誕生日が迫る中、俺はあかりさんに誘われて、二人でデートすることになった。


 「駿介を連れて行かなくて大丈夫ですか」


 そう言う俺に、三人娘から声がかかる。


 「ボス、面倒なら私らで見るから楽しんできてよー」


 「それが不安なんだよ」


 「どういう意味っすか」


 マンション前で揉めていたが、あかりさんは三人娘によろしくねと頼んで、俺も三人に頭を下げ、あかりさんと出掛けるために車を出した。


 二人で食事にいき、映画館で映画を見てからショッピング、話題は三人娘のことや駿介のこと、二人きりでのデートは初めてだったが、共通の話題があることで会話が止まることはなく、楽しい時間を過ごしてあかりさんをマンションまで送る。


 予め連絡しておいたのでマンション前には三人娘と駿介が待っていた。


 「いい子にしてたか、駿介」


 足を折り、しゃがみ込んで頭をなでようとした俺は。


 「うんっ、ちゃんとおねーちゃんたちの言うこと聞いてたよ、パパ」


 思わぬ言葉に手をとめた。


 キョトンとした顔で頭上に差し出された手を見て、どこか不安そうに何か期待するキラキラした瞳に、俺は駿介の頭を撫でてやり。


 「そうか、偉いぞ」


 そう声をかけてから。駿介に向けた顔を後ろの三人娘へと上げた。


 「……駿介になに、吹き込んだ」


 静かな声だったはずだ。十分に威圧は抑えたはず。だが、三人娘は気圧された風で、言い訳も見つからないようでソワソワと狼狽えだした。


 立ち上がった俺は後で軽く説教かなとそんなことを考えていたが。

 擁護の声は下から届いてきた。


 「おねーちゃんたちは悪くないよ、おじちゃん。おねーちゃんたちがパパって呼べばおじちゃんよろこぶって、パパ呼んだら、…………おじちゃんがホントに……パパになってくれるよって」


   

 途中から泣き出して、しゃくり上げながらも話した内容は完全に三人娘が真っ黒だという証言でしか無かったが。


 「おじちゃん、パパって言われるのいや」


 俯いてた顔をあげて、真っ直ぐにこちらを見て、目に涙をためて、溢れた涙と鼻水でぐちゃぐちゃな駿介を見たら。

  

 「…………嫌なもんか、嬉しい、……嬉しい……」  


 抱え上げて、本心のままに答えようとして言葉に詰まる。だが、駿介は俺の胸元で嬉しそうに言った。


 「ホントっ、なら誕生日にはおじちゃんがパパになってくれるの、今年の誕生日プレゼントはおじちゃんがいいっ」


 返答に困り、どうすればと困惑する俺に、横からそっと、俺ごと駿介を抱き締めたあかりさんは。


 「そうね、私も健三さんと一緒になりたい」


 そう駿介に優しく語りかけた。



 あー、そうか。


 俺に足りなかったのは、ただの覚悟だ。

 あーだこーだと言い訳を並べて、彼女と駿介に拒絶される可能性から逃げていただけだ。


 「情けねーな」


 拒絶されたら、それでも友達として支援してりゃいいんだ。初めからそうしてたんだしな。でも、改めてはっきり言われることが怖かっただけなんだ俺は。

 

 「駿介のほうが男だったな」


 ぼそっと言った俺は。


 「あかりさん、結婚してください」


 はっきりとそう伝えた。




~~~



 「健三さん、駿介をあまり甘やかさないでくださいね。パパにべったりなんですから」


 一緒に住むようになったあかりさんに俺は叱られている。

 駿介を可愛がり過ぎて、わがままになったら困ると言うのだ。


 「ダイジョブだよあかり。駿介は賢いから、ちゃんと育ってる。それになー、お兄ちゃんになれば、ママや俺も駿介を構う時間もその分減るんだしな」


 そう言って、俺はあかりさんを抱き寄せた。


 俺は不安だった。

 彼女を傷つけた男のように、自分が外道に堕ちないと誰が言えるのか、自分の子が出来たとき、ちゃんと駿介に愛情を注げるのか。

 そうやって、また二人を不幸にしてしまわないか。

 でも、それはただの言い訳だった。

 彼女と駿介の気持ちを受け止め信じきる強さが俺に無かっただけだ。

 だが、その強さを駿介がくれた。なら、俺は道を誤らない。



 「大丈夫だ、駿介は俺よりずっと男だからな」





