軍団
ナガールは信じていないようだ。寧ろそれが当たり前か...だが俺には分かる。この力自慢は俺と同じようにあの白い空間へ辿り着いたんだ。そしてそこでこのブレスレットを貰ったんだ。
「フッフッフッ...今思イ出シテモ笑エル。アマリニモ真剣ニ話シ、我ガブレスレットヲ奪ウト中毒者ノヨウニ目ヲ見開イテ手ヲ伸バシテイタ。マルデ洗脳...イヤ、アレハアンデッドノ類ダナ。
他ニ存在シナイコトハ断言シテイタカラ、我ハ川ニ放リ投ゲ、巡リ巡ッテ二度我ノ前ニ来タト言ウコトダ。」
「お前は...処分しようとは思わなかったのか?お前に敵わずとも多くの魔物を殺せるだろうこのブレスレット、何故捨てる判断をした?」
「簡単ダ、貴様ラノ自滅ヲ待ッタ。人間ハ強欲ダ、全テガ手ニ入ルト知ッタラ身ノ程弁エズニ上ニ手ヲ伸バス。ソレガ一国ノ王ニナリタイトスレバ反乱ガ起キ、一気ニ我々ハ攻メ入レル。モシ反撃シヨウトシテモ、我ニハ敵ワナイノハ知ッテイル。多少手コズルガ殺セル。」
「そうか...じゃあロワンはお前を呼んだってことか?自分の意思で....」
ナガールは俺の問いに少しの間、沈黙で答えた。先程まではすぐに反応してくれていただけにこの沈黙はかなり不気味だった。
「.......ヤケニ呑ミ込ミガ早イナ。モシカシテ、貴様ハ天使トヤラガ本当ニ存在スルト信ジテイルノカ?」
図星を突かれ、俺の身体から冷や汗が吹き出す。ビクンと身体が反応し、すぐに否定しなければという思いと共に天使への謝罪を直ぐに心の中で行った。
「な、何言ってやがる!そういう話の流れだから一旦受け止めていただけだ!本気で信じてるわけないだろ!?」
「ソウカ、残念ダ。ロワンハ天使ノ存在ハ本気デ信ジテイナカッタ、思イ当タル存在ガチラツイタコトモナイラシイ。モシオ前ガ知ッテイタナラ教エテモライタカッタ。ソノ天使トイウ幻覚ハドンナ姿ヲシ、何ヲ語ルノカヲ。」
ナガールが天使を侮辱した時、俺はかなりの怒りを感じていた。ロワンが侮辱された時同様レベルの怒りを感じ、今度は抑えることが困難だ。ブレスレットから手を離し、大剣を力強く構えた。
「この糞リッチ!殺してやる...ぶっ殺してやる!!」
「ホウ....ヤハリハッタリカ。アノ時ノ力自慢モソウダッタ。天使ノ存在ヲ侮辱スレバ、我ヘノ恐怖心ナドスグニ消エ、殺意ヲ秘メル目デ睨ミツケル。」
「当たり前だ!!ふざけたことばかり言いやがって!!断罪だ...断罪してくれる!!」
「断罪ネェ....今度貴様ノヨウナ存在ニ会ッタ時ハ天使ノ存在ヲ肯定シテミヨウ。ソノ怒リノ分、流暢ニ話シテクレルカモナ。」
ナガールの声色が変わり、いよいよ戦闘が始まる予感がする。ヴァグラから受けたダメージからしてかなり不利だがやるしかない。俺自身を燃やす怒りの炎を力に変え、何とか勝つ道筋を見出そうと心の中で強く誓う。
すると俺の肩に細く柔らかい手がポンと置かれる。それはレネだった。ナガールの動向を気にしながらも、俺に問い詰めた。
「アンタ、また突っ走ろうとしてんじゃないわよね?ヴァグラ戦で散々痛い目見たはずでしょ!?相手はリッチ、魔法主体の魔物と戦う定石覚えてんの?言ってみて。」
「...ああいう類は魔法が武器であり命。まず相手の棚を知った上で接近戦攻略。長期戦が妥当であり安全....だろ?」
「でしょ?なら突っ走る必要ない。相手は今まで戦ってきたワイト何かと比べ物にならないんだから、一発が致命傷になりかねない。だからまず様子を見ないと。」
「そうだな。だが、それでも行くしかない。今のゴルドが奴の攻撃魔法を避けれる保証はないし、魔塔の魔物の群れがある。今にでも突入したっておかしくないんだ。危ないと分かっていても、接近戦でアイツの手を塞ぎ、ゴルドが回復次第そのまま勢いで押し切る。
魔法が来たら一緒に逃げれるように、レネはウラロと一緒にゴルドの方へ。それ以外は援護射撃を頼む。」
俺の説得にレネはすぐに返事は出来なかったが、彼女自身も納得したのか溜め息を吐いた。
「はぁ〜...スキルは?私達に力を与えてくれるあのスキルはどうなの?魔物の群れの時からずっと発動しっぱなしだけど...」
