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魔王軍幹部・ヴァグラ

 薄暗い洞窟。弱々しく灯る青い炎はそこを通す者に不安感を与えるであろう。そんな場所にいながらも、俺は清々しい気持ちでいっぱいだった。

 限界近くまで動き続けた疲労で呼吸は荒れ、酷使した肉体も軋むように痛む。しかし、何とか魔王軍の群れを突破したという安堵がそんな不快感を取り除き、青い炎も心做しか心安らぐように感じる。


 だがそんな安堵も束の間、瓦礫で塞がれている洞窟奥から魔物の咆哮と瓦礫を破壊してこちらに向かってこようとしている音が聞こえる。



「不味いわね...ベグド、移動しながらウラロに回復して貰って。ここの洞窟全部の天井を壊して瓦礫まみれにしましょ。今のままじゃ突破されるわ。」



「そうだな....部屋に通じる道がここ一つとは限らない...何か裏道みたいなものもある筈だ。....最も、それが無くてもこの後の戦闘に邪魔されたくないからな。」



 俺が了承すると、レネはウラロの肩掛けカバンから小さい爆弾を二つ取り出すと、洞窟天井に投げた。

 恐らくこの時をレネは想定していたのか予備で取っておいたのだろう。爆弾は天井の壁に虫のように張り付き、レネは手に爆弾が無くなったら移動しながらもウラロのカバンから爆弾を取り出し、同じように上に投げる。


 そして先程爆発を起こした黒いスイッチを取り出し、魔力を纏った右手で押し込む。


 すると貼り付けた順番、奥から一個づつ爆発していく。起爆した俺達を巻き込むかのように発生する瓦礫の雪崩に飲み込まれぬよう、俺はゴルドに抱えられ、ウラロに治療して貰いながら逃げた。


 普通に逃げるより遅い俺の事を考慮してくれていたのか、レネの起こした爆発と瓦礫の雪崩は想像以上に余裕をもって逃げ切ることが出来そうだ。


 走りながらもレネは上に爆弾を投げ、同じくスイッチを押した。こちらの様子を伺いつつ、起爆を遅めにしてくれたりと調整までしてくれた。


 俺達は難無く洞窟を通り抜けて大きな広間に出ると、その場に腰を下ろした。



「ふぅ〜...取り敢えず、少しの間だろうけど時間は稼げたわね。私達は今からでも行けるけど、ベグドはキツそうね。ベグドが回復しきってから行きましょ。」



「いや....大丈夫だレネ。...時間も余裕が無いかもしれない。俺の為にこんな貴重な時間を潰す訳には」



「そんな台詞吐きたいならもう少し大丈夫そうにしなさいよ。今のアンタ見ても大丈夫だなんて思えないし、アンタは私達の生命線。

 これから幹部クラスの魔物と戦うかもって時にアンタが先にくたばったら私達にかかってるスキルも無くなる。そしたら、私達なんてC・B級レベルの雑魚冒険者に成り下がるんだから。」



 それもそうか...俺のスキルが無くなったらこの三人はここで魔物に残虐に殺されてしまう。いや、もしかしたら奴隷となって生き地獄を味わうことに....


 心の中で呟くのと同時に俺は想像してしまう。レネが拷問され、ゴルドは死ぬまで重労働、強姦され続けるウラロ。想像したくもない景色が俺の頭を満たし、俺はそれを振り払う。



 駄目だ!絶対そんな事にさせちゃならない!!レネの言う通り、少し休憩した方がいいな。あんな事を言ったが、割としんどい。今だってゴルドに抱えてもらわなきゃ瓦礫の下敷き。

 ウラロだって優秀な回復役、俺のスキルでパワーアップしているだろうし、ものの数十秒から一分かかる位だもんな。



「...分かった、レネの言う通りだな。すまんがウラロ、少し急ぎ目に頼む。」



「任せて!ウラロの出番なんてこんな事くらいしかないから、すぐに終わらせてみせるから!」



 ウラロは俺に両手を翳し、可愛らしい顔を真剣な表情で染め、回復魔法をかけ始めた。オマケにスキル・重回復(ヒールパイルアップ)で回復力も二倍だ。みるみるうちに俺の疲労が取れていき、余りの癒しの力に眠気さえ感じてきた。



