呼び込み
翌朝、昨日と変わらずガランとした食堂内で朝食を頂きます。
「うん、朝ご飯も美味しいですね。
なのに何でお客さんいないんですか?」
「う、痛いところを突いてくれるな。
見て分かる通りにウチは新参者なんだよ。
それで宣伝力で負けているっつうか……直接的ではないけれども妨害を喰らっているというか」
「妨害ですか?」
「ああ、アロエさんは平気な顔して食べてるが、魔物肉って嫌われてるんだわ。
だから、他の宿屋から魔物肉を出すお店だって言いふらされてるんだよ」
「うーん、こんなに美味しいのに魔物ってだけで忌避するなんて勿体無いと思いますけど。
……それなら私が少し呼び込みしてきましょうか?」
「そりゃやってくれるならありがたいけど……無駄だと思うぞ。
俺がいくらやってもついてくる客なんていなかったからな」
「まぁまぁ、モノは試しという事で。
ちょっと行ってきますね」
私がそう言って外に出てきて数分経ち店に戻ってきました。
「ああ、おかえり。
こんなに早く帰ってくるくらいには無駄……」
「いえ、連れてきましたけど」
「おお、ここがアロエ様のオススメのお店なのですね」
「ほほう、掃除行き届いて良い店ではありませんか」
私の後から2人の年配の男性が青龍亭に入ってきます。
「うお!あ、いらっしゃいませ」
「君がアロエ様が一押しする料理を作ると言うシェフかね。
お任せするので自信のある品を2人分頼むよ」
「あ、は、はい!」
テンさんは何か言いたげにこちらを見ていますが、とりあえず料理に集中することにしたようですね。
そうしてしばらくしてから、2人の前に昨日私が食べたものとる同じ料理が運ばれてきた。
「ほほう、これがオークの肉というものですか」
「魔物肉なぞ初めてですが、他ならぬアロエ様の勧めですからね」
「旅をしていると贅沢は言っていられませんからね。
ただ、魔物というだけで忌避されていますが、実際に食べてみると流通している豚肉に引けを取りませんよ」
「なるほど、では一つ」
そう言って2人は一口サイズに切り分けたオーク肉を口に運ぶ。
その瞬間に目が大きく開かれ、その味を噛み締めるように何度も咀嚼していた。
そして無言のままで食事を進めていき、驚くほどに綺麗に食べ終えたのである。
「どうでしたか……と聞くのは野暮というものですね」
「ええ、シェフの腕が良いのもあるのでしょうが……まさか、魔物肉がこれほどに素晴らしい味を持つとは」
「これば宣伝の仕方さえ間違えなければ確実な商売の種になりますな」
何やら神妙な顔でぶつぶつ話し合っている2人は置いておいて、テンさんの近くにやってくると顔を寄せてヒソヒソ話をしてきました。
「お、おい、アロエさん。
どうやってこんな人達を連れてきたんだよ」
「ああ、それはですね……」
テンさんはこの二人の正体に心当たりがあるようですね……まぁ、宿屋を経営するとなれば必ず話は通すものなのでしょう。
そう考えながら説明しようとした時でした。
「おお、相変わらずこの店は魔物臭くて敵わんなぁ!!」
店の外の人達に聞こえるほどの大声で、見るからに下品な趣味をした男が入ってきたのであった。