 ~~~




 『眞鍋さーん、こっちの暮らしも楽しいけど、そろそろ東京に戻してほしいかなーって』


 俺に電話してきたのは姫野由実だった。


 「おまえ、俺の仕事に何したか、まさか忘れたのか」


 予定をぶち壊して、散々に引っ掻き回してくれたお礼に、ストーカー被害に悩む女ともども、田舎で養生して貰っただけだ。

 まぁ、こいつはそのストーカーからむしり取る側の人間だけどな。


 『でもー、眞鍋さんの望みどおりにしましたよー。堅物とお嬢様をくっつけたし』


 権田健三は古参の暴力団とも深い縁故があり、あの地域じゃ、かなりの顔役だ。

 それでいて、自身は構成員とは無縁の堅気の人間ときている。


 工藤朱里はとある旧財閥関連のご令嬢だった女だ。大学で悪い友達に誘われ、そのまま前の旦那に惚れて、実家を勘当された。


 俺とすれば、あの二人をくっつけることは人脈構築とほうぼうに恩を売るのに持ってこいだった。

 なんせ、権田健三との再婚で工藤家との仲を取り持ってやるだけで、両家から感謝されるのだ。


 『権田さん、眞鍋さんのこと神か仏かって言ってたよ』


 そう笑う由実だが。実際には目障りだった半グレ組織のリーダーだった工藤朱里の元旦那を詰めて、廃人にしたのが俺だったと知ったら、あのお人好しはどんな顔をするかな。


 『それでも、《あかりさんを守るためにそこまでしてくださって》なーんて、さらに信仰するだけだと思うなー。やっぱ眞鍋さんは堕としの天才だよ』


 「誉めたところで東京には戻さんぞ。まぁ、権田組も、工藤朱里の実家にも伝ができた。お前のおかげじゃなくて、あの小僧っ子のおかげみたいだがな。それでも、必要な時は呼び戻してやる」


 どのみち、他の二人のストーカー野郎はとっくに処理済みだ。いつでも東京に戻れるのを二人ともに気に入って住み着いてるようだが、由実は呼び戻すつもりではあった。


 『でーもさ、さなは権田さんに惚れてたんだよねー。あかり姉さんはそこんとこ気付いて、かなり牽制してたけど』


 「本人はモテないと思ってたみたいだが、実態はモテないと思い込んでるだけだからな」


 『まーねー、強面だけど、不細工ではないし、むしろ大柄でワイルドな感じだし、金も地位もあって、優しくて、気が利く、優良物件だよね』


 まぁ、酸いも甘いも知ってるはずの半分裏側にいる人間が、あそこまで純で初というのも珍しい。


 「だからこそ、あの善性の愛が堕ちるところを見てみたかったがな」


 そう笑う俺は権田健三から送られてきた感謝の手紙に添えられた、4人の幸せな家族写真を裏返すんだった。





 

感想お待ちしていますщ(´Д`щ)カモ-ン



筆者の最近の現状と、その悩みも、こんな男だったなら、豪快に解決出来るのになー。という願望による作品です。


悩みについてはエッセイに書きましたが、投稿するか封印するかで悩んでます。

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[良い点] 優しくて力強くて頼りがいがあって、お金持ってて人脈も広くて問題を解決してくれて。 優しくて家族を大切にしてくれて、接する距離を保ちつつもいつでも助けてくれて。 良い男です。健三さんは。 …
[良い点] お人よしで頼りがいのある男と 中盤で現れるイケメン。 読みつつ、ヒロインがもしかしてこのイケメンに惚れてしまい、 ナイスガイの主人公はふられるのでは? とか、 いろいろとハラハラしながら…
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