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天使様

 俺のせいだ。その単語が頭の中を駆け巡り、染め上げ、支配していく。とてつもない罪悪感は俺に胃液を吐き出させ、涙を流させた。


 苦しんでいる俺達とは正反対、ナガールはそんな俺達を眺めながら不気味に笑う。



「フッフッフッ...相変ワラズ、人間ハ良ク踊ルナ。何度見テモ飽キル事ハナイ。

 ソウイエバ、確カロワンモソウダッタ。幸運ノブレスレットノオカゲカ、我ノ呪イニ対シテカナリ抵抗シテ、中々死ナズニ攻撃シテキタ。我ヲ倒シタイトイウ願イニブレスレットハ応エタンダロウガ、奴ハソノ分苦シミ悶エタノダカラ皮肉ナ話ダ。」



「貴様....貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 失われた力が戻っていく。喪失感によって空いた穴が怒りという灼熱に埋まっていく。その怒りは俺に力を与えるのと同時に考える力を燃やし尽くす。特攻、作戦なしの特攻。ただ近付いて思う存分切り尽くしたい、その願いしか浮かばなかった。


 すると、俺は背後に何か強い衝撃を感じた。そしてその衝撃はすぐに俺を包み、拘束する。その衝撃の正体は半透明の大きな手、ゴルドのスキルだった。

 ゴルドは苦しんで倒れているロワンの横で立ち上がり、黒い血管を浮き出して吐血しながらも立っていた。



「良かった...ぜ。スキル越しは...呪いが伝わんない読みは....当たってた。」



「ゴルド....お、お前....」



 彼が今どれ程の痛みと戦っているかは分からない。だが、それでも今彼が立っているのは奇跡に近いというのは無知な俺でも分かった。驚愕を顔色に表した俺をゴルドは鼻で笑うと、ナガールと逆方向に走っていった。掴まれてる俺もそれと同じく移動され、ゴルドは俺をナガールがこの広間に来た時の大きな扉の中に投げ飛ばした。


 俺は抵抗できずに投げ飛ばされ、ゴロゴロと何回転も床を転がった。すると、この広間へ繋がる大きな扉が閉まり始める。ゴルドの手によって。



「な!ゴルド!!」



 俺はすぐに立ち上がって広間に来た時と酷使している洞窟を駆け、閉まろうとしている扉に向かって手を伸ばす。


 しかし俺の手が止まる前にその扉は閉まり、鍵がかかったかのような音が聞こえる。嫌な予感がして俺はその扉に勢いよく体当たりをする。しかし、それは壁のように強固でありビクともしなかった。



「く、クソ!おいゴルド!何ふざけた事してんだ!ここを開けろ!開けてくれぇ!!」



 俺は扉に拳を叩きつけながら扉越しのゴルドに向けて叫んだ。すると、それに応えてゴルドの声が聞こえてくる。



「駄目だ。....俺達は助からない。でも、お前が逃げる時間は...稼いでみせるよ。」



「誰が....誰がそんな事頼んだんだ!俺も戦うんだ!!お前らを見捨てて逃げることなんざ出来ない!!」



「前のお前だったら...すぐに逃げてただろうに....ったく、力つけた分変に頑固になりやがって。

 いいかベグド...コイツは強大だ。....コイツには対策が必要なんだよ....ロクな対策が立てなかったから...コイツは誰にも討たれなかったんだ。対策が立てないのは...誰もアイツの強大さを知らないからだ...知った奴は死んでるからだ。でもお前なら....」



「ふざけんな!そんな伝書鳩みたいな役割の為だけにお前達を見捨てれるわけないだろうが!!そんな役割アイツ倒した後でいいだろ?

 アイツの言うことを信じるな!!アイツ倒したら呪いも必ず消える!!だから、お前の口から武勇伝として語ろう!そうだろ!!?」



 俺はゴルドに扉を開けてもらおうと必死に叫んだ。確証がないと知りながらも、少しでも開けてもらえる可能性があるならと叫び続けた。



「だから開けてくれ!お前達を助けさせてくれよ!!こんな所でお前達を見捨てたら、俺は何のためにここまで....」



「....馬鹿野郎、何だよそれ。まるでここがゴールみたいな言い方...しやがって。お前は魔王を倒して....色んな人を助けて...天国にいるロワンに謝りたいんだろ?

 魔王ってゴールがあんのに...無理して出てきて戦うより...新しくてもっと強い仲間を連れてきた方が...余っ程勝機あるぜ....」



「新しい仲間....そんなのできるわけが無い。お前達以上の仲間が見つかるものか!お前達はこんな屑を...こんな屑人間に人生滅茶苦茶にされたのに、俺を受け止めてくれたんだ!

 この世界どこ見つけたってお前達以上の仲間なんて見つからねぇよ!!」



「嬉しいこと....言ってくれるじゃねぇか。なら、俺達の復讐の為に....その分頑張ってくれるって事だよな?

 生き残って...必ず打ち倒してくれ。俺達の...ロワンの仇。そして魔王を....

