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変わりゆく心

装備品の恩恵という他無いのだが、試練の塔の探索は順調に進んだ。


探索していくと、イヤリングや指輪といったアクセサリー類が見つかり、それらを装備する事で様々な恩恵が得られていく。


その都度、横にある鏡を見ると、今の自分にこれほど似合う物なのかと驚いてしまった。


「次はどんな装備があるのかな?」


戦いに余裕ができた事で、私は塔の探索が楽しみになっていた。


歯応えのある魔物と、それに対抗できる強力な装備……だが、それだけではなく。


「次も自分に似合う装備が入っているといいなぁ」


そう、性能ではなく見た目を気にしていたのだった。


宝箱に入った物を装備して、近くの鏡で自分の姿を確認する……今までであれば見た目など気にしたことなど無かったというのに。


「あ……これ、今着けてるものより性能いいんだ。

ん〜まぁ、困ってないから今はいいや」


宝箱に入っていたのは無骨な鎧であった。


それは今のドレスを更に強化したような性能だったのだが、あろう事か、今の自分に似合わないという理由でスルーしてしまったのだ。


だが、この時は自分が既に正常な判断が出来ていないことに気が付いていなかった。


極め付けは……


「これって女性用の下着だよね。

……ま、まぁ、こっちの方が性能が良いしね。

それにこのドレスの下が男性物の下着っていうのも変な話だし。

うん、仕方ない仕方ない」


無骨で性能が良い鎧はスルーして、可愛い女性物の下着は性能が良いから仕方ないと嬉々として装備する。


後から冷静に考えると、こんな矛盾に気づけない程に感覚が狂っていたのだ。


そうしてたどり着いた最上階。


そこには女神と称されるべき美しき女性が待ち構えていた。


「勇者アロウよ、よくぞここまで辿り着きました」


本能でこの人物こそが私を勇者に選んだ女神と理解した私はその場に跪いて頭を下げた。


「良いのです、私の可愛い勇者よ。

顔を上げてその麗しい顔を見せてください」


「は、はい……」


やたらと可愛いや麗しいと言われたことで、自分は無骨な鎧を着込んでいなくて良かったと安堵していた。


「はぁ……本当に可愛らしい……あ!

いえいえ、なんでもありません。

さて、勇者よ。

試練を乗り越えた貴方には二つの道が用意されています。

一つはこの戦う為に全てを削ぎ取った実用的な勇者専用装備の数々です」


そうして女神様が指し示した先にはエメラルドグリーンに輝く全身鎧と剣と盾のセット装備が置いてあった。


塔を登る前の私であれば確実に心惹かれていたであろう……だが、この塔で心境が変化してしまった私には何の魅力も感じていなかった。


「そして、もう一つはこの霊薬です。

この霊薬を飲めば、貴方は自身が望みつつ、戦う為に最適な姿へと覚醒することが出来るでしょう。

さぁ、どちらを選びますか?」


そうして容器に入った霊薬を差し出す女神。


「今の自分に必要なのは……こちらです!」


私は迷う事なく霊薬を受け取り、その場で飲み干した。


その瞬間に身体が……特に下腹部の辺りが妙に熱くなるのを感じた。


その熱にまともに立っていることが出来ずに倒れてしまったのだが、それでも何とか女神様の方を見ようと顔を上げる。


「流石は私の可愛い勇者……こちらを選んでくれると信じていましたよ」


意識を手放す寸前に私が見たのは、そう言って邪悪な笑みを浮かべる女神の姿であった。

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