芝居を打つ
不潔そうな男の跡を尾けると、見上げるほどに大きな崖となった場所に出る。
その崖には大きな横穴が空いており、その入り口を同じように不潔そうな男が2人、守るように立っていた。
尾けていた男はその2人に軽い挨拶をすると中へと入っていく。
「どこにでもいるもんだよね」
彼らはこの辺りを根城にしている盗賊である。
街に居た時に商人から被害の話を聞いていたのだが、まさかそれがこんなところで役に立つとは思わなかった。
「うーん、そのまんま行って制圧しても良いんだけど……折角だし、いつもの手を使ってみようかな」
そう思いついた私は、その場から少しだけ離れると大きく息を吸い込む。
「きゃあああああああ!!」
その声に気付いたらしい見張り2人がこちらに近づいて来るのを気配で感じる。
私はその場にしゃがみ込んでガタガタと震えていると、男2人がこちらの姿を発見した。
「おいおい、こんな場所でどうしたんだ」
「ま、魔物に襲われそうになって……魔物は直ぐに居なくなったのですが、こ、腰が抜けてしまって」
「そりゃ災難だったな。
どれ、俺らのアジトがすぐ近くにあるから少し休んでいきな。
そこまでは俺が背負ってやるからよ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って背中を向ける男に掴まると、彼はよいしょと言いながら私を背負った。
一見すると親切なように見えるが、彼らが舐め回すような視線を私に向けたこと、下卑た笑いでアイコンタクトをしていたこと。
そして、背負うことに託けて私のお尻をしっかりと揉んでいる状況から彼らの目的はただ一つであった。
そのまま彼らのアジトへと連れられていくと、四方八方から熱のこもった視線を向けられる。
「おいおい、そんな上玉どうしたんだよ」
「へっへっへっ……神様からの贈り物ってやつよ」
「こいつはたっぷり楽しめそうだな」
ザッと見た限り、8人くらいの盗賊がいる部屋の中央に下ろされる。
「あ、あの……これは一体……」
「おいおい、まだ分からないのかよ。
俺達は盗賊団であんたはそんな悪い奴等に攫われっちまったのさ。
こんな男だらけの集団の中にあんたみたいな上玉が紛れ込んできたらやる事は一つに決まってるだろ!
なーに、素直に従うなら酷いことはしねえさ」
「へっへっへっ、寧ろ気持ちよくなるだけだね」
「う、うう……分かりました。
乱暴なことはやめてください」
私はそう言って自ら服を脱いでいく。
一糸纏わぬ姿となった私の姿に、男達は一層色めきだって口笛を吹き出すものまで出る有様であった。
「そうそう、そうやって素直に言うこと聞いてりゃ悪いようにしな……」
男の1人がそう言ってこちらに近づこうとした時であった。
その進路を塞ぐように何処からか剣が飛んできて私の足元に突き刺さった。
「俺の居ない間に随分と楽しそうなことしてるじゃねぇか」
剣が飛んできた方向から声がし、何者かがこちらに近づいて来ていた。
「お、おかしら……」
こちらに近づいて来ていた盗賊は青ざめた表情で近づく男を見ている。
「女、お前は何者で何が目的だ」
お頭と呼ばれた男は足元に刺さった剣を拾い上げると、そう言いながら私の首筋に突きつけたのであった。