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もう一人の自分

「いや、レネ。その考えは違うな。ここにある全部の爆発物は全部下層に使う。」



「下層?でも、それじゃあ騎士団に合図が伝わらないかも」



「伝わる必要なんてないんだ。騎士団の力は要らない。俺達だけで何とかなる作戦を思い付いた。」



 俺達たったの四人で魔塔攻略が出来る。あまりに現実味が感じられないのか、俺を前にした三人の顔色が変わっていく。どこか、俺を警戒しているかのような顔つき。無礼だな、ここから聞く俺の策に感動するってのに。



「例えばの話だが、魔塔が十段階あるとするだろ?俺達はそれでいうなら二階を攻めるんだ。これだけの爆発物があるんだ、一エリアは粉々に出来るだろうな。」



「....騎士団に伝わらなくていいってどういうことだよベグド。お前は何を想像してるんだ?」



 ゴルドは少し睨みを効かせながら俺に質問してきた。こんな目付きをされる覚えはないんだが...



「簡単だ。この魔塔を崩壊させるんだ。高い魔塔の足元を完全に潰せば、ドンドン上のエリアが落ちてきて崩壊する。その場合俺達もどうなるか分からんが、俺の二つのスキルを使えば何とかなりそうな気もするんだ。」



「それはそうかもしれないけど....でも、ウラロ達は大丈夫だろうけどここに囚われた人達は?皆巻き添えで死んじゃうよ?...騎士団とかウラロ達が頑張れば何人かは救えるかもしれない。ここの魔王軍も頭さえ潰せば殆ど機能しなくなるんじゃ」



「はは、違うぞウラロ。確かに王国軍と魔王軍の戦争ならそうしてもいいだろう。だけどな?これから俺達がやる事は虐殺なんだ。一匹でも多く魔物を殺し、一匹でも多くの魂を救う。そのために犠牲になるのなら、囚われている者達を気にしている場合ではない。寧ろ、とても光栄な事なのですよ?」



 俺は敵地にいるとは思えないほど心地良い気分で話す。三人共、緊張感で思考が鈍っているのか、俺を疑深い目で見てくる。



「現実味がないと思っているのでしょうね。しかし、大丈夫です。上手くいきます。この魔塔を支えている支柱を破壊すればあっという間。最悪我々の手で破壊すればいい。ここにいるであろう幹部クラスは恐らく生き残るでしょうが、問題ありません。まずは多くの魂を屠る事を優先させましょう。」



「....出てきやがったな、クソ野郎。」



「...出てきた?一体何の話です?余計な事は考えず、目の前の事に集中しましょう。もしかして、万一に死ぬのが怖いのですかゴルド?

 そもそも我々は罪人、ただの欲求で人を陥れた愚かな存在ですよ?そんな者が死を恐れてはなりません。死は罪を浄化する最後の償いなのです。決して恐れるものでは無いですよ?」



 私は至極当然のことを話し、落ち着いてゴルドを説得しようとした。一緒に偉業を成し遂げる為、多くの魔物を浄化することがどれ程素晴らしいことなのか説く為、そしてそれらがもたらす素晴らしい世界への歩みを伝えたかった。

 なのにそんな私の善意を裏切るかのようにゴルドだけでない、彼女らも私を蔑むような目で見ている。この三人はロワンへの仕打ちをそれ程重く受け止めていないようだ。....残念ながら、器ではありませんね。



「そうですか...それがあなた達が導き出した答えだというのなら尊重しましょう。しかし、それが愚かな思想だったと理解した時、あなた達は深く後悔することになる。では、私はこれで。」



「ちょ、何処に行くつもりよベグド!」



「レネ、貴女は私の言葉を聞いていましたか?これから魔塔を破壊します。あなた達が協力しないというのなら、爆発物はそこまで多く持ち運べない。なので、まず構造を理解し、そこにいる魔物の浄化をします。

 避難するなら今のうちです。さぁ、お逃げなさい。」



 私は彼女達が今望んでいる逃亡の道を示した。しかし、何故かゴルドは更に眉間に皺を寄せ、私に近付き胸ぐらを掴む。彼は何故か激怒しているようだ、なぜなのか?理解に苦しむ。



「早くベグドの中から出てけよクソ野郎!誰もテメェの事なんざ呼んでねぇ!!お前の手なんか誰が借りるか!!」



「ちょ、ゴルド!それ以上はダメよ!何起きるか分からないじゃない!」



「いや、今のうちにやらねぇとダメだ!こんなのが近くにいていつ暴走するか分からないんだ!!まだ魔王軍にバレてない今しかない!!」



 ゴルドとレネは何故言い合っている?ウラロは何故私を心配そうに見つめている?疑問が私を包む、私の理解ではこの者達の相手が出来ない。手放してしまいたいが、私は慈悲深くてはならない。どうにかして救わなければ。私の思想を理解し、賛同出来るようにせねば。