「オマエラ...イッタイオレニナニヨウダ?」



 今まで聞いたことの無い低音が巨大な要塞を連想する力強く重い声で聞こえてくる。それと同時に凄まじい殺気の圧力が俺達に降り注ぎ、俺の眠気は一瞬で消し飛ぶこととなった。


 俺達のいる大広間、到着した時にはただ広い場所に大きな椅子が一つポツンとあるだけだった。しかし俺達に当てられている殺気の元、左から出てきて今大きな椅子に座る巨大な魔物が存在していた。


 全身緑色で身体の表面は区別するかのように白い。皮膚ではなく鱗であり光の微かな反射が見え、その鱗は近付く敵を攻撃しようと一定間隔で鋭い棘になっている。見上げる程の大木位の図体をしており、鍛え上げられた筋肉を鎧として身にまとい脂肪たる部分は見当たらない。

 肩や心臓、膝や肘など急所たる部分だけを守る鎧を身につけ、大きな牙が生え揃う口や黄色で縦に延びる黒い瞳孔を持つ小さな目は獰猛さを表す。


 椅子に座り、肩肘をつける姿は正に魔王そのもの。しかし、魔王とは違う決定的な所は魔王のような頂点に居る者が持つ余裕はなく、今にでも飛びかかってきそうな緊張感を常に発している。

 魔王というより狂戦士。巨大で見てわかる戦闘力の強さ、こいつは恐らく蜥蜴人なんだろうが、俺にはサラマンダーのように見えてならない。




「お前....お前か?この魔塔で魔王軍を従えているのは。」



「キイテイルノハ、オレナンダガ...ソノトオリ、オレハマオウグンカンブノ"ヴァグラ"ダ。ニンゲンヲホロボスサイシュウダンカイデ、ココデマトウヲツクルヨウシジシタノモオレダ。」



「随分人語が上手いんだな。奴隷にした人達に頭でも下げて教えて貰ったのか?」



 魔物は人語ではなく独自の言語で話しており、人語を話す魔物はある程度の知能が備わっているのが特徴的。これはとてつもなく厄介だ。魔物は全体的に知能は低い、故に攻撃や習性というのを見極め戦える。ただ、知能を持つ魔物は実力関係なく罠や戦法を身につけるため、簡単に倒せる敵ではない。


 だからこそ、俺は奴を挑発する。怒りで頭をいっぱいにすれば、攻撃などが単調になり防御力も著しく低下するからだ。


 しかし奴は襲いかかっては来ない。未だに椅子に座り続けているが、挑発が効果なしという訳でもない。


 格下の下等生物に煽られ、ギリギリと歯軋りをして仇を目の前にしたかのように睨み付けてくる。



「ソンナクダランチョウハツハイイ!!オレノシツモンニコタエロ!!オマエラハナンダ!?ナゼココニブキヲモツニンゲンガイル!?」



 こいつは幹部だし、かなりの実力者だろう。だがそれと比例してかなりプライドが高そうだな。下らん挑発か...でもそれが効いてるんじゃあ、続けるしかないな。幸い、ウラロによる回復も殆ど終わってるようなものだし。




「おいおい、そんな事も分からないのか?ここまであの振動が伝わらないわけじゃないだろ。あ、もしかして分からなかったのか?振動伝わってても地震か何かと勘違いした口か?そうならそうと言ってくれよ〜。大丈夫、地震じゃないから安心して。怖くないよ〜?」



 俺の挑発にヴァグラは血管むき出しでプルプルと震えていた。鋭い爪を椅子に食い込ませ、前のめりとなり今にでも発射してきそうだ。

 魔王軍幹部のプライドがあるのか、意地でも冷静さを保ちたいんだろうが、もう化けの皮がほぼ剥がれてるな。これ以上の挑発はやめといたほうがいいな。本当は飛び出てくるほどにしたいが、幹部レベルになると無我夢中の突進は逆に怖いな。


 それにしても、作戦通りとはいえ煽りが流暢に出てきたな。少しは変われたと思ってたんだが...本当に殆ど変わっちゃ居ないんだな。昔の傷が疼く疼く。


 俺はウラロにお礼を言うと、大剣を構えて刃を向ける。するとその行動に合わせて三人とも戦闘準備になってくれる。


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