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剥がされた化けの皮

「あぁ〜...その子がどうかしたのか?」



「あの晩からあの子の姿が見えてないんです!!昨日もあちこち探したんだけど居なくて....何か知っていればって思って....」



 ロワンが居なくなった晩に消えたカリという女。俺が思った事はレネ達にも分かってたらしく、レネは俺に耳打ちをしてきた。



「ベグド、そのカリって子はもしかして....」



「...あぁ。ロワンに付いて行った可能性があるな。でも、接点はない筈だから偶然とも言える。一概には言えんが、もしそうならこれ程嬉しいことは無い。

 カリはこいつらのパーティーに所属している。こいつらは俺の言いなりみたいなもんだから、パーティーに入れたとしてもすぐ取り戻せる。」



 互いにニヤッと笑うと、俺は彼女達に近付き、昨日も俺に話しかけてくれた茶髪の子の肩に手を置いた。



「すまんな....そのカリって子はどこにいったか俺は分からないんだ。だが、心当たりはある。俺の仲間と一緒に王都を出ていった可能性があるんだ。」



「そ、そうなんですか!?カリに男が...そんな話聞いたこともないのに....」



「俺も詳しくは分からない。あくまで可能性の話だから、俺の勘違いってのも有り得る。

 俺達は今から仲間を連れ戻しに旅に出る。その時に、カリって子が近くにいたら一緒に連れて帰ると約束するよ。」



「!そ、それなら私達も連れてって貰えませんか!?旅の邪魔になるかもしれないんですけど、カリと私らはずっとこれまでパーティーやってきてたんです!

 カリが私らに何か思う事とかあればこの耳で聞きたいし、これからも一緒にやっていきたいから!だから....」



 茶髪の子は泣きそうな顔をしていると、俺はその顔に疼きを覚えつつ、彼女の顎を触って軽くキスをした。俺の突然の行動に目を丸くしている彼女に俺は微笑んだ。



「外は危険も沢山だ、いつ何が起こるか分からない。君らみたいな可愛い子が傷付く姿は見たくない。道中は最短距離を行くからSランクパーティーの俺たちでさえ油断出来ない所へ侵入する。君らを連れていけない。」



「ベグド様....」



「それに王都にいる可能性の方が高いんだ。危険な外は俺達に任せて、君らは王都を探すんだ。俺の仲間はロワンって言う。もしカリと出会えてロワンの事を知れたのなら、俺達が戻って来た時に教えてくれないか?」



「....分かりました。ベグド様、どうかお気を付けて。」



 目に涙を浮かべつつ、その目には期待と尊敬が宿っていた。そんな目が心地よく、そんな期待感に胸を躍らせ、俺は力強く頷いた。



「あ!そんな所に居たのかお前達。まだこの王都から出て行ってないんだな。」




 急に奥からこちらに声をかけながら向かってくるのは数人の男達。見た目で冒険者だと分かるが、その先頭の人物には身に覚えがあった。



「お前....ラゾ。」



「昨日の今日だし平気だと思ったのか?悪いが、この王都にお前の居場所なんざすぐに無くなることになる。お前がベグドの名を騙った偽物って噂はすぐに広まるぞ?」



 ラゾの一言に俺は腹の底からブワッと冷たい何かが押し上げて、身体から冷や汗が止まらない。だが、ラゾの言葉に混乱している茶髪の子の表情を見て、偽りの冷静さを表現する。



「何を言ってるのか分からないんだが....すまないが、そういうのは良してくれないか?変な噂で誤解されるのは好きじゃないんだ。」



「そうやって白を切るつもりか....まぁいいさ、その為の後見人だ。」



「後見人?」



 ここで俺はようやくラゾが率いていた男性冒険者達の存在理由に気が付いた。ニヤニヤと俺を見て笑っているラゾとは違い、他の奴らは俺を見て気まずそうにしている。


 ...チッ、ラゾの口車に乗らされてきたっていう感じか。不味いな....今の俺たちはラゾ相手に太刀打ちが出来ない。ロワンの奴がいれば....


 俺は歯を食いしばり、怒りに身体が震えながらも茶髪の子から手を離し、その場を立ち去るために背を向いた。



「おい、どこにいくってんだ?ベグド様〜?」



「悪いが、君に構ってる暇なんか無い。俺達は仲間を探すために旅に出なくちゃいけないのでね。俺が偽物やら何やらは好きなだけ叫んでるといいさ。」



 あくまで冷静でラゾの言葉を理解出来ていない風に装った。その考えにゴルド達も分かっているのかあえて何も言わず、この場を立ち去りたそうにしていた。

 だが、ここで邪魔が入る。



「べ、ベグド様!いいんですか!?あんな風に言われて....ベグド様なら一瞬であんなオッサン倒せます!!私、ベグド様の悪口を聞くなんて耐えられませんし!」



「そうですよベグド様!!」



「格の違いを見せつけてやりましょうよ!!」



 余計な事を言うんじゃないクソ女共!!こんなこと言われたら余計に立ち去りにくくなる!

 まぁ別にいいか。逃げたって言われるかもしれないが、俺が負けたって事実を見られるよりかは何倍もマシだ。



 リスクを割り切った俺は深呼吸をして平静を保ち、そのまま気にせず門を出ようとする。

 だが、背後で魔力を感じ、俺は反射的に振り返ってしまった。そこには自分の杖の先端を魔力で光らせているラゾの姿があった。



「魔法・雷鉄砲(ライトニングシュート)!!」



 彼が唱えるのと同時に杖の先端には黄色の魔法陣が浮かび上がる。そして中心から光の閃光が辺りを照らしながらこちらへ高速で向かってくる。

 俺を狙っているのだと瞬時に分かった。だが、俺の身体は動かない。肉体が、俺の意識についていけなかった。


 閃光は俺のお腹に当たると、全身へと広がり小さな釘を刺されるかのような激痛に襲われた。



「ガッ!...グワァァァァァ!!」



 魔法を防ぐ事も避けることも出来ない俺は、その魔法を受けて痛みに耐えることしか出来ない。全身の激痛を感じるが、飛びそうな意識を何とか保ち、魔法が俺の身体から消えていくまでは何とか立てていた。

 だが、すぐにその場でヘタリ込み、息を激しく乱していた。



「あはは!!ほら、見てみろ皆!ワシの言った通りだろ!?勇者候補レベルの男がワシの魔法も躱すことも防ぐ事も出来なかったぞ!?ワシがいくらSクラスと言ってもこれは流石に言い逃れができまい!!」



「うわ....ラゾさんの言う通りじゃんか。マジかよこいつ...俺達をずっと騙してたのかよ。」



「演技なわけないもんなアレ。ラゾが言うにはロックウルフすら倒せなかったんだろ?....知らなかったとはいえ、あんな弱い奴に俺達は今までペコペコしてて、アイツらは鼻高くしてやがったんだろ?許せねぇぇ!!マジムカついてきたぞ!!」



 積もりに積もった怒りが爆発したかのように、ラゾの周りの冒険者は怒号のような声を上げ、俺達を睨みつける。その目線に俺だけでなくゴルド達も顔を真っ青に染め上げた。


 すると、先程まで俺の味方をしてくれていた茶髪の子達は目を見開いて俺に近付いてきた。



「ほ、本当なの?...あんた達....偽物?」



「違う....お、俺達は」



「いい加減目を覚ましな姉ちゃん!!こいつらは実力も無いくせにベグドの名を偽り、美味い酒や飯や栄光を奪ってんだ!!姉ちゃんも良いように利用しようとしたに決まってる!」



 ラゾは嬉しそうに更なる追撃を放つ。俺の言葉などかき消され、彼女達の耳にはラゾの言葉しか入らなかった。

 暫く三人共放心状態だったが、茶髪の子は俺を睨みつけ、胸ぐらを掴んだ。

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