「まず...整理しましょうかゴルド。貴方が怒っている理由はなんですか?私の何が気に入りませんか?貴方が望んでいる事を言いなさい?」



「当たり前な事を聞くんじゃねぇ!俺はベグドがどんな人生歩んできたか知らねぇけど、俺達の背負わなくていい罪まで背負ってる。なのに、俺達に生きる気力を、罪を償う機会まで貰ったんだ。

 そんな恩人みたいな仲間の身体....好き勝手してるお前が気に食わねぇんだ!俺達が望んでることはただ一つ、ベグドの中から早く出ていけ!この悪魔!!」



 ...私はあくまで平和的に話をしたかった。彼の望みを聴き、彼が納得するまで根気強く相手をしたかった。彼を救いたかった。

 なのに、これ程の罵声....いや、罵声に対しては何の怒りも湧かない。しかし彼の言い放った「悪魔」...私を悪魔?..............



 私は彼の首を掴み、持ち上げた。嗚咽を吐き漏らし、足を苦しそうにバタバタと宙で動かしている。私の片手を何とか離させようとするが、彼の力では指一本でさえ離せない。

 ウラロの小さい悲鳴が聞こえると同時に、レネが弓を構えて私を射抜かんとする。彼女もまたゴルドと同じ考えということですか...私を悪魔だと.......


 左肩目掛けて放たれた矢を避け、そして矢の持ち手を口で捕まえるとポロッと足元へ落とす。そして矢の向きが理想となった時、私はその矢を蹴り、逆に彼女は自分の左肩を射抜かれることとなった。

 ウラロが心配して治癒しているが、レネは激痛に顔を歪ませている。私を悪魔だと罵る者には適した姿だ。



「私を悪魔だと....そのような事があるはずが無い。」



 私は瀕死のゴルドに言い放ち、彼を床へ叩き付ける。解放された喉を抑えながら咳き込み苦しむ彼を見つつ、私は彼の魂を断罪しようと背の大剣を引き抜く。



「奴らは素晴らしい聖への道を堕落した愚かな存在だ。穢らわしい欲を色濃く濁し、他の者を惑わし堕落させる愚かな存在だ!私がそのような存在であるはずがない!!愚かだと認識しても尚、救おうとしている私が何故そう呼ばれなくてはならないのだ!!」



「あぁ...そうだよ。あんたは悪魔じゃねぇ....だけどな、今の俺達にはあんたの手は必要ねえんだよ。救ってくれなんて言った覚えもないし、そうしてくれってベグドが願った訳も無いはずだ...

 間違ってるって分かりきってても、見守っててくれよ。今のあんたが出来ることは精々助言くらいだ。そういった行動はせめて求められてからにしろよ。」



 ...確かに彼の言う通りか。ただの人間の彼が私に意見するなど有り得ないことだが、彼の言葉に従ってあげるとしよう。これも又、慈愛。


 私は奥深くに眠る為、意識を切り替える。すると自然に視線が上へと昇り、瞳孔は完全に瞼の内へと消える。最初は何ともなかったが、次第に痛みを感じ始めてきた。俺の頭はスーッと軽くなっていき、まるで寝起きのような気だるさを覚えてくる。


 あ〜....あれ?なんで俺白目剥いてんだっけ?目が痛てぇや。


 俺は瞳孔の位置を戻しながら痛み出す目を癒すかのようにゴシゴシ擦った。痛みがなくなり、霧に包まれたような意識が次第に戻ってくる。

 ふと瞼のを開けると、そこには心配そうにこちらを見る仲間の三人がいた。


 すると顔色がまだ青紫気味なゴルドが俺に話しかけてくる。



「ベグド...か?お前....ベグドだよな?」



「え?あ、あぁ。そうだぞ?」



「だ、だよな!良かったぁ〜...」

 


 ゴルドは嬉しそうにしながらその場で寝っ転がり、ウラロとレネも安堵の吐息を吐く。


 まただ。レネが強姦されかけた時と同じだ。自分が自分じゃない気分、そして先程までのやり取りに全く違和感を感じない。

 何故救える人を切り捨てる残酷な案が言えたのか、何故ゴルドやレネに危害を加えてもなんとも思わないのか、何故あんな言葉で怒りを顕にしたのか。全く分からない。


 しかも異常なのは今では感じるその凶行に全く悪意が含まれていないことだ。思い返しても当たり前の事をしただけと思うが、それのどこが当たり前なのか?と質問されると答えられない。

 そしてこんな緊張感のない気持ちだからこそ、この現象はほんの些細なトラブルだと思い込み、冷静に考えないととてつもなく大きなトラブルと認識できない。


 思考を凝らせば凝らすほど、俺は俺自身が怖くなってきていた。

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