対象変更
ゴルドの下手すぎる隠密に気が付いたヴァグラは自分が壊した床の瓦礫を持ち、レネとウラロに投げ付ける。二人とも俺のスキルで見えているのか、ヒヤヒヤしたが何とか避けてくれる。
しかし、その隙に俺目掛けてヴァグラが突進してくる。
「助ケハサセナイ!ソイツノ死ハ俺ノ安心感デアリ、オ前達ノ絶望だ!」
突進してくるヴァグラと、ようやく全力ダッシュに切り替えたゴルド。速さ的にもヴァグラの方が断然早い。しかし、そんなヴァグラの速さに対してもレネは対応する。すかさず矢を放ち、ウラロが慌ててスイッチを押す。
爆発はヴァグラの足元で起こり、奴は転倒した。そしてゴルドが俺の元へ来てくれた。
「す、すまないゴルド....俺のせいで...」
「あぁ。だからもう調子乗んなよ?今すぐウラロの所で回復して貰おう。」
ゴルドは動けない俺を背負い込むと、全力でウラロの元へと向かう。しかし、それをヴァグラが許すはずも無かった。
「行カセン。ソイツ諸共消エ失セロ!!」
ヴァグラは緑色の鱗がたちまち赤く染まり、口を大きく開くと中から巨大な爆撃が放たれた。熱風と熱気が凄まじい速度で俺とゴルドに当たり、巨大な爆撃が俺達に迫ってくる。
それに対してゴルドは逃げるでもなくその場で踏み止まり、歯軋りをして力を溜めた。
「ぉぉおおお!!スキル追撃!!」
ゴルドのスキルが発動された。すると自分のすぐ背後にゴルドの腕にそっくりな半透明な腕が出てくる。これが彼のスキルだ。自分にとってもう一つ腕であり、オリジナルより大きくパワーのある腕を発言させる。
「おぉぉぉぉぉ!!吹き飛ばせぇぇぇぇぇ!!」
ゴルドはその爆撃を受け止めるのではなく跳ね返す事を選択。力いっぱい踏み込み、全力の殴打を放つ。両拳による力とヴァグラの爆撃との衝突。
凄まじい衝撃が放たれ、俺はゴルドの背から飛ばされそうになったが、爆撃と戦っているにも関わらずゴルドはしっかりと俺を掴んで離さなかった。
凄まじい衝撃と熱風、呼吸をするのも苦しい中、ゴルドはヴァグラの爆撃に未だに弾けない。しかし徐々にヴァグラの爆撃の衝撃が弱まり、ゴルドは雄叫びを上げると爆撃は軌道を外れ、真横に飛ばされた。
跳ね返すというゴルドの希望は叶わなかったものの、何とか俺達は無事だった。汗水垂らして呼吸が荒れているゴルドは未だ俺をしっかりと抱え、俺はその姿に感動すら覚えた。
そしてヴァグラはというと、自分の放った爆撃が負けたのは計算外だったらしく、呆然としていた。
「マサカ...俺ノ技ガ....」
呆気に取られているヴァグラ。だが、先程俺を騙したようにこれが演技かどうかも分からない。俺はそんなヴァグラを不気味に見ていると、ゴルドは小声で話しかけてきた。
「ゴルド...ちょっと....いや、かなり痛い目見てもいいか?多分死なないと思うけど。」
「え?良いとは言えないが...何をする気だ?」
「ま、お前がなんて答えようとするけどな。....ウラロ!受けとれぇ!!」
ゴルドは俺の首根っこ掴むと、そのまま斜め上に放り投げた。俺は曲線を描くように投げ飛ばされ、ウラロの目の前で床へ激突した。
「ガッ!...クソ....痛てぇな...」
「あ!ご、ごめんベグド!キャッチ出来なかった!!ちょっとゴルド!?いきなりすぎ!!」
「いきなりもクソも言ってる状況じゃねぇだろ!?さっさとベグドを治してくれ!!」
「あ、うん!!いくよベグド...魔法・回復!スキル・重回復!!」
