表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/64

強行突破

 もうそろそろ魔塔全体からして八割の所と考えていた頃、レネ達の姿が見えた。三人とも無事そうだったのがまず何よりだった。



「すまない、遅くなったな。」



「寧ろベストタイミングよ。私達も今丁度ここへ来たところだし。」



「そうか....それにしてもゴルド、背中結構軽くなったな。気分はどうだ?」



「へへ、バッチリだ。肩の荷を物理的に色んな場所に置いてきたぜ。すっげぇいやらしいところにな。」



 ゴルドは自分の右肩を嬉しそうに軽々しく回す。早く暴れまくりたいと行動で示しているようだ。



「...よし、じゃあこれからやる事を明確にしておこう。

 爆発を発生させたら、全員の魔物の目線が集まるまでここで少し暴れよう。そしたらすぐに上の方へと登り、ドアの中へ入る。入ってすぐの天井か何か壊し、ガレキで塞ぎ、魔物の足止めが出来ている内にその奥に居るであろうこの魔塔の幹部を潰す。いいな。」



 俺の言葉にレネとゴルドは頷くが、ウラロは少し首を傾げながら小さく手を挙げた。




「じゃあその幹部倒しちゃったらどうするの?ウラロ達はそのままどうにかして脱出?」



「いや、違う。まず脱出口を見つけるのが優先だが、見つけたらすぐに引き返して余力ある限りここで戦いたいと思ってる。

 討ち取った幹部の魔物の首を晒したい。それに、下の奴隷の人達と会ってきたが、かなり精神的にも消耗していた。俺達が暴れて少しでも魔物の動きが慌ただしくなれば少しは彼らも楽なんじゃないかって思ってさ....」



「...そっか。うん、分かったよ。ウラロ賛成!だけど、倒したことばかり考えて倒されちゃったら元も子もないよ?」



「ふっ...ウラロなんかに言われなくたって分かってるって。大丈夫だ。」



 俺の発言が気に入らないのか、ウラロは俺を軽く睨みつけながら頬を膨らませていた。そんな彼女の顔に何故か安心感を感じた俺は軽く笑っていると、下の方から声が聞こえる。



「グォォォォォ!!」



 魔塔に響く魔物の怒号のような咆哮。俺はすぐに柵から下の階層を覗き見る。すると、中心の奴隷ショーを楽しんでいた魔物達がある一点を見つめて、凄まじい剣幕で近付いていた。この異常は俺にはすぐに分かった。俺が殺したゴブリンがバレたのだ。



「....レネ、やるぞ。時間が無い起爆しろ!」



「え、え!?ちょ、気持ちを作る暇もないんだから...いくよ!」



 レネは掌サイズの黒いスイッチを魔力を込めた手で押した。すると、レネ達が設置してくれていた爆発物が起爆し始めた。レネが指示していただけあって、爆発は均等に派手に見えるように魔塔から発生する。


 近くにいた魔物共が爆発と共に吹き飛び、飛んでくる瓦礫にガーゴイル共は撃ち落とされ、仲間の死体と瓦礫の雨が降り注ぎ、一番下の階層の魔物共が潰されていく。


 非情なのは百も承知だが、俺は中心の奴隷ショーの奴隷達の安否は考えなかった。魔物の目線が集まっている以上、なんの手も打てないからだ。しかし、それをレネは計算していたのか、それとも偶然なのか、無駄にだだっ広い魔塔から落ちてくる瓦礫と魔物の死体は奴隷ショーが行われた一歩手前までしか落ちなかった。


 凄まじい爆音、悲鳴のような魔物の咆哮、それらが入り交じる中、俺はスキルを発動する。



「スキル・力の供給者(フォースサプライ)!!」



 俺の身体から溢れた白い光の粒子が三人を包む。力が漲り、三人とも頬を緩ませ武器を力強く持つ。

 そして俺達四人は全員フードを勢いよく脱ぎ捨てた。一斉の俺達の近くにいた魔物達の目線が注目する。今にでも襲ってくると感じる。


 片手で剣を構えて魔物達を睨みつけていると、俺の背中にゴルドの背中が当たった。少し目線を向けると、緊張しているのかゴルドの顔は汗まみれ。しかし、少し嬉しそうにしていた。



「四年振り....だな。こうやって戦うのは。今みたいに周りを囲まれたらどう戦ってたか...覚えてるか?ベグド。」



「フッ....俺とゴルドがレネとウラロを間にし、少し遠目で戦う。俺たちの間を抜かれたらレネが迎撃し、ウラロは俺達の魔力と傷の回復に務める。

 ちゃんと覚えているよ。もしかして、忘れてるから聞いたのか?」



「そんな訳ねぇよ。あんな楽しかった思い出、苦い思い出....忘れたくても忘れられねぇ。」



「だよな...いくぞゴルド。ヘマすんなよ!!」



 合図と共にゴルドと俺は離れ、目の前の敵に集中。刃を向けた。

 神速(ゴッドラッシュ)はこんな序盤では使えない。スキルに頼らず、俺だけの力でやらないといけない。


 敵対しているのは地上に鎧を身にまとったスケルトンやゴブリン、遠目にワイト、空中にはガーゴイルや骨になった蝙蝠のスカルバットもいた。こんな非常事態にも関わらずすぐさまこういった配置につけるのは、やっぱダンジョンにいる魔物とは違うな。


