予想外の展開
「私達はここまでしか案内できないことになっていますので、あの見えている部屋の奥へとどうぞ」
メイド長らしき女性はそう言って一礼するとスッと去っていきました。
確かに部屋の奥には1人の気配を感じます。
言われた通りに進んでノックをすると、中から「入れ」という声が聞こえてきました。
扉を開けて部屋に入ると、感嘆したような声が聞こえます。
「ほう……メイド達が噂をしていた通りの美女だな。
まさかこのような逸材に出会えようとは」
部屋の中に居たのは30代らしい中年のおじ様でした。
しかし、服の上からでも分かる鍛え上げられた身体や精悍な顔つきは想像とは全く違いましたね。
もっとこう……脂ぎったオヤジ……失礼。
そういうおじさまが仕切っているイメージだったんですけどね。
「初めまして、ゴウツーク伯爵。
このような強引なお誘いでなければもう少し心惹かれたかもしれませんね」
「ほう、私が誰か知っていてなおその態度か。
なかなか面白い女ではないか」
「うふふ、伯爵にそう思っていただけるなら光栄です。
それで……早速するのでしょう?
その為に私を呼んだのでしょうから」
「なるほど、聡明でいて度胸があり、諦めどころも知っているか。
気に入った!
貴女の名前は何というのだろうか?」
「アロエですわ、伯爵」
自分の名前を名乗りながらも予期せぬ展開に頭を捻ります。
もっとこう……先ほど考えていた脂ぎったおじさまが、私欲で直ぐに襲いかかってくるかと思ったんですけどね。
流石に対話を求める人間に魅了をかけてまで事を起こそうとは思いませんが……時間、多分そんなに無いんですよね。
「ふむ……アロエ嬢。
君は迷っているのでは無いか?
なぜこの男は自分をサッサと手籠にしないのかと」
探りを入れるような質問ではありますが、状況が未知である以上は正直に言った方が良いでしょう。
「そうですね。
私はてっきり伯爵が自分の性欲を満たす為に門兵を手懐けていると思っていました。
そういう噂も聞いていましたからね。
しかし、実際に会った伯爵は聡明であり、とてもそんな愚かな真似をする人物には思えません。
それに……」
私はそこで外への扉を見ながら言葉を一旦区切る。
「それに……なんだね?」
「ここでお会いしたメイドの方々は全員がこちらに連れて来られた女性なのではないですか?
伯爵は悪名と引き換えに彼女達を守っているのではないかと思いまして」
「……なるほど、驚いたね。
今までに理性的であろうとする者たちは確かにいた。
しかし、アロエ嬢ほど冷静に物事を分析して正しい答えを導き出した人は初めてだよ。
貴女のような聡明で美しい女性を我が屋敷に招き入れる事が出来て光栄だ」
「こちらこそ、悪い噂を受ける事を苦としない気高き精神を持つ貴族に会えて光栄です」
こうして私は伯爵と改めて握手をしながら挨拶を行ったのでした。