 ロワンの元に行けるかどうか....地の底から見守っててやるからさ。」



 そう言い残し、ゴルドの声は聞こえなくなった。俺はその後も何度も扉を叩いてゴルドを呼んだ。しかし伝わってくるのは広間越しの衝撃と何かの叫び声のみ。



「ゴルド!皆!!...畜生、畜生!!何カッコつけてんだよ!!ふざけんなぁぁぁ!!」



 俺は泣き叫びながら自分の口で吐いた怒りの言葉をぶつけるように、大剣を強く握り締め、扉を壊そうと大剣を振るう。その時だった。



『やめろ、愚かなベグド。現実を認め、受け入れ、この場から脱出を優先に行動するのだ。』



 聞き覚えのある声が頭の中から聞こえてくる。耳から音が入るのではなく、頭の中で生み出され、頭の中で言葉として放たれている不思議な感覚。



「あ、アンタ....天使か!?」



『如何にも。さて、今問答は不要だ。あの者が作った脱出の機会、それに身を委ねるのだ。魔王軍がいつあの広間を、ここを覆い尽くすか分からない故、急ぐのだ。』



「だ、駄目だ!ゴルド達を放ってはおけない!!俺も戦うんだ!こんな所でアイツらを見捨てたら、それこそロワンに顔向けできない!!」



『そうかもしれんな。だが、そうした場合は顔を見ることすら出来んがな。』



 扉を叩き斬ろうとしたその時、天使の言葉が引っかかり俺は手を止め、天使の言葉に集中してしまう。



『貴様はあの試練を終え、それから何を築いた?いや、何も築いていない。村を襲う魔物を倒しても一時の恐怖から逃しただけ、王都では認めて貰っただけ、ここまで魔物を何体か倒したがそれまで。氷山の一角を削っただけにすぎず、未だ多くの人間が恐れ苦しんでいる。

 ここでナガールと戦っても勝ち目はない。運良く相打ちをしたとしても、人間に少しの安心感をもたらすだけ。魔王軍という巨大な恐怖の塊がほんの少し弱まるだけだ。』



「........」



『もしここで退き、万全な準備の後に機会を狙えば、ナガールは倒すこともできよう。そしてその先、魔王にすらその刃は届く。一時の感情で目的を見失うな、愚かなベグド。

 貴様の目的は天国に居るロワンとの再開なのだろ?それが叶うとするのなら、魔王を討ち滅ぼし、この世界に光を与える事だけだろう。

 さぁ愚かなベグド、彼らの命と意志を糧とし、魔王を滅し、かつての友に相見える事を願うのだ。』



 天使の言葉を聞いているうちに俺の頭はスッキリとしていた。後悔、恐怖、怒り、憎しみ、そんなものでゴチャゴチャになっていた頭が綺麗に掃除された感覚。俺の心は晴れやかだった。



「...ありがとう。アンタのおかげで目が覚めた。俺のやるべき事、やりたい事。今ハッキリと見つけた。」



『なら進むといい。彼らが身を呈して作ってくれた時間を無為にするでない。』



「....フッ、何勘違いしてるんだ?俺は戦う。アイツらの命を糧に出来るほど、俺の器は大きくないんでね。」



『何を....考えているのだ愚かなベグドよ?このままでは貴様は仲間とされる人物の命も意志を潰し、友と会える機会をも消し去ろうとしている。貴様はどこまで愚かなのだ?』



 天使にそう言われても何も苛立たない。自分の中の晴れやかさがその嫌な思いを全て消し去ってくれる。俺は大剣を一度床に刺し、胸に拳を置き、天井を見つめた。いや、天井より遥か向こうの景色を見るかのように。



「俺はロワンの顔を見たいんじゃない。ロワンと顔を見合わせた時、本当に悪かったって謝罪したいんだ。言葉でなく態度で...俺の人生をかけた行動を持って示したい。

 ここでアイツらを見捨てたら、俺は魔王を倒しても一生下を見続ける。だけど見捨てないとロワンに会えない。どっちか取らないといけないこの状況、選択肢に迷いはない。

 元々、俺はロワンと会えるような人間じゃない。高望みし過ぎだ...だから、俺はロワンが今の俺を見守っていると信じて、少しでも自分を誇りながら地の底へ落ちたい。」



『愚か....あまりに愚かな考えだな。ベグド。』



「そうだろうな...でも、前にアンタは愚かな俺を平等に接しようとし、俺の意志を尊重してくれた。

 なら、今度も尊重してくれ。愚かなベグドっていう一人の人間の意志をさ。」



 そこから天使の声は聞こえなかった。清々しい顔で上を見つめる俺に嫌気がさしたのか、声をかけるのも馬鹿馬鹿しく感じたのか....いずれにしろ、呆れられたってことだな。


 しかし、見つめていた天井から白い光が差し込んでくると、俺の身体を包む。傷ついていた身体とその疲労感が完全に消し去り、全快状態の俺に元通りになった。

 すると、再び聞こえる天使の声。



『そうとも。我は一人一人を平等に見、そして接し、その心を尊重する。自らの命をかけたその思い、そしてその想いがもたらす結果を我は見届けよう。

 我の加護を与え、傷を癒した。これで貴様は全力で戦え、この扉も破壊出来るだろう。』



「.......慈悲深き、光栄なる援助、感謝致します。天使様。」



『さぁ、行くのだベグド。己自身を糧とし、己が望むものを掴んで見せろ。』



 天使の加護と言葉を受け入れ、俺は大剣を握り締める。床から引き抜き、力を込める。死ぬかもしれない、勝てるかどうかも分からない戦い。それでも恐怖心はない。ロワンの仇を打ち、その先に待つ勝利を求め、大剣を振る。


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