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偽り

 鱗の棘は斬り落とし、鱗は徐々に剥がれ、段々血も溢れてくる。



「グォォォォォォォ!!クソガァァァ!!!」



 ヴァグラはあらゆる方向に拳を振り回す。その風圧からさながら台風のようだ。しかし、今の俺にとってはその台風すら心地よい。魔物を、しかも幹部を切り刻める。とてつもない快楽。セックスよりも気持ちがいい。


 次第にヴァグラから力がなくなり、怒りの怒号すらも掠れ声。次第にヴァグラは膝から崩れ落ち、観念したかのように首をだらーんと下げていた。気が付くとヴァグラは全身切り傷塗れ、緑色の鮮血が奴の身体を染め上げている。致命傷は受けていないが、それよりもまず精神がやられたというのに近い。



「オマエ....オマエミタイナヤツニ...コンナ...マオウグンカンブノオレガ....」



「確かにお前は強いよヴァグラ。だが、俺の方がもっと強かったのですよ。貴方はあの試練で言う所の聖獣六千匹帯程度の実力でしたよ。

 私ももう我慢なりません。貴方の罪を浄化させてあげましょう。」



 私は彼の血で染め上げた大剣を翳し、ズボンを突き抜ける己の穢らわしい欲望を抑える目的も含めた制裁を始めんとする。スキルの加わった私は彼の身体を煽るように駆け巡り、そして頭上へと飛んだ。

 大剣を振り上げ、彼の断面図を想像し罪を浄化したことを考えると興奮が止まらなぬ。絶頂感が高まるのを感じながら、私は彼に斬り掛かる。


 しかし、そこで異常事態が起きる。なんと、私の大剣持つ左手に矢が刺さった。この矢は一体何なのか?それはすぐに分かった。私の仲間のはずのレネの矢。彼女が放った矢だ。


 もう少しで断罪出来たのに...私の邪魔を何故する!?

 そう思いながら彼女の方に目線を向けると、彼女の様子がおかしかった。いや、彼女だけでなく他二人も様子がおかしい。何かに脅え、慌てている様子。


 レネは私を見ているが、ゴルドとウラロは断罪しようとしたヴァグラを見ている。何故?


 私はヴァグラの方を見ようとしたその時、私の全身が熱を感知する。熱というのは生易しい、灼熱だ。


 皮膚や肉ではない、命を焼き殺さんと私の全身は強い灼熱と衝撃に包まれる。そしてそれと同時に見えたのは光だった。



 ドォン!!



 凄まじい爆音と爆撃は俺を吹き飛ばした。レネ達とは反対の壁に吹き飛ばされ、衝突。全身が硬い壁に叩き付けられて激痛のあまり吐血する。

 そのまま俺は床へと落ち、その衝撃で更に吐血する。



「ガ、ガハァ!!....な、何だと...」



 全身が痛みでロクに動けない。俺はプルプルと身体を震わせながら、煙に包まれた前方を目を細めながら見た。すると、大きな黒い影がゆっくりと起き上がった。



「チッ...アノヤサエナケレバラクニコロシテヤッタモノヲ...アクウンツヨイラシイナオマエ。」



 爆煙が次第に薄れ、姿を現したのはヴァグラだ。首を傾けて骨をボキボキと鳴らしながら、準備運動をするかのように身体を解していた。



「チッ....ふ、不意打ちかよ。魔王軍幹部も落ちたもんだ。...む、虫如きに不意打ちなんてよ。」



「アァ、モウイイゾソノ煽リ。モウ効カナイシ、ソモソモ効イテイナイ。」



 な、なんだ?急に言葉が少し流暢になったぞ?まさか....



「演技...だったのか?狡い真似を....」



「狡クテモ勝テレバソレガ至上ダ。俺ノ外見ヲ見ル人間ハ何故カ俺ガ怒リッポイト勘違イスル。ソウシテ相手ノ勘違イニ付キ合イ、一番面倒ソウナ者ヲ殺ス。ソレガ俺ノ狩リノヤリ方ダ。マァ今回ハ失敗ニ終ワッテシマッタガナ。」

 


 クソ...ちょ、調子乗り過ぎた....そうだよな、魔王軍幹部があんな甘くないのは当たり前のはずなのに...い、いい勉強になったな。



 俺は近くに落ちていた大剣を掴み、再び立ち上がろうとする。しかし身体の痙攣がそれを許さない。休憩だと言わんばかりに俺の身体を床と離してはくれなかった。俺は歯軋りしか出来ず、ヴァグラは涼しい顔をしている。さっきと真逆だ。



