仲間との別れ
「昨晩は大変にお楽しみだったようで」
宿屋の主人の下卑た笑いに恥ずかしさを堪えながら外に出る。
あれから気付けば朝になっており、辺りを見渡すと仲間達が死にかけの虫のようにピクピクと震えて倒れていた。
回復魔法と洗浄魔法をかけてから全員をそれぞれのベッドに叩き込み、猛烈な臭いがする部屋を換気する為に窓を開けた。
そこで室内に立てかけてあった鏡を見ると、何故か色々と大きくなっていた。
おっぱいとかお尻とか翼とかが。
そこでステータス画面を開いて確認してみたのだが……
「なんかレベルがものすごく上がってるんだけど……いや、まさかね……」
嫌な予感を覚えつつ仲間達のステータスを確認する。
そして、嫌な予感は見事に的中していたことに唖然としてしまった。
塔に登る前に確認した仲間達のレベルは30であった。
そして、塔を一人で登りきった私のレベルは40。
だが、今の私のレベル85になっており、仲間達のレベルは15まで下がっていたのである。
「これってサキュバスのレベルドレインってやつだよね。
それにしてはドレイン量がエゲツないけど」
通常、レベルが高くなればなるほど、レベル上げに必要な経験の量は増していく。
こんな一レベル吸い取ったから一レベルアップなんて理屈では無いはずなのだが……私の場合はそうでは無いらしい。
しかし、こうなった以上は仲間達と旅をする事は不可能であろう。
レベル的にもそうであるし、いつサキュバスの魅了が発動して仲間達のレベルを吸い取ってしまうかも分からない。
そこで私は彼らのレベルを吸い取ってしまった事を謝罪し、この上は責任を持って一人で魔王を倒してくるという内容の手紙を執筆して宿を後にしたのであった。
これからの彼らの苦労を考えて収納袋ごと路銀は置いてきた。
レベルが上がったおかげか、収納魔法が使えるようになって袋を使う必要性もなくなり、今の私にはあの袋の中の装備品も必要ない。
路銀とレベルを一気に稼ぐ手段も思いついてしまったので何とかなるだろう。
こうして、私は一人街から出て旅路を急ぐのであった。
道中、人の目も無くなったので擬態を解いてサキュバスの姿に戻る
「ん〜無かった頃は気にしなかったのに、曝け出した時の開放感堪らないわぁ〜」
大きく伸びをすると、背中の翼も合わせてググーっと伸びていく。
健康的な気持ちよさに満足しつつ、翼をバッサバッサと動かす。
「うん、やっぱり本能的に分かる。
私……空を飛べる!」
背中の翼に魔力を通すことで身体がふわりと浮き上がる。
そのまま空へと駆け出すと徒歩の時では考えられないようなスピードが出た。
「あはは〜これはこれで楽しい!
……うん、色々考えたけどこの身体も悪くないかも」
そうして暫く上空を飛行してしていると探していた獲物を見つけた。
「うふふ、ちょっと楽しみになってきたかも」
そうして地上に降りた私は、再び擬態をかけると、その獲物……不潔でむさ苦しい男の後を追いかけるのであった。