「問題ない。スキル使用中は俺自身の体力が削られるが、神速に比べたら一割程度の疲労だ。お前達のスキルより、コスパは良い。
嘘じゃない。キツかったらヴァグラを倒したらすぐに解除しようとしてるよ。」
「.......分かった。アイツに操られてる訳でも無さそうだし、アンタの言い分はもっともだわ。ただ、危なかったらすぐに引いて。アンタは私達にとっての」
「生命線、だろ?分かってるさ。」
その言葉を聞いたレネはもう一度と俺の肩を叩いて後方へと下がった。俺はゴルドを中心に三人固まったのを確認し、未だ余裕そうに椅子に座っているナガール目掛けて踏み込んだ。
奴の実力はヴァグラ以上というだけで未知数。だがリッチなだけに接近戦は苦手なのは確かだ。それに加えて俺はスピード重視、相性を見ればかなり恵まれている。
神速は取り敢えず抑えておこう。だが危ない時に何時でも出せるよう心構えだけはする。まだ奴がどんな魔法を使うか分からないからな。
俺が接近すると、ナガールは未だに座ったままで右手をこちらへ伸ばす。すると魔法陣が掌から浮き出て、そこから火の玉が連続して飛び出してくる。
魔法・火球連射、王都で俺に絡んできたラゾが放ったのと同種だが、流石は魔王軍幹部。ラゾのよりも数もスピードも破壊力も桁違いだ。例えるならラゾは矢でナガールは大砲だ。
大砲の雨が俺に向かって降り注ぐが何とか見切ることは出来る。不安なのはその反応に身体がついていけるかどうかだが、問題なく動いてくれる。身体の疲労は俺が思っている以上に取れているようだ。
俺に当たらないのを見てナガールは同じ魔法陣から巨大なツララの雨を放った。火と氷の雨。ツララを出したから火の玉がその分消えていた訳では無い。数がそのまま上乗せ、単純に手数は倍になった。
段々避けるのもきつくなり、床に着弾する度に衝撃と土埃が視界の邪魔をし足元も悪くなる。だが俺はそれを何とか避け続ける。次第にカスってくるも、直撃は避けて着実にナガールへ近付いている。
よし!もうすぐだ!!もうすぐで奴の懐に
そう思った時、俺の真横から白い何かが飛び出してきた。前にしか意識がいかなかった為、急に来た真横の物体に反応しきれない。目で捉えたのと同時に俺はその物体に殴り飛ばされた。
ゴロゴロと真横に転がされ、ナガールの魔法の雨が俺を襲ってくる。
「べ、ベグド!!」
レネの叫び声が聞こえたのと同時に俺の目の前で何発かの火の玉が爆発。レネの弓によるものだとすぐに分かった。
爆風により俺は強制的に立つことが出き、それを利用して俺は神速を発動。惜しくはあるが、一旦距離を離した。
くそ、もう少しだったのに....俺を邪魔したのは一体なんだ?
俺は先程まで居た場所を見てみると、ナガールの前に立ちはだかる白い物体に釘付けになった。白い物体の正体は白骨化したヴァグラだった。真っ二つにした顔も一つに戻っており、ナガール同様薄い黒い瘴気を身にまとい目元には灯火のような光がある。
「我ニ死者ヲ蘇ラセレナイト思ッタノカ?マァ、コレハ蘇ラセタノデハナイ。コレハタダ骨ヲ入レ物トシ、我ノ意思デ動カセレルモノ。言ワバ操リ人形トイウ事ダ。
操ルト言ッテモ、骨ニ取リ憑イテイルノハ我ノ分身ノヨウナモノ。分身ハ我ニトッテ利益アル事シカシヨウトシナイ。蘇ラセテ洗脳シテ動カスヨリモ余ッ程楽デ信頼出来ル。」
「...味方同士なのに随分と信頼してないんだな。この状況をヴァグラが見たらさぞ怒るだろうな。」
「怒ッタカラ我ニ何カモタラスカ?死者ハソンナ力ハ持タナイシ、我ノヤッテイル事ハ魔王様ノ為ニヨルモノ。奴モ喜ブダロウ、例エ自分ノ身体ガ玩具ノヨウニ扱ワレテモ。」
ナガールは白骨化したヴァグラに対して左手を翳すと、ヴァグラがどんどん崩れていく。溶けていくというより分解、関節一つ一つがポキポキと折れ始め、ゴミのように積もった残骸となった。
すると、その残骸の山から人と同じくらいの身長のスケルトンが現れた。何の鎧も見に纏わず、剣もヴァグラの骨。それが何十、何百とゾロゾロと湧き出てくる。ナガールはヴァグラの骨を小型のスケルトン軍団へと変えたのだ。