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捜索2

 俺はまず冒険者協会へと足を運び、ロワンがフリーの冒険者として登録しているのかチェックした。だが、ロワンは登録をした形跡は無かった。


 そうだろうな。ロワンはまだ気持ちの整理もまともに出来てないはずだ、そこまで頭は回らない。


 次に俺は協会内や街中の冒険者に片っ端から声をかけてロワンの痕跡を探す。話しかけた冒険者は皆俺の存在を知ってペコペコと頭を下げていた。

 気分は良かったが、ロワンが手元から完全に離れると、こんな愉悦は時間の問題だと焦りを感じてきた。


 太陽が完全に沈み、星空が辺りを照らした夜中にも俺は足を止めなかった。ロワンがパーティーから追放された地である酒場に顔を出し、そこでも聞き込みをするが、特に情報が得られなかった。


 俺は顔に脂汗をかきつつ、モモに酒を頼んでストレスを吐き出すように呑んでいた。夜、ここで三人と落ち合い、報告会をするよう決めてある。


 範囲は俺の方が広かったが一番乗りだ。三人は俺より入念に探していることに違いない。


 そう思うとホッとする反面、俺の聞き込みが甘いのかもしれないと不安に駆られる。俺はそんな不安を酒で消化することしか今は出来なかった。



 クソ...何で俺達がロワンの為にこんな事しなくちゃならないんだ。いつもなら今頃、あの受付嬢辺りを食っていた頃だって言うのに....これも全てロワンのせいだ。歳が重なるだけで身も心もガキみたいなアイツのせいだ。ふざけやがって....



 ロワンの不満を顕にしつつ、俺はヤケクソになるかのように酒を飲んでいた。すると、少し経ってゴルドとレネが酒場に現れた。早速成果を聞いてみるが、情報は無し。俺はその報告に心底肩を落とした。



「...しょうがないじゃない。ロワンは見た目もパッとしないモブみたいな奴よ?昨日の今日とはいえ、印象的に覚えてる人がいる方が珍しいわ。」



「違いねぇ。アイツは最初の頃からパッとしない奴だったもんなぁ。もしかしたらガキに見られて保護されてんじゃねぇのか?ガハハハハ!!」



 ゴルドは元気に笑うが、表情が浮かない俺を見て気まずそうな顔をしている。それが伝染したのか、レネも目線を落とした。



「....ウラロはちゃんと探してるのかしら?あの子が一番心配よ。疲れて寝ちゃってても違和感ないもの。」



「そうだな...だが、今はウラロを信じるしかない。ウラロがロワンの情報を持ってきてくれる事を....」



 俺は辛い現実から逃げるように酒を飲む。飲んでいないとやっていけなかった。ウラロが来た時の報告が悪いものだった場合の逃げ道が、酒しか思いつかなかった。



 三人が揃ってから半刻経った頃、待ち望んでいたウラロが酒場に姿を現した。キョロキョロと俺達を探し、視界に捉えると子供のように笑顔で駆け寄ってくる。


 俺はまさかと先走ってしまう。



「ウラロ!見つけたかアイツを!!?」



「それよりも!三人共、何でお酒飲んでるの!?ウラロがこんなに頑張ってたっていうのに、三人共真面目に探さないで待ってるだけって酷いよ〜!」



 頬を風船のように膨らませたウラロは俺達を恨むような目付きをしていた。完全な勘違いなのでゴルドは呆れながらも額をポリポリと齧った。



「そんなんじゃねぇよ....お前が来んのが遅かったから待ってたってだけだよ。俺達も一生懸命探したんだぜぇ〜?」



「そんなのは今はどうでもいい!ウラロ、ロワンの足掛かりは見つけたのか!?」



 俺は机に身を乗り出してまでも必死に食いついた。そんな俺の必死さに驚きつつも、気まづそうにウラロは口を開いた。



「う〜ん...見つけたっちゃ見つけたんだけど、そんな大した事じゃないかも...」




「それでも構わない!だから、教えてくれ!」



「う、うん。東の大門の警備してた人がロワンを見かけたんだって。少し大きめの荷物を持ちながら、もう一人の誰かとこの王都を出ていったって。」



 初めて得ることが出来たロワンの状況。それが王都の何処で見かけたではなく、王都という籠から出ていったという最悪な情報だった。籠から自然へと帰っていった小鳥を探すのは無謀に近い。

 俺達の淡い期待が打ち消された。



「...ちょっと待って?ウラロ、もう一人って一体誰のこと?その人分からないの?分かれば、もしかしたらやりようがあるかもしれないわ。」



 レネの質問に俺達はハッとした。ロワンが王都から離れたことが衝撃過ぎて気にしていなかったが、誰かロワンと共に行動している者がいるのだ。それさえ分かれば....