ウラロの回復魔法が俺のボロボロの身体に滲んでくる。傷は癒され、先程の激痛がスーッと消えていく。
思わず心豊かになってしまうが、今の状況がそうはさせない。ヴァグラは本気で放心していたようで、俺が投げ飛ばされるのには反応していなかったが、回復される俺を睨み付けていた。
俺は一瞬安堵してしまったが、これは絶望的な状況だ。盾役であるゴルドが疲労な上離れてしまって直ぐにはこれない。ゴルドが居らず俺が戦闘不能な状況でヴァグラの突進や爆撃を耐えられるのは誰も居ない。このまま引き潰されるのみ。
頼みの綱はレネの弓だ。ウラロは両手が塞がっているためスイッチを押せず、弓単独の攻撃でヴァグラの巨体を止めないといけない。言い方は悪いが、頼みの綱である反面あまりにも頼りない綱だ。
そして注目のヴァグラのとった行動は突進だった。あの爆撃は使って反動があるのか、使わずその巨体をぶつけてくる。
レネは既に弓を引いており、速い突進でも外さないよう狙いを定めていた。そしてゴルドも慌てて向かってくるが、それはあまりにも遅い。
全てはレネにかかっている。そう誰もが思っていた時、ヴァグラは予想外の行動を取る。
なんと、行き先は俺達ではなく、ゴルドの方へと向かっていったのだ。ゴルドは慌てて止まり、スキルで巨大な腕を構える。
そしてその腕に対して、ヴァグラは大きな右拳を放つ。ゴルドはその攻撃を少しの間受け止めれるが、力及ばず弾かれる。
「グァァ!く、くそ!」
「俺ニトッテノ不安源ハアイツデハ無クオ前に変ワッタ。アイツハ脅威デスグニデモ消シタイガ、オ前達ガソウハサセナイトスル。ナラ、奴ガ回復スルマデニ邪魔者ヲ殺ス。計算ダトオ前ガ二十秒デ、後ノ二人合ワセテ五秒ダ。」
そうしてヴァグラはゴルドに連撃を放つ。ゴルドは何とか対応しようとするが防戦一方。その上一発一発が耐えられていない為、既にガタガタでみるみるうちに崩れ、何発か危ないのを直撃していないとはいえ食らってる。ゴルドが血塗れになるのに時間はそうかからなかった。
レネはそんなゴルドに援護射撃を放ち、ヴァグラの背に矢が刺さる。だがどれもヴァグラの動きを止める効果は無かった。
「れ、レネ!何してる!!早くゴルドを助けてやってくれ!!」
「分かってるわよ!!だけど私の矢じゃ大したダメージにならない!その上....アイツ絶対計算してゴルドを襲ってる!!急所は鎧で守られてるし、背中からじゃ矢が当てられそうな目とか口に当てられない!!」
まるで自分の子供が暴君の暴行で痛ぶられるのを黙って見ているかのような虚しさを感じる。怒りを感じる。このままだとゴルドが殺されてしまう、そんな考えが俺を焦らせた。
「ウラロ!回復はもういい、俺がゴルドを助ける!!」
「駄目だよ!まだロクに動ける身体じゃない!そんな身体で行ってもベグド死んじゃうよ!!」
「その前にゴルドが殺される!!俺が行かなくちゃいけない!!もう仲間が死ぬなんて嫌なんだよ!!」
俺はウラロが掴んでくるその手を振り払い、ヴァグラに向かう。スキル・神速も使用し、いち早く向かわんとする。しかし、スキルの反動とボロボロの肉体が俺の身体を縛り、全然スピードが出ない。
だが、ゴルドの元へ行くには十分だ。今にでも倒れそうなゴルドの元へ辿り着ける....その時、ヴァグラは何故か攻撃を辞め、身体の向きを変えず後ろへジャンプした。ゴルドとヴァグラに俺が挟まれる形になり、ゴルドはヴァグラが離れたことにより緊張感が薄れたのかその場で倒れた。