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屑人間

 大きな扉を切り裂き、俺は再び広間へと戻ってきた。そして顔を上げると、呪いで苦しみながらも俺を逃がす時間を少しでも稼ごうと戦ってくれていた三人の顔。三人とも幽霊を見ているかのように目を丸くし、その先にいるナガールは首を傾げていた。



「戻ッテキタノハイイ、ダガ何故傷ガ癒エテイル?ソシテソノ表情ハナンダ?怒リヤ憎シミデ染マッテイナイ、スッキリシタヨウナ表情ハ。」



「ハッ!お前が知りたがってた天使様の御加護だよ!なんて言ったら納得するか?」



 俺は動揺するナガールを鼻で笑い、足を進める。ゴルド達の間を抜け、血みどろの道を歩いた。すると、ゴルドが声をかけてきた。



「何で....何帰ってきてんだよ!お前は...生きなくちゃいけないだろ!?」



「ゴルド、俺に触れるなよ?呪いが俺にもかかっちまうぞ?」



 ゴルドも相当の覚悟を持っていた。故に俺が前に立つのはゴルドの覚悟の裏切り行為、戦いに戻ってきた俺に思わず触れようとしたゴルドは焦って手を引いた。



「....ありがとうなお前達。俺を逃がす為に...でも、すまないが逃げることは出来ない。お前達以外に俺を受け入れてくれる所なんてないんだからな。」



 俺は三人に軽く頭を下げると、大剣を手にナガールに近付く。

 無傷な俺を不思議そうに観察していたナガールだったが、近付いてきた俺を見て意識を切り替える。黒い瘴気をより濃く身体から発生させ、俺の攻撃に備えた。



「マァ別ニイイ。追イカケル手間ガ省ケタ。仲間ト共ニ暗黒ナ死ノ谷底ヘ落トシテヤロウ。」



「そうか。じゃあお前も仲良く落としてやるよ。仲間の仇、討たせてもらう。

 最初から飛ばすぞ...スキル・神速(ゴッドラッシュ)!!」



 青い粒子が俺を包み込み、足に力が入る。いつも通りだが、今の俺は違う。今まではスキルの疲労を考慮し、少しでも長く戦えるようにセーブしていた。全力を出す時はそんな事すら考えられない窮地に追いやられてないとしていない。

 つまり、俺は全快状態での神速(ゴッドラッシュ)は試したことがない。正直、ナガールに通用するかは定かではないが、俺は少しワクワクしていた。


 その興奮と共に、俺は勢いよく全力で踏み込む。自分の想像以上の速さのまま俺は奴の右足を切り込む。奴の魔法の防護服のせいなのか、大したダメージは与えられない。しかし構わない。力じゃダメなら手数だ。


 俺は奴の全身のあちこちに飛び回り、そして大剣で斬っていく。奴から発生してくる黒い瘴気に注意しながら全力で走り、大剣を振るう。

 目まぐるしく変わる景色にはナガールの顔がちょくちょく見える。奴は俺のスピードが捉えられず、困惑している様子だった。




「グォォォ!何ナノダコノ速度ハ!!異常ダ!!コレモ天使トヤラノ力ナノカ!?」



「違ぇよ!これはそれよりもっと上、神さんから貰ったもんだよ馬鹿野郎!!」



「グッ...コレホド速イトハ....瞬間移動(テレポート)!!」



 余程余力がないのか、今まで無詠唱だったナガールの初詠唱魔法は緊急脱出魔法だった。俺の剣撃の嵐から少しでも逃れ、遠距離攻撃に徹したいのだろうな。

 だが俺は、奴が移動したのを見た瞬間に移動。奴が魔法で移動してこちらを振り向くのより、俺が到着する方が早い。


 折角逃れたのに再び斬撃の嵐に見舞われる。ロクに手を挙げることも出来ず、ナガールに出来ることは自身に纏っている防護服の強化だ。しかし、俺の手数に強度は追い付かず、本体の骨にまで切り傷が及んでくる。



「グガァァ!!貴様...イイ加減ニ離レロォォォ!!」



 ナガールから発生させる瘴気を更に増幅させ吹き出させた。俺はその瘴気から一旦離れると、奴は瘴気を操り、自分の周りを囲むように瘴気の壁を設置した。

 どこからも抜け道がなく、ただ奴が瞬間移動(テレポート)で逃げるのを黙って見ることしか出来ない。しかし、それは通常の人間だった場合に限る。


 俺はそんな死の壁を作り出したナガールを鼻で笑い、前へと再び走る。そしてその呪いと死を呼ぶ瘴気の壁に飛び入った。一瞬で俺の身体がを呪いによる激痛が駆け巡る。俺自身覚悟はしていたが、その覚悟すら根本的に根こそぎ奪ってしまう程の痛み。

