オールマイティ
「あのな、アロエさんってかなり凄い魔術師なんだよ。
この宿を一瞬で清掃するような魔法を使うんだ」
見かねたテンさんがフォローを入れます。
洗浄魔法は対象の大きさによって消費する魔力と時間がかかるものです。
二階建ての酒場兼宿屋を一瞬で洗浄する魔法を扱うという事がどういう事なのか、2人には分かったようで絶句していました。
ただ、私的には気になる部分がありましたので、一応訂正しておきましょう。
「あの、私は別に魔術師じゃないですよ」
「え、これだけの魔法使ってるのに……じゃあ、アロエさんの職種ってなんなんだ?」
「何なんでしょう?
冒険者として登録している訳ではありませんし……強いて言うなら何でも出来るのでオールマイティですかね」
ステータスには勇者と書いてありますが、正直に話してしまうと色々と困ってしまいそうですしね。
「何だそりゃ……つまり、肉弾戦でもあの盗賊のボスより強いってのかよ」
「まぁ、あの程度なら特には苦戦しませんが」
「え、なになに!
アロエお姉ちゃんってあの人よりも強いの?
なら僕と勝負してよ!!」
「出たよ、バトルジャンキーが。
まぁ、でもそんなに腕が立つというのであれば是非拝見したいところではあるな」
「魔法に関しても教わる事が多々ありそうです。
私からもお願いして良いでしょうか?」
「おいおい、お前ら。
アロエさんにだって予定ってもんが……」
「私は別に構わないですよ。
でも、この辺りで模擬戦出来るような場所ってありましたっけ?」
「それなら冒険者ギルドに行こう!
あそこなら広い訓練場借りれるよ。
そうと決まったらゴーゴー!!」
ルインさんが膝の上から跳ね上がって降ります。
そして直ぐに私の腕を掴むと立たせようとせっついてきたので、大人しく従って立ち上がります。
「これは中々面白くなってきたな」
「ええ、楽しみです」
ザトゥさんとロイスさんも立ち上がって冒険者ギルドに行くことになったのですが、それに続こうとするテンさんを私が止めます。
「テンさんはお店があるでしょう?
大人しく待っててください」
「あ、いや、しかし……」
「それとも私がいなくて寂しいですが?
我慢できないのですか?」
「そ、そういう訳じゃ無いって。
まったく……そんな風にからかうなよ」
「ふふふ、ごめんなさい。
お土産、何か買ってきますから大人しくしててくださいね」
「……ああ、気を付けてな」
テンさんに普通に挨拶したつもりだったのですが、3人は入り口のところでジッと私たちのやりとりを見ていたようですね。
「あのテンがたじたじになってるなんて初めて見た」
「もう尻に敷かれてるじゃねぇか」
「ご馳走様でした」




