勇者と同じ血を持つ者(詭弁)
「なるほど……うちの馬鹿が面倒をかけたようで済まなかったな」
ギルドマスターの部屋の中で、事情を知ったミハエルさんが頭を下げてくれました。
「本当ですよ!
お姉様に絡むなんて許されない行為です」
「君はなぜそちら側にいるのだね?」
何故かギルド側の受付嬢であるエリカが私の隣に座っていることに疑問を持つミハエルさん。
「私にとってお姉様が一番だからですね」
「……まぁ、いい。
それよりも君が飛天の風のメンバーを蹴り飛ばしてノックダウンさせたという報告もあるのだが?」
「お姉様に逆らう愚か者を粛清しただけですね」
「普通の受付嬢にそんな力は無いだろう!
少なくともこの数日の君の変化は明らかにおかしすぎる。
急にお姉様と呼ばれているアロエさんと何か関係があるのか?」
……まぁ、そうなりますよね。
先日までお堅い受付嬢だったエリカの変化に、冒険者をぶちのめしてしまう腕っぷし。
全て私が関わるようになってからですから、疑いたくなる気持ちも分かります。
「はぁ……仕方ありませんね。
正直にお話ししましょう……私は魔王を討ち取って姿を消した勇者……と、同じ血を引く者です」
「な、それは本当なのか!?」
同じ血は引いていますから嘘は言って無いですよ。
また、魔王が倒されたという話は神の啓示によって世界中に知れ渡っているので、ここも問題はないでしょう。
「彼がいなくなった時、私の中の勇者の因子が目覚めたのですかね?
それらのスキルや加護を授かるようになったのです」
「な、なるほど。
だから無名でありながらあれほどの強さを。
それで、エリカ君との関係は?」
「勇者には仲間がいるのはご存知だと思います。
彼女と気が合って姉妹の契りを交わした結果、その加護が授かったようですね」
姉妹の契りの結果、人外になって強くなりましたよ!……とは言えないので、噛み砕いて話しておきましょう。
「そ、それで飛天の風も軽々と捻る程の実力を……」
「そういう事です。
そこでご相談なのですが、そう遠くない内に私は次の街へと旅立とうと考えています。
魔王はいなくなったとは言え、魔物の数は減っていないわけですからね」
「ああ、確かに……正直、ここよりも酷い状況の町や村は世界中にあるだろうしな」
この街のギルドは何だかんだ言いながら人材が揃ってますからね。
「その時にこの子も一緒に連れて行きたいのです。
旅の中で世界の状況を知り、力の使い方や心構えを教えたいと思っているのです。
急な話になりますが、それまでに引継ぎなどをお願いできればと……」
「お姉様!一緒にお供させてもらっても良いのですか!?」
「流石に急に出来たとは言え妹を放置して旅に出るなんて非道な真似はしませんよ。
これも世界平和の為と思って呑んでは貰えないですかね?」
「あ、ああ、受付嬢の1人や2人は何とでもなるさ。
それに今すぐというわけでは無いのだろう?」
「ええ、テンさんの宿屋の方も気になりますからね。
天衣無縫の引退の影響なども見定めさせて貰ってからと考えています」
「本当に何から何まですまない。
面倒をかけるがよろしく頼む」




