捜索
俺達はクエストから真っ先に宿へと向かった。クエストを受注したが急ぎの用があって出来なかったという理由を付け、本来しなければならない協会への報告は後回しにした。
帰り道はハッキリ言って地獄だった。誰も話せない雰囲気がずっと漂い、背中で感じる仲間達の疑念と放心。俺はそれらが針となってチクチクと背中を刺してくるようで不快感が凄かった。
宿に帰って各々荷物を個室へ置いて、食堂にて向かい合う形で座っているが何も話せない。これからの事をよく仲間内で話しとかなければならないのに第一声が出せない。無論、それはリーダーである俺の仕事だが、俺は沈黙だった。
話したいことは山ほどあるが、何から話していいのやら....少なくとも、ロワンの実力を知っていたことだけは隠し通さないといけない。
「...お前達は知ってたか?ロワンが実は優秀だったって事を....」
俺がそう聞くと三人共首を横へ振った。リーダーなら聞いて当たり前の質問だが、俺にとっては至極当たり前。聞かなくても分かる質問だ。
「そうか...三人共分かってるとは思うが、今のままだとかなりマズイ....仕事はおろか生活までもが激変するだろう。今まで良い汁を吸ってきた分、惨めになる....」
「そんなの私は絶対に嫌だから!!やる事なんて決まってるでしょ!?早く新しいサポート役の冒険者を探さないと!!」
「無理だ。Sランクのアイツが居てもロックウルフに苦戦するんだぞ?ラゾは憎たらしいがアイツを遥か上回る奴なんて存在しない....ロワン以外は...」
俺の言葉にレネは整った顔を苦悩で歪ませる。今にでも泣きそうな顔を見て、俺は心臓が握られるような感覚になる。
「だから、俺達がいつものように暮らすにはロワンは必要不可欠だ。...ロワンを探し出して、パーティーに入れ直すしか道はない。」
「そんなの無理なんじゃねぇのか?追い出したのなんて一年とかじゃない、昨日だったんだぜ?例え見つけたとしても戻ろうなんて考えないんじゃないか?」
「かもな。だが、本当にそれしか選択肢がないんだ!俺達がSランクパーティーとして冒険者の象徴になり、英雄視されるには...」
三人とも俺の言葉が理解出来ていても、諦念が現れていた。ただ追い出すならまだしも、俺達はロワンに罵倒を浴びせた上で周囲の人間と共に酒を一斉にかけたんだ。俺なら、どんなに説得されても戻らない。
だが、ロワンならまだ希望はある。あいつは根っからのお人好し、涙の一粒でも見せればグラつく筈だ!
自分自身の中で見えた僅かな希望に俺は縋った。そうすると、自分の望む展開になっていく想像ばかり考えるようになり、成功出来る気がしてきた。
すると、そんな俺の気持ちが伝染したかのように、レネがポツリと呟いた。
「でも....これって私達だけが悪いわけ?ロワンだって...」
「!そ、そうだよ!!ロワンが実力をウラロ達に教えないで黙ってたのがいけないんじゃん!!それならロワンが一番悪いじゃん!!」
「そう言えばそうだな....よくよく考えればそうじゃねぇか!あの野郎、何考えてんだ!!何にも考えてないような面して俺達を哀れんで見てると思うと腹が立つぜ...いくら強くたって関係ねぇ!ぶん殴って無理矢理パーティーに入れさせようぜ!!??」
三人は俺の想像とは逆方向に進路を向け始めた為、俺は慌てた。なぜならロワンが実力を隠している理由には俺も干渉しているからだった。
「ま、待てよ!考えても見ろ、ロワンの奴がそんな度胸あると思うか?ロワンなら自分の実力なんて把握してないに決まってる。
そんな状態なのに殴ってみて全然効かなかったら、気付いてもなかった実力を認知しちまう。そうなったらこっちに戻ってくる可能性はゼロだ。」
「そ、そうだな。確かに....その通りだ...」
ゴルドは自分の熱を抑えながらも納得してくれた。俺は軌道修正が上手くいったことにホッとし、三人を真剣な表情で見つめた。
「いいか?昨日俺達はやり過ぎたって自覚した。冗談でやった事なのにロワンが姿を消すなんて想像もしなかった。ロワンが居なくてバランスが悪いから、戻るよう話し合ったってことで行くぞ。場合によっては報酬の取り分も増やそう。」
「それ本気?場合によってはロワンを上げなくちゃいけないわけ?私、嫌なんだけど。早く戻れって前みたいな強気でいいんじゃない?」
レネは呆れたように発言する。綺麗な容姿以外はまるでダメ。
嫌だからしなくて、戻らなかったら意味無いだろうが....
「嫌な気持ちは分かるが、そうは言ってられない。俺達じゃあロワンを無理矢理パーティーに入れることなんて出来ない。アイツ自身の足で俺達の元へ来させなきゃ意味ないんだ。」
「...戻ってきたらまたパシリ扱いされるのにな。自分の方が強い癖して、俺らに良いように利用され続けるってか。」
ゴルドがニヤケながら呟くと、その言葉を聞いたウラロとレネからも笑みが浮かんでくる。
自分の本当の実力が分かり、現実を突きつけられてさっきまで絶望していたっていうのにこの復活。俺も自然と笑みがこぼれた。
「ククク、そうだ。もう一度戻ってきたら絶対に逃がさない。俺達がくたばるまでこき使ってやるさ。そうだ、誓約書みたいのを書かせよう。『どんな事があろうと、二度とパーティーを脱退しません。脱退した場合はそれ相応の罰金等を支払います』っていう感じでな。」
「いいじゃんそれ!でも、そんな誓約書って意味あるの?ウラロお馬鹿だからよく分かんない〜。」
「意味はあるさ。俺達が独断で作る誓約書だが、あんなお人好しだとそんな紙切れ一枚があるだけでビクつくもんだ。余裕だよ。」
三人の笑顔が影響しているのか、俺はもう既にロワンが戻る前提の話を流暢に話していた。
ロワンは人に強く当たれず自分で何かを決めることを苦手としている人間だ。ちょっと大声出しただけで顔色悪くする程の弱気人間、俺達の元へと戻らせるのは至極簡単な事だと確信していた。
「そうなんだ〜。じゃあ早くロワンを探しに行こうよ。何処にいるの?」
ウラロの一言に俺はハッとし、舞い上がっていた自分を戒めた。
俺は何考えてんだ。今まで話していたことなんてロワンが見つかる前提の話だ。ロワンは今はフリー、人数足らずで冒険者を急募している数欠けの新入りパーティーにとっては絶好の相手だ。ランク的にも強くも弱くもないんだからな。
「分からない。だから、早速動き出そう。この街を片っ端から探して、誰よりも早く見つけないといけない。他のパーティーに入られたりでもしたら終わりだぞ。」
「そ、そうじゃんか!急がねぇと!クソ....ロワンの野郎、面倒かけさせやがって!」
「散り散りになって探そう。ゴルドは北、ウラロは東、レネは西だ。俺は南と中心部を探す。時間が無い、すぐに動き出すぞ。」
俺の指示に三人は真剣な表情で頷いた。三人共、一応危機感を得ているようで、俺は少しホッとする。ゴルドは大丈夫だが、ウラロは気分屋でありレネはめんどくさがり屋だ。探すのをすっぽかす可能性がかなり激減したようで安心した。
こうして俺達は宿を出て、ロワンを探す為に街中を歩き回った。