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魔塔眼前

 戦いの不安、自分の状態の恐怖、そして癒されつつあるが確かに感じる疲労によるストレス、これらが頭の中をぐちゃぐちゃに駆け巡り、俺はそれを誤魔化すように干し肉を口に入れ続けた。



 一周ほど街を歩き、俺はレネ達の元へと戻るが彼女達はまだ寝ていた。俺は買ってきた煙玉と土産の干し肉が入る袋を机に置き、椅子に座って足組をしながら寝ることにした。

 不安で寝れないだろうと予想していