エリカの戦い
会話の中で少しずつ網を広げていた、高位のサキュバスのみが使える淫魔結界。
今は効果を極端に薄くしていますが、これを本気で使えばここにいる人間を強制的に絶頂させて行動不能に起こすことが出来ます。
しかし、その方法を使うと近くにいるクロエさんにも影響が出てしまうので、今は使えませんね。
お姉さまならば対象を絞るといった細かい事も出来そうですが、今の私には無理です。
お姉さま、ここまで分かっていて私に他の人に手を出すなと言っていたのでしょう。
全体発情が使えないのであれば別の手段です。
先ず、結界を張っているお陰でこの中にいる人間の動きは手に取るように分かります。
彼らの行動を俯瞰で見ると、前に立っている私を数名で引き付け、残った人達でクロエさんに襲いかかり、万が一の時に人質に取るつもりですね。
定石であればクロエさんの近くに立ち、身を守りながら戦うべきなのでしょうが、それだと不利になった時に相手を撤退させる余地が生まれてしまいます。
で、あるならば……私は敢えて相手の策に乗るように前へと駆け出しました。
そちらには4名の兵士がいましたが、1番手前、最初に話しかけてきたリーダーらしき相手の懐に飛び込むと、見つめ合えるほどの距離に立ちます。
その瞬間に彼は剣を振りかぶって力強く振り下ろしました……右手にいる仲間に向かって!
「うぎゃああああああ!!」
袈裟斬りに斬りつけられた男性は血を吹き出して倒れ、転げ回っています。
隊長らしき男の暴走と、仲間の叫び声に野盗もどきの動きが一瞬止まりました。
それはクロエさんの方に向かっていた者達も同じでした。
ほんの僅か、思考の停止した瞬間……私はその隙を突いて隊長の左側にいた人間に足払いをかけます。
足を掬われてほんの少しの時間、空中に浮いた彼の足を掴むと、そのまま横薙ぎにスイングしながらクロエさんに向かっている男達の方へと放り投げます。
まさか思考が停止した瞬間に仲間が飛んでくると思っていなかった男達は大慌てで彼を避けました。
やはり兵士とは言え性根が腐っていますね。
まさか、飛んでくる仲間を受け止めようとする者がいないとは。
とはいえ、前の4名は2人が戦闘不能となり、残りの2人は仲間割れで完全に崩壊。
後ろにいる人達は6人全員無事ですが、蜘蛛の子を散らすように逃げたので全員がバラバラです。
これではクロエさんを攫いにくるのは無理でしょう。
「な、なんなんだ、この女は!?」
「唯の村娘だと思ってたのにこんな化け物だなんて聞いてねえよ」
慌てて逃げ出そうとする野盗もどき達ですが、そんな事は許しません。
「クロエさん、ちょっとビクッとなりますが我慢してくださいね」
「は、はい」
相手が崩れた隙を狙ってクロエさんの元に戻り、彼女にそう告げて淫魔結界の感度を一瞬だけ上げます。
「んっ」
思わずクロエさんが声をあげるが、彼女の変化はそれだけです。
しかし、野盗もどきはというと全員が下半身に血が通ってしまって前屈みになっていますね。
ふふ、それでは素早く逃げることなど不可能でしょう。
それでは、このまま掃討戦へと移らせてもらいましょう。




