浮気の常套句
私はてっきりここで死闘を繰り広げるものだと思っていたので、拍子抜けして戦闘態勢を解きました。
魔王に効くかどうかは分からなかったですが、とりあえず初めて出力を全開にした淫魔結界を解除します。
この領域に入ったものを強制的に発情させるものであり、その出力を最大まで上げると自我を保てずに性欲以外の欲求がなくなるというとんでもない代物ですが魔王には効いている様子もありませんでしたし。
私が促して立たせた魔王は、私の倍の身長があり、青白い肌や頭の両脇に生えた角など、これぞ魔王!という見た目をしていました。
ただ、後から聞いた話では、下界に降りてきた時にそのイメージに合わせて身体を作り変えただけだったそうですが。
とても安堵しているのは私が話せる相手だと分かったからでしょう。
そうして魔王に話の場として案内された部屋は彼の寝室でした。
「本当にこんな部屋で申し訳ない。
しかし、この部屋ならばカミさんに覗き見される事がないのでな」
「そうなんですか?」
「うむ、カミさんは何と言ったか……寝取られじゃったかな?
自分の亭主が別の女に性的に取られるという状況を好んでおるので、それを我輩で再現しようとしたようじゃな。
その際に様子が見えない方が無力感が増すからとか何とか言うておってのう。
この部屋の中は探れないようにしてあるのじゃよ」
「それじゃ、ここで何かしたようにして出ていけば満足すると言う事ですかね?」
「いや、吾輩のステータスだけは常に監視できるようにしてあるからのう。
その変化で実際に行為が行われているかどうかは分かるはずじゃ」
魔王が思った以上に話せる相手で、あの女神は思ったよりもヤバいやつでしたね。
これからは邪神と呼んだ方がいいのではないでしょうか?
「何とか吾輩一人で処理をして行為を行ったように見せるのでアロエは済まないが端の方で見ないように……」
「いえいえ、ここまでお膳立てされているのですから、折角だから乗っかりましょう」
私はそう答えると再び淫魔結界を最大出力で放出する。
「え、いや、しかし……」
「魔王もあの女神……いえ、邪神には煮湯を飲まされているのでしょう?
彼女の望む方法を用いてお灸を据える方法に興味はありませんか?」
「カミさんにお灸を……」
魔王がそう呟きながらゴクリと喉を鳴らしている所を見ると、淫魔結界と魅了も無駄ではないみたいですね」
「そうですよ。
それに今から行うことは、あなたの奥さんが仕向けて私に誘惑されて仕方なくやるのですから。
魔王は何も悪くありませんよ」
「吾輩は何も悪くない……」
わたしはそう誘いながらベッドに横たわり、着ている服を全て収納魔法の中に入れてしまいます。
「さ、お仕置きのための神聖な儀式を始めましょう」
私の声で服を脱ぎながらベッドにのしかかってくる魔王は、今まで魅了に欠けてきた男達とおなじ瞳をしていたのであった。