 俺は全力で踏み込み、目の前のスケルトンの間合いまで接近し、奴が剣を振り下ろす前に大剣で真横に斬った。三体をまず瞬殺し、襲いかかってきたゴブリンも一刀両断。

 味方事巻き込もうとワイトの放つ魔法を避け、斬り殺したスケルトンやゴブリンの手にしていた剣を蹴り飛ばし、ワイトや空中の魔物へと牽制する。


 深く潜り込みワイト達を倒そうと思えば出来なくはないが、そうするとレネとウラロが危ない。投げ物もない俺達には敵の手にしていた武器や敵の亡骸が武器だ。



「おおお!お前らこれでも喰らえぇぇ!!」


 

 俺は全てが全て斬るのではなく、バットのように大剣を横にして空中に向けて魔物共を打ち飛ばす。ガーゴイルは人並みに大きいため当たる。しかし、スカルバットは素早い上に小さい。魔物の弾丸の嵐をすり抜けてこちらへ攻撃してくる。



 だが、それをレネはカバーしてくれる。彼女のスキルは射撃命中率を上げる命中率上昇(ターゲットアップ)。小さい的にも名人のように当ててくれる。




「すまないレネ!助かった!!」



「お、お礼言ってる場合じゃない!!目の前ベグド!!」



 レネの言葉に引かれて俺は視線を戻すと、そこには禍々しく紫色の甲冑を身にまとった兵士が斬りかかってくる。長身から放たれる攻撃は強くて一瞬ぐらつくが、俺は上手くそれを跳ね返し、胸元を斬る。


 中から鮮血が出るかと思うが、実際に出てきたのは黒い瘴気。霧のように舞い上がって消えていく。そして俺は自分の目の前を改めて見るが、先程倒した紫色の甲冑の兵士がスケルトンやゴブリンよりも前に何十体という数で構えていた。



 チッ....黒騎士か。もう少しかかってからだと思ってたが、案外早い。


 俺はそう思うのと同時にゴルドの方へと目線を向ける。ゴルドは俺よりも豪快に魔物達を跳ね除けているが、体力もそこそこ消費している。その上、下からも黒騎士がゾロゾロとこちらへ向かってきている。



「...ゴルド!一旦引いてウラロに回復して貰え!!ここを俺が一掃して上に行くぞ!!」



 前はこういった指示にはすぐに従わなかったゴルドだが、すぐに頷いてウラロの元へと向かう。そして俺はすぐにスキルを発動させる。




「ふぅ〜....スキル・神速(ゴッドラッシュ)!!」



 青い粒子に包まれると、俺は歯を食いしばりながら足を踏み込む。ミスは許されない、ここで俺がヘマをしたら上に行く前に全員ここで魔物の群れに埋もれて死ぬだけだ。

 巨大な緊張感に心臓を痛めながら、俺は走った。目の前の敵を斬り殺し、少し進んだら後ろに行ってゴルドが相手していた奴らを斬る。どいつも俺のスピードには対応出来ない。他の魔物とは違う黒騎士は辛うじて俺の姿を捉えられているらしいが、俺に刃を当てることすら叶わない。


 一見楽勝だが俺の疲労も着実に溜まっていく。こんな思い、天使の試練以来だ。



「三人とも!ダッシュで上へ駆け上がれ!それに合わせる感じで俺が斬り進める!!」



 汗だくになりながら俺はそう指示する。三人とも俺を心配するのではなく、素直に俺を信じて従ってくれた。ウラロはゴルドを回復させ、レネは俺が斬り落とせないスカルバットを攻撃しつつ上に向かって走っていく。


 そして俺はそれに応えるように先行して進み、まだ爆発させてから暫く経って無いのに廊下に溢れている魔物共を斬り殺しながら進む。



 チッ...なんでこんな数いるんだよ!いくら魔王軍だからってもう少し怠けとけよ!それにレネ達も容赦なく走りやがって....俺今普通にキツいんだが!?ま、そうしろって言ったの俺なんだけどな...



 そんな事を心の中で呟きながら俺は斬り進む。神速(ゴッドラッシュ)は身体的負担が大きい。それは天使の試練で肉体的に強くなってもそんなに長時間使用は出来ない。


 肉体が悲鳴を上げているのが分かる。自分の腕や足に冷たい感覚を感じてくる。それが筋肉が限界を迎えた痛みなのか、それとも魔物の血肉による物なのかは分からない。

 時間の感覚も消えていき、呼吸も荒くなり、冗談を心で吐くことすら出来ない。後ろにレネ達が付いてきてくれていることも頭から離れ、ただ無我夢中で目の前の魔物の群れを斬っていく。


 すると、目の前の魔物の群れがぱったりと居なくなった。疑問が頭を満たして立ち尽くすと、俺の目の前は廊下の終わりだった。



「おいベグド!こっちだ!!」



 ゴルドの声が聞こえたのと同時に俺は抱き抱えられながら横へ移動した。薄暗い空間に突入すると、爆発音が聞こえる。瓦礫が雪崩のように落ち続けるのが聞こえ、俺はゴルドに連れられながらひたすら前へと移動した。


 暫くするとゴルドが足を止め、俺を解放する。それはその場で座り込み、必死に酸素を取り込んでいた。

 薄暗い洞窟のような場所に俺達は居た。そして少し振り返ると、洞窟は瓦礫によって栓されていた。


 ゴルド、レネ、ウラロ。三人とも無事で嬉しそうに俺を見ていた。それだけで俺はすぐに分かった。




「あぁ〜....やったな。俺達。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