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希望

「...レネ。二人を少し頼んでもいいか?」



「え?あんた何考えてんの?ここで別行動なんて自殺行為みたいなもんでしょ。」



「いや、俺ならいざとなったらスキルで切り抜けられる。この魔塔の戦力はかなり多いが、それでも俺の姿を捉えられるのはそう多くないはずさ。」



「そうだけど....とにかく、何を考えているか全部話して。あんたの中にいるアイツの件もあるんだから、隠し事無しで言いなさいよ。」



 違和感すら感じさせない俺の中にいるアイツ。それが今発現していないかどうかすら俺には判断出来ないが、少なくとも今思っていることを全て言えばいい。そうすれば後はレネ達が判断してくれるだろう。



「分かった。...俺はこれから一人で下の方へと向かっていく。一番下の階層で奴隷が弄ばれてるだろ?その中の一人でもいいから接触し、これから俺達が起こす騒動になるべく巻き込まれないよう忠告してくる。

 その間、お前達は爆発物を魔物に見られないように各地にこっそり忍ばせながら登ってくれ。全体の八割くらいまで進んだら、俺が来るまで待ってて欲しい。」



「上のボスと戦う前に騒動を起こすつもりね。それが騎士団への合図にもなるから分かるけど、何で八割程度なの?ボスの部屋じゃだめなの?」



「あぁ。騒動が起きて俺達という侵入者が見えれば、避難しようとした奴隷に魔物共は気が回らなくなると思うんだ。俺のスキルを使えば三人ともある程度スピードは上がるし、どんな罠があるかは分からんが突破は可能だと思う。」



「そっか....分かった。ゴルドとウラロは私に任せて。適当に置いて、出来るだけ派手に見えるように配置させてくから。上で待ってるわよベグド、くれぐれもアイツだけには気を付けてね。」



 そう言ってレネは握手を求めてきた。フードで見えずらくはあるが、彼女が微笑みながら手を伸ばしてきてくれ、俺は温かい気持ちになりつつ彼女と握手をする。

 それからは別行動だ。レネは二人を連れて上へ、俺は一人下へと向かう。顔を見られないよう、出来るだけ不自然に見られないよう気を付けながら歩き、一人で地獄とも言える場所に足を踏み込んでいる。本来なら生きた心地はしないのだろうが、俺は天使の試練でそう言った状況になれているし、左手に残っているレネの手の温もりで頭がいっぱいだった。


 こうして二種類のドキドキに心臓が痛めつけられながらも俺は一番下の階層へ移動した。中心には人間の奴隷を無惨にも痛めつけるショーが開催され、円を作るかのように魔物達がそれを見て喜んでいる。


 そんな魔物の背中を見ると無意識に力が入るが、自分で自分を諭しながら接触出来る奴隷を探す。


 すると、ショーとは少し離れた場所で何十人もの奴隷の列を見つけた。魔物一匹に鎖で繋がれ、壁に反って直立させられている。老若男女問わず、ボロボロの布衣という特徴しか合わない奴隷達がこれからされるであろう事に絶望している様子だった。

 俺は気配を消し、そーっとその列の後ろへ移動。一番最後尾の男性の奴隷に話しかけた。



「...君。小声でいい、話せますか?」



「へ?....え、え?な、なんで人がこんな所に。」



 その男性は短い金髪で、俺より背の高い。しかし、ろくな食べ物を摂取していないのか骨が浮き彫りになり、幼げに見えていたであろうその顔には疲労が浮かび上がっている。



「も、もしかして助けに来てくれたんですか?き、騎士団!?」



「声を荒らげないで下さい。他の魔物に悟られたら不味いですよ?」



 そう注意すると、彼は口をグッと閉ざし、今にでも涙が出そうな目で俺を見てくる。



「私は騎士団といえばそうですが、潜入している者です。この魔塔を潰す為、ここまで来ました。」



「そうなんですか...あ、あの、早く助けて下さい。すぐに助けてくれないと、僕達も魔物共に」



「気持ちは分かりますがどうか冷静に話をしてください。今、本陣である騎士団はまだここへは来そうもない。直接的に貴方達を救う事はまず出来ません。しかし、間接的には貴方達を救うことが出来ます。

