軍団2
「フッ、ヴァグラ一体デコレ程生ミ出セルトハナ。ソレニ骨密度ガアルオカゲデ、スケルトンノ質モ良イ。
....我ハ貴様ラノ予想通リ接近戦ガ苦手ダガ、ソレデモ永年生キテキタ存在。ソウ容易ク倒セルト思ワナイデモライタイナ。」
スケルトン軍団は今生み出されたばかりだと言うのに、訓練された軍団のように整列や行進が合っていた。
ゾロゾロと何百単位のスケルトンが近付き、レネが声をかけてきた。
「どうするのよベグド。このスケルトン、今まで倒してきたように簡単に破壊出来るとは思えないわ。」
「だな。だがこの状況はそう悪くない。ヴァグラの骨はナガールの与えた分身一体で操ってるはず、雑魚はいくら斬ったって壊したって復活するだろうが、核さえ仕留めれば一気にそう倒れ。
ナガールの遠距離攻撃もかなり怖いが、俺達にとってヴァグラ一体で攻められるより余っ程やりやすい。だろ?」
「...そうね。まだアンタが萎えてなくて良かった。ナガールの攻撃次第で陣営なんてすぐ壊されるから、そんなベグドは大変だけど私達の動きを見て移動して。
それに爆弾はもうないから、核事一掃は出来ないわよ?」
「あぁ、虱潰しでやるしかないってことか。鬱になりそうだよったく。
...ウラロ!ゴルドの回復が終わったらレネと一緒に探知魔法で核を探してくれ!だけど相手は魔王軍幹部だ、巧妙に隠している筈だから、魔力が今後持ちそうになかったら諦めてくれていい。分かったな!?」
俺の声にウラロはゴルドを回復しながらも力強く頷いてくれた。
ゴルドの回復も順調に進んでおり、顔色も良くなった。今にでも飛び出てきそうな雰囲気が漂い心強い限りだったが、俺の心配はウラロにあった。
魔物の群れからずっと俺達の傷や体力、魔力を回復し続けている。彼女はそこまで魔力が豊富な訳では無い、これまでは敵を圧倒してきてウラロの仕事はあまりなかったが、ここまで連戦続きは俺達にとっても初めて。
レネは俺の事を生命線と言っていたが、ウラロはこのパーティーの心臓だ。彼女は普段からして子供っぽくてキツかったら必ず正直に音を上げるが、こういった真剣な状況だと逆に抱え込む。
俺はウラロの表情をジッと見つめて彼女の容態を見極めようとするが、一丁前に指示しているだけのリーダーには荷が重いようだ。メンバーの容態を察することも出来やしない。
過去の自分がどれ程酷かったのか分かりきってたと思ってたが、こんな場面でも悪い部分が浮き出てきやがる。
そんな後悔に顔を歪めるが、今はそれどころでは無い。すぐに意識を切り替え、目の前のスケルトン軍団に集中する。
そんな俺の臨戦態勢を待っていたかのようにスケルトン軍団の行進速度が上がった。走るスピードもその歩幅、足を上げるタイミングもピッタリな為、迫力よりも気味の悪さが勝った。
俺の役割はゴルドが回復し終わるまで三人の所へ敵を行かせない盾の役割。ゴルドのように上手くは行かないだろうが、ヴァグラの骨と言ってもたかがスケルトン。時間を稼ぐくらい出来るはずだ。
構える俺の目の前までスケルトン軍団は接近。そして間合いに入った瞬間、俺は大剣を振った。目の前の三体のスケルトンを宙に飛ばしたが、叩き斬るつもりで振った俺にはかなりショックだ。ヒビ程度しかダメージを与えられなかった。
だがそのショックと同時に俺は違和感を感じた。手元が気持ち悪くなるような嫌な違和感。
そしてその違和感の正体はすぐに分かった。俺が目の前で斬ったスケルトンの両隣にいたスケルトンの列は俺に攻撃せず素通り、三人の元へ真っ直ぐに行こうとした。
そして俺の目の前はと言うと、吹き飛ばした奴の代わりに新たなスケルトンが接近する。俺はすかさず大剣を振るうが、俺に吹き飛ばされるスケルトンは剣を構えもしない。