 正直危なかった。呪いを受けて血管が真っ黒に染まり、大剣を振り上げた俺を見るナガールの間抜け面を見なかったら。



「ナ、何ダト!?貴様!!」



瞬間移動(テレポート)で逃がさねぇよ!!ここでお前を斬る!!」



 俺が振り下ろした大剣の斬撃をナガールは両掌で受け止めた。防護服の件もあるが、俺の呪い影響で力が出ずらくなっているのもある。しかし、徐々に、確実に奴の掌を斬っていく。



「馬鹿ナ!何故ダ!?生キタクハナイノカ!?逃ゲレバ生キ残ルダケデナク、コノ我ヤ魔王様スラ倒セタノカモシレナイノニ....死ヲ受ケ入レル意味ガ分カラナイ!!」



「........生きたいさ。生きていたいさそりゃあ。普通だったら、仲間が命を使ってでも生み出した時間、無下にしちゃいけない。でも、俺にはそれが出来ないんだよ。仲間の仇が目の前にいるのに、こんな障壁を前に立ち止まれないね。





 ............だって俺、屑人間だから。」



 俺の大剣が奴の両掌を斬り、そして奴の頭に刃が食い込む。そこからヒビが生まれ、浸透し、奴の頭蓋骨がヒビだらけになっていく。



「我ガ...コノ我ガコンナ...コンナ所デコンナ奴ニ...負ケルトハ....イズレ全テヲ手ニスル筈ダッタコノ我ガ!!」



 最後の足掻き、ナガールから魔力が感じられたその時、俺は最後の力を振り絞って大剣に力を込める。大剣は俺の力と思いに応えるかのように、ナガールの頭の中へ侵入。そしてそのまま落ちるように下がっていく。骨を斬り、砕き、ナガールを一刀両断。


 奴は半分に割れたのと同時に、黒い瘴気に包まれながらボロボロと消えていく。残ったのは、奴が身につけていた宝石だけだった。



「はぁ...はぁ...ロワン、仇をとったぞ。」



 俺は大剣をその場で捨てるように置くと、ブレスレットを手の上に起きながらそう呟いた。

 すると興奮で多少は紛らわせてくれていたのか、呪いの痛みが激しくなっていく。俺は思わずその場で片膝を崩し、心臓を抑えた。


 ち、ちくしょう....痛すぎだろコレ...やっぱ、ナガールが死んだとしても呪いは消えないか....


 呪いによる苦しみに一人悶えていると、誰かが近付いてきた。俺はしんどく感じながらも顔を上げた瞬間、目の前に来たゴルドに殴られた。



「お前!ふざけんじゃねぇよ!....俺達の...俺達の気持ちを無駄にしやがって!」



 ゴルドから放たれた拳は弱かった。子供すら泣かせることの出来ない弱々しい拳、だがかつて味わったことの無いほど俺には痛い拳だった。



「す....すまな...い。」



「すまないで....済む問題じゃ....ねぇだろうが!!」



 ゴルドは更なる追撃をしようと拳を振り翳すが、ウラロとレネが彼を止めた。



「やめてよゴルド...最後まで喧嘩とか...ウラロ....やだよ。」



「そうよ....こうなっちゃったん....だからさ。...責めるのは...やめましょう。」



 二人に止められ、諭され、ゴルドは俺を睨みつけながら振りかぶった拳を下ろした。そんな彼の思いは当然だし、罪悪感が俺の中を満たしていく。俺はゴルドに再び謝ろうとしたが、ゴルドが悔しそうにしながら涙を流しているのを見て言葉が止まった。



「ちくしょう....自分が情けなくて...しょうがないぞクソったれ。

 俺....ベグドが来た時...ふざけんなって思ったけどさ....正直、馬鹿みたいに嬉しかった。俺達のために...戻ってきてくれたんだって....」



「ゴルド....」



 ゴルドはその場で両膝をつき、俺に土下座をするかのように泣いて悔しがっていた。そんな彼を見ていると俺も胸の内から感情が湧いて出てきて、目頭が熱くなる。

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