飛天の風 再び
天衣無縫が帰ってきたので、お店の方は彼らに任せておく事にしました。
仕事に行くのをぐずるエリカを宥める為に仕方なくギルドまで付き合う事にしたのです。
「お姉様、私、仕事を辞めますね」
「それはエリカの自由なので止めませんが……ちゃんと引き継ぎはするんですよ。
自分勝手に辞めて迷惑をかけるなんて絶対にしてはいけませんからね」
「も、も、も、もちろんです。
ええ、ええ、そんな自分勝手な迷惑をかける人間はクズですよね!」
私の言葉に目が泳ぎまくっているので、恐らくはギルドに着いた途端に辞めると言い出すつもりだったのでしょうね。
思い直したのであれば私から言うことはありませんが。
厳格だった頃からあまりにも性格に変化が現れているので、眷属化による精神汚染なども考えました。
しかし、単に自分に正直になっただけのようで、元々心の中はこんな感じだったという事でしょう。
ギルドに辿り着くと腕に絡めていた手を離して事務所の方へと向かって行きました。
適当にギルド内を見ていると、突然周りを大きな男達に囲まれます。
「よう、また会ったな」
「今日は1人なのか?」
「不用心じゃねぇか」
「何なら俺らが護衛してやるぜ」
そう言って下卑た顔で声をかけてきたのは……確か飛天の風と言いましたっけ?
私がレベルを吸ってもいいかなと思っていたので何とか思い出せました。
「私はこちらにやってきた一般人ですよ。
そんな人を囲んで恥ずかしく無いんですか?」
「一般人があんなよく分からん技を使える訳ないだろ」
「ちょっと付き合えよ」
そう言って、4人のうちの1人が私の腕を掴もうとした時でした。
その男は大きく吹き飛んで壁に叩きつけられてしまったのです。
もちろん、私の仕業ではありません。
やったのは……
「おまえら性懲りも無くお姉様に近づきやがって……汚い手でお姉様に触るな!!」
さっきまで受付に座っていた筈のエリカでした。
私の様子に気が付いた彼女は、上がった身体能力によって一気にこちらに近づいて飛天の風の1人を蹴り飛ばしたのでした。
「な、な、な、何で受付嬢が!?」
「と、とりあえずテメェからだ!」
そう言ってエリカに向かっていったのですが、今度は私がその動きを止めます。
「私の妹に汚い手で触れないでください」
掴み掛かろうとした手を取り、そのまま足を払って背中から落とします。
残りの2人も戦闘体制になっていましたが、私とエリカのコンビであっという間に気絶させてしまいます。
その様子に周りで静観していた冒険者達が拍手を送り、その輪が少しずつ広がってギルド内で拍手喝采が起こったのでした。
「一体何の騒ぎだ!!」
そこにやってきたのはマスターでした。
彼は私たちの様子を見て一目で状況を察したようです。
「とりあえず事情聴取はするが、飛天の風にはペナルティだな。
それと2人は悪いんだが事情を聞かせてくれ」
こうして周りに指示を出してマスターについていき、ギルドマスターの部屋で案内される事になったのでした。