「正直、オ前ノ実力ニハ驚カサレタ。アレ程ノスピードデ力モ多少アル。普通ナラ初撃デ俺ノ鱗ヲ斬ル事ハ出来ナイ。シカモスキルヲ使ッタラ目モ当ラレナイ。演技ヲシテイテ良カッタトアレ程感ジタ事ハ無カッタゾ。最初カラ全力デ行ッテタラ、タイマンデモ負ケテイタカモシレナイ。」



「へへ....煽られたのに結構好評してくれるじゃないか...ならその褒美で助けることは」



「無イ、諦メロ。オ前ハ魔王様ニモ脅威ニ成リカネナイ。魔王軍ノ駒ニモシタイ逸材ダガ、従ウヨウナ性格デモ無サソウダ。」



 さっきとはまるで違って淡々と喋りやがる。この冷静な一面がアイツの本性か...フッ、天使の試練の時、あの時本当に思い留まって良かった。一人だったらここで完全にゲームオーバーだ。


 俺の安堵を合図するかのようにこちらへ向かってくるヴァグラが急に上体を横に逸らした。そしてヴァグラの瞳が見るものは自分の手に刺さっている矢。鱗を貫通し、血がトクトクと流れていた。


 ヴァグラがゆっくりと振り返ると、奴に立ち向かおうと三人が武器を構えている。



「....オ前達モ、コノ男ニ近イ力ヲ持ッテイルトイウ事カ。王国ハコンナ人材ヲココヘ単独デ向カワセレルホド余裕ガアルトイウ事カ?...攻メル時期ヲ見直シタ方ガ良サソウダナ。」



「フッ、何アンタ生き残る前提で話進めてる訳?そういう奴は痛い目見るって、そこに倒れてる奴に教えたように自分にも言い聞かせなよ。

 ベグド!アンタ最弱の癖して倒せそうになったら余裕かますの辞めろっていつも言ってるでしょ!?私が助けなかったらアンタ死んでるわよ!!」



 嘘と本当を練り合わせたレネの言葉に俺は何も言えなかった。まだ助かっていないのに呑気な話だが、普通に反省してる。

 


「ま、そういう事だから、あんな雑魚倒したくらいでイキってんじゃないわよ。今度はアイツ以上の力を持つ私達が三人、どう?降参してみる?」



 ハッタリをかますレネに対して、ヴァグラは手に刺さった矢を抜き取り捨てると、自分の頬にその手を置き、人差し指でトントンと叩きながらジーッとレネを見ていた。



「.......嘘ダナ。アイツハ明ラカニリーダーノ立チ位置。最弱ヲアノポジションニ置ク筈ガ無イシ、アイツト戦ッテイル時ニ口ヲアンナニダラシナク開ケテイル実力者ガイルモノカ。」



「まぁ....そうかもね。だったらどうする?私達は余裕で倒せそう?」



「イヤ、カナリ手コズルノガ予想サレル。カナリ面倒ダ。不安源ヲ一個ヅツ無クシテイク地道ナ作業ヲシナクテハナ。

 ソコデ考エタ。何ガ今俺ニトッテ不安デアリ、オ前達ニトッテシテ欲シクナイノカヲ。答エハ...コレダ。」



 言い終わるとヴァグラはレネ達に完全に背を向け、俺目掛けて突進してくる。しかもそのスピードは俺と戦っていた時より数段速い。気を抜いたら見失う程のスピード。そんな速さがボロボロの俺が立ち上がるのを待ってくれるはずもなく、すぐに俺の目の前は奴の拳で満たされた。


 しかし、拳の裏側で爆発が起きた。ヴァグラが発生させた爆発ではなく、もっと小規模なもの。それはヴァグラの体勢を崩し、俺は直撃を免れた。

 しかし、拳は俺の近くの床に激突した為、俺は吹っ飛ばされる形でヴァグラと離れられた。



「グゥ....コノ魔塔ノ騒ギノ原因ハソレカ。」



 ヴァグラが振り返るのと同時に俺はレネ達の方に目線を合わせた。すると、そこにはレネの矢には爆弾が付けられており、ウラロがスイッチを押す準備をしていた。


 レネが弓を放ち、それがヴァグラに当たるとウラロはスイッチを押して爆発を起こしていた。

 ただ数はあまりないのか、ヴァグラが俺の方へ向かおうとした時にしか矢を放たない。



 レネ....お前用意周到すぎないか?その準備の良さと在庫持ちは助けられてあれだがちょっと引くぞ....それに、ゴルドは一体....



 そう、そこには二人しかいなかった。ゴルドの姿が見えず探していると、ゴルドは壁際に沿いながら俺を助けんと向かってきていた。だが...そんな普通に小走り見たいな走り方、全然隠密になってないぞ!?

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