このスケルトン達の眼中には俺は写っていない。見続けているのは俺が守ろうとしている者達であり、その死体だ。
「ちっ!クソ、厄介な事を!!」
俺にはゴルドみたいな派手な攻撃手段がない。大剣を振り回してヘイトを集め、スピードで錯乱しながら斬り殺す。そんな俺の考えた盾の役割を全無視だった。
俺は急いでスケルトン軍団の先頭の前まで移動し、先頭の奴らを片っ端から叩きのめす作戦に変更した。
だが、その作戦もほぼ意味が無い。なぜなら斬ろうとしても奴らは頑丈で時間がかかり、何とか一体動けないように足を斬ってもすぐに再生する。
故にレネの援護射撃もただのオマケ効果、焼け石に水だった。
俺のスピードのおかげで何とかスケルトン軍団の進行を遅らせているが、数も減らずにジリジリと詰められる。三人も徐々に後ろへ下がらざる得ない状況で、壁際にてスケルトン軍団に嬲り殺されるのは目に見える状況。
その上、ナガールは魔法を放って三人の後方へ火の障壁を作り上げた。開戦してから大した時も経たずに、早くも俺達は詰んでいた。
「く、クソ!止まれ!止まれよクソッタレ共!!」
「大層ナノハ口ダケカ。ココマデ簡単ニ倒セルノハ想定外ダ。ヴァグラハ何故負ケタノカ?アンデッドトシテ蘇ラセ、問イ詰メテミテモイイナ。」
余裕であり勝利の笑みを浮かべるナガールの顔が俺の視界に映り、俺は歯軋りをする。それは悔しさによるものもあるが、覚悟を決めたことに加えて悔しさもまた意味が違った。
ここまで良いようにされてしまった...本当はああいう敵を分析するような奴にこんな序盤で見せたくないし、俺の体力問題もある。だがこのままじゃ負けは必須、やるしかない!!
「行くぞ!神速!!」
回復して貰ったがまだボロボロの範囲内。そんな疲弊した身体に鞭を打ち、俺はスキルを発動した。前線をなぞるように移動しながら次々にスケルトンを斬り飛ばす。
最早斬ることは考えない、如何に遠くまで飛ばして時間を稼げるかが重要。
しかし、ここまでやってもスケルトン軍団の行進が止まるくらいで、一瞬でも気を緩めればジワジワと押される。その癖体力と身体の疲弊は進行するからたまったもんじゃない。
「クソ!まだか?まだなのか!?」
心の中で思うような余裕はなく、心の声がダダ漏れになっていく。剣を振る左手が重りを乗せているように重い。ただの剣ではなく大剣、その上左手一本。ここまで大剣を握って振れるのが奇跡だ。こんな事になるなら、憧れで大剣にするんじゃなかったと後悔すら出てくる。
しかしそこで視界端に何故か吹き飛ばされるスケルトンが映った。当然俺の攻撃によるものではなく、その一瞬で俺は確信した。
「ゴルド!もう大丈夫なのか!?」
「へっ!正直かなりキツイ!全快の六割くらいだが、これ以上はお前が持ちそうにないからな!二人がかりで巻き返すぞ!!」
ゴルドは出し惜しみなくスキルを発動、巨大な腕を発言させ、スケルトンを手の中に包むと遠くへ放り投げた。
まるでゴミの掃除のように楽々と両手で包み、十体近くがあっという間に最後列へと飛ばされる。
その作業を見ていると、俺が頑張って大剣振っていたのが馬鹿らしく思えてくるが、ゴルドとしても楽ではない。スキルによる反動に加えて全快ではない、ゴルド自身もキツイのだ。
「大丈夫なのかゴルド!?」
「とりあえずはな!それよりベグド、お前もう神速引っ込めろ!その力はナガールの首を取るように取っとけ!この分じゃ、スキル無しでもいける!」
俺はゴルドの言葉に甘え、神速を辞めた。身体はそれでも回復する訳でもないのだが、痛めつけていた分楽な気持ちにはなった。