 だが、ウラロの口からは俺達の希望を閉ざす言葉が出てきた。



「わ、分かんないよぉ〜....見かけたのは夜って言ってたし、もう一人の誰かはフードを被ってたらしくて....」



「そんな...じゃあもう本当に手がかりはないのね。ロワンの奴は勢いで王都を出ていったから、行き先を誰かに伝える暇なんて無いわよね?この王都でいくら聞き込みしても無意味...ロワンがふらっと帰ってくるまで、私達は何も出来ない...」




「マジかよ...じゃあ俺達これからどうすればいいんだよ!俺達は今一番の期待の星であるSランクパーティーなんだぜ!?そんなのが明日から急に低ランクの依頼なんてやり始めたら....それで俺達の実力が知れ渡ったりでもしたら....畜生....ロワンのせいで散々だ!!」



 三人共頭を抱えて絶望していた。その言葉は俺の頭を何度も巡り、心臓がバクバクと爆発するかのように鼓動していた。


 そうだ、俺は悪くない。全部ロワンのせいだ...アイツが居なくなるのが全部悪い....俺は間違ってもないし悪くもない....



 三人とは違う絶望感を感じていた俺は呼吸が荒くなる。何度も自分の中で自分を正当化し続け、平常を保とうとした。すると、俺はあることに気がつき、ポツリと呟いた。



「いや...ロワンの行き先は検討が着く。」




 その言葉に三人共凄い勢いで反応する。目を丸くさせて驚愕し、レネは恐る恐る声をかけた。



「どういうこと?....ロワンの行き先なんてなんで....」



「アイツは王都を勢いで飛び出したんだ。別に目的も何も無い....そんなアイツは何処へ行くか、真っ先に思いつくのは故郷じゃないか?アイツはきっと、自分の故郷に向かって進んでるはずだ。」



 俺の推測に納得したのか、先程までの暗い雰囲気は少しだけ明るくなる。だが、ここで変なところでキレるレネか口を開いた。



「でも、ロワンの他にもう一人いるのよ?ソイツが連れてっちゃう可能性が高いんじゃない?」



「そうだな...だが、ロワンの奴は必ず故郷へ帰る。故郷にはアイツを小さい頃から面倒見てたババアが居るからな。ロワンはあのババアに懐いていた。何かあったらあのババアに報告が行く。

 つまり、もしロワンが居なくても情報を得る可能性は高いんだ。」



「マジか!!じゃあ早く行こうぜ!!ロワンの近くにいた奴がどんな奴か分からない以上、早く行動した方がいいだろ!」




 ゴルドの声を合図にレネとウラロはすぐに立ち上がるが、俺だは一向に立ち上がろうとはしなかった。そんな俺を見てレネは溜め息を吐いた。



「あんた...何やってんのよ。早くロワンの所へ行かないと。酒で酔ってる場合じゃないでしょ?」



「忘れたのかよ?俺達の最大の難関はロワンを見つける事だ。見つかっちまえばどっかに取り込まれようがどうにでもなる。何度も言うが、アイツはアホみたいにお人好しだからな。」



「それはそうだけど....」



「まだある。もし俺達が急いでて、早くにロワンの故郷へ着いたとする。そん時にロワンはババアに連絡しなくて俺達が出てった後に丁度来たなんてのも有り得る。変に急いで早く行くより情報を確実に得る方がいいんだよ。」



 俺の発言に三人共顔を暗くさせるが、俺の言葉に納得する部分があるのか変に口出しすることは無かった。



「だから、出発は明日からだ。今日はそれよりも呑もう!!ロワンのアホの情報が入ったってだけでも吉だ!!お祝いといこうじゃないか、ウラロの働きに!!」



 そう言われると気分が悪くないのか、ウラロは照れながらも席に着く。そんなウラロを見てレネもゴルドも席に着く。



「よし!おーいモモ!!こっちにウラロの分の酒をくれ!!」



「はーい!....はい、ウラロちゃん。」




 こっちの事情を知らない彼女は微笑みながらウラロに酒を渡す。すると、モモの姿を見てゴルドはすぐに頬が緩んだ。



「あ!モモちゃん!居るなら言ってくれよ〜。俺の分持ってきたのなんて見たことも無い奴だったんだぜ〜。」



「無茶言わないで下さいよ、忙しいって昨日いったじゃないですか〜。」



 ゴルドの調子よさにレネもようやく頬が緩み、ゴルドを見て鼻で笑いながら酒を啜った。


 一度は見放されたかと思ったが、神は俺を愛してくれてるようだ。こんなにも早く順調にロワンの痕跡を見つけるのは天からの啓示でしかない。


 その日の俺たちは思う存分酒の味に酔いしれていた。


 翌日、俺達は二日酔いに頭を痛めながら遠征用の準備をし終えた。陽の光は真上から俺達を照らし、雲すらない晴天だった。


 俺は昨日感じていた神の啓司をより一層確信するのだった。



「それにしてもよ、ここからロワンの故郷まではどれくらいかかるんだ?ってかなんで知ってんだ?」



「ロワンの故郷まではここから一〜二週間程度ってところにある。ロワンと出会ったのは王都の冒険者協会だが、その時に故郷にも招待された事がある。道のりは知ってるさ。」



 俺達は俺を先頭にして王都の東の大門を抜けようとした。するとそこでこちらに向かってくる何人かの足音が聞こえて振り返ると、二日前に俺と夜を共にした女三人がいた。



「...どうかしたのか?」



「ベグド様!!あの、私のパーティーにいたカリって子知りませんか!?初めてお会いした時に挨拶にこれなかった眼鏡をかけてる子で!」




 真ん中の茶髪の子にそう言われて俺は記憶を辿ると、ぼんやりとその子の事は覚えていた。

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