ゴウツーク伯爵
コンコンというノック音がし、伯爵が許可を出して扉が開かれます。
「よくお越し頂いた。
具合はどうかな?」
「先ずは突然の来訪に加えて急な体調不良にも対応してもらい感謝する。
私はターネライの街で冒険者ギルドのマスターをしているミハエルという者だ。
こちらで不当に連れて行かれたというアロエ殿について……」
部屋に招かれたミハエルさんが私の方を見て止まったので軽く手を振っておきます。
もちろん、彼が気絶していた間に私はいつもの服装に着替え直していました。
「私の顔に何かついていますか?」
「い、いやいや、元気そうだと思ってな。
こちらの方でトラブルに巻き込まれたとか」
「ええ、その件はエリカに報告させた通りですね。
ただ、その上でこちらのゴウツーク伯爵に助けて頂きました」
「それは一体どう言う……」
「その辺りの誤解も解いておきたいので、まずは順に説明しよう。
先ず最初に話しておきたいのだが、王都の門兵は私の管轄では無い」
私と先程同じ話を聞いて驚いたのですが、言葉通りに兵士たちをどうにかする権利は持っていないそうです。
何故彼の元に兵士たちが女性を送り届けているかというと、門兵を管理している貴族が伯爵と親密になろうとしたからだそうです。
「私の好色家としての一面は社交界に知れ渡っているからね」
「伯爵は元々は王都の軍を率いて魔物や魔族と戦っていたそうなのです。
しかし、魔王が倒れて魔物が沈静化した事もあって軍が縮小化。
その時に要らぬ疑いを呼ばぬようにと軍権を全て王へと返還したそうなのです」
実際に王の周りでは既に諫言を用いて伯爵の悪い噂を流す者がいたらしいです。
曰く、軍を一手に掌握している伯爵が反旗を翻したら止められない。
曰く、伯爵は謀反を起こす準備を着々と整えている。
しかし、伯爵が先手を打って軍権を返した為にそれらの意見は全て消え去ってしまったようです。
「軍権は第一王子であるユリアン王子の手に渡ったのだが、これがとんでもないボンクラでね。
軍を私服を肥やすために扱い、その金で秘密裏に軍備を強化しているらしい。
隣国に攻め入る準備をしているんじゃないかと私は見ているね」
「なんと……魔王が倒されたとは言え、まだまだ人類には問題が山積みです。
人類同士で争っている場合では無いと言うのに」
「そのような理由から、王子は好色家で有名になった伯爵の元へせっせっと女性を貢いでいるわけですよ」
「私としても表立って王子に逆らうわけにはいかないからね。
受け取るだけは受け取り、希望する者は王都から逃して、行き場の無い者はこの屋敷で働いてもらっているのさ」
そう言ってはっはっはっと笑う伯爵の姿を見てミハエルさんが静かに頭を下げました。
「度重なるご無礼をお許しください。
市井に広がる噂を信じて伯爵のような人格者を疑ってしまうなど……」
「いやいや、私はさっきも話した通りに唯の好色家の貴族。
ミハエル殿は何も間違っていないのですから謝罪など不要ですよ」
「伯爵の温情に感謝致します」
こうしてミハエルさんの誤解が解けたことで今後の話がしやすくなりましたね。




