魔王騒動の終焉
産まれてきた赤ん坊はゆりかごに寝かせて、私達はテーブルを挟んで話をする事にしました。
テーブルの向かい側には魔王と邪神の夫婦が座っているわけですが……気のせいですか?
邪神を覆っていたドス黒いオーラが無くなってサッパリしたように見えるのですが、今はそれらがすっかり消えて元の美しい女神の姿に見えます。
「えっと、大丈夫なんでしょうか?」
「今までご迷惑をおかけしたというのにそのような優しい言葉をありがとうございます。
おかげさまで私は無事に出産を終える事が出来ました。
本当に感謝しています」
そう言って頭を下げる邪神……もとい女神。
「あ、いえいえ……本当に大丈夫なんですか?」
今度は魔王の方に尋ねてみた。
「う、うむ。
これは吾輩が惚れていた時のカミさんじゃから問題ない。
まだ異世界の作品にハマる前の時に戻っておるのう」
「恐らくは殆んどの望みが叶えられて、発散されたからでしょう。
残った搾りかすのような情熱も出産と共に流れてしまったのでしょうね」
その言葉を聞いて私はゆりかごの方を見ます。
そちらでは産まれたばかりの赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てていました。
「あの子の中に入り込んでるとか無いですよね?」
「どうでしょうか……まぁ、本当に搾りかす程度なので影響は少ないかと。
これからの教育次第でしょう」
「うむ、これからは子育ても頑張っていかねばな」
そう言って微笑み合う神様夫妻に先ほどから浮かんでいた疑問を投げる事にしました。
「あの……3人の子供とはどういう事でしょうか?」
「そう言えば私も、勇者……アロエの攻撃がなぜ私に届いたのか気になっていたのです。
まぁ、この状況である程度推察は出来ますが」
「うむ、まぁ、概ねその通りだな。
私は神としての力の多くをアロエに託した。
それ故にカミさんに触れる事が出来たわけだな。
そうして、私の力とアロエの力を合わせたものがカミさんの腹の中で育ち産まれた。
だから、この子は3人の子供というわけだな」
「あ〜なるほど。
でも、それなら私はこう花粉を届ける役目というか……種を女神に届けただけの存在なので、ちょっと違うかなぁって」
「あの姿を見てもそう言えるのか?」
「うっ……」
産まれてきた赤子は先程も確認したように腰に黒い翼、お尻には尻尾が生えています……サキュバス形態の私のように。
「アロエ、安心してください。
この子の育児は私達が責任を持って行いますので。
私達はこの子に神としての力を大きく持っていかれました」
「この子は次代の神としてこの世界を見守っていく立場にあり、その指導をするのは吾輩達の役目という事だ。
ただ、覚えていて欲しいのだ……この子にとって、アロエも母親となるという事に」
「この子が子供という立場で親に会いに来る事があるかもしれません。
その時はどうか否定せずにこの子の事を受け入れてはもらえませんか?」
2人の言葉に私は観念したように息を吐きました。
「はぁ……まぁ、しょうがありませんね。
そこまで私の特徴を引き継いでいて拒否するのも人としてどうかと思いますし」
こうして私達は神夫妻と和解し、女神は魔王が倒された事を世界中に宣言。
夫妻とその子供は神界へと帰っていったのでした。