 まず、貴方達の寝床はどこです?この階層ですか?」



「あ、いえ、ここの下です。地下なんです。奴隷にされた人達は皆この下に....」



 俺という味方を見て安堵したのか、彼はボロボロと涙を流し、出てしまいそうな鳴き声を必死に堪えながら話してくれた。さぞ、怖い思いをしたのだろう。



「そうですか...辛いでしょうが、もうひと踏ん張りです。

 私達はこれからこの魔塔内部に爆発を起こします。それが外にいる騎士団への合図となり、それと同時に急な襲撃に魔物達は慌てるでしょう。そうなったら、貴方は他の奴隷と共に地下へ避難してください。

 騎士団の本陣がここへくるまで待っていて下さい。」



「そ、そんな....それだったら逃げてもいいですか?もし騎士団の本陣が来ても負けたら...また僕達は奴隷に....」



「不安でしょうが、騎士団を信じて下さい。騒動に紛れて逃げようとすれば、魔物達に殺される可能性が高い。それにこの魔物の数と外の設備を見れば百人に一人脱出出来るかどうか......

 だから、我々を信じ、一人でも多くの人間にこのことを伝え、地下で待っていて下さい。」



「で、でも....今僕達はこうして繋がれてますし...身動きが取れません。」



 彼は自分の手枷と鎖に繋がれている首輪を気にしていた。その不安を解除すべく、俺は彼に待つよう伝えるとその場所から離れる。

 向かう場所は奴隷の首輪に繋がれた鎖を持つゴブリン。本当、雑用云々はコイツが主軸だ。そう考えると可哀想ではあるが、人に危害を加える生き物に同情もないな。


 全ての魔物の注目は中心の奴隷ショー、なら音にさえ気をつければ良いわけだ。


 背中にある大剣をフードから離れないようにしながら抜き取り、ゴブリンの目の前を通り過ぎる。

 最終確認として周りの魔物の目を確認し、それが済むと俺はスキル神速(ゴッドラッシュ)を発動。


 俺の最大速度でゴブリンの真横から、縦に一刀両断で斬る。斬られた事に気が付かないゴブリンは呻き声も上げず、凄まじい剣速は物を切った音を最小限にする。

 ゴブリンが横に割れる前に俺はすかさずゴブリンを掴み、サボって寝ている風に横に倒した。臓物はゴブリンの身体がズレなければ何とか出ないが、血はどうしようもない。切断面から垂れている。

 それでも、すぐに気付かれることは無い。周りの魔物も未だ気が付いておらず、血が流れていくスピードも緩やかだ。これならレネ達との合流までには間に合う。


 いきなりゴブリンが殺され、斬った犯人は人間。奴隷達は目を丸くさせ、話しかけた奴隷の彼のように涙を零して感激していた。ここで一つ演説でもし、賞賛の声でも浴びたいが、そんな欲を我慢して俺は人差し指を口に当てて奴隷達に無言を要求した。


 全員が素直にそれを呑むと、俺は再び最後尾の奴隷の元へと近付き、話しかけた。



「これで身動きは取れます。私の話を他の人達に伝言して下さい。丸まったりせず、今の姿勢を維持して。

 騒動が起きてあのショーに群がる魔物が薄れたら、そこにいる生き残りの彼らにもその事を伝え、地下で待っていてください。

 あ、爆発による落石も予想されるので、なるべく迅速に慎重に....避難してください。」



「あ、有難うございます...まだ命は助かってはいませんが、少なくとも希望が見えた。本当にありがとうございます....本当に...」



 彼は更に大粒の涙を流し、弱くともしっかりと俺の残された左手を握りお礼をしてくれた。

 人に感謝された、人の心を救った。その事実が俺の心を動かし、俺も同じく涙を零した。

 何で涙を零しているのか俺にも明確には分からない。ただ、以前の糞野郎の俺から少しは変われた、ロワンへの罪滅ぼしとロワンの元へ行ける資格に近付いた、そう思っただけで心は揺れ動いていた。



 そうして俺は彼らの元を去った。ゴブリンの死体に下の魔物が気が付くのも時間の問題、余裕が想定出来ても確証はない。


 俺は早歩きでレネ達が待っていてくれている場所へと向かった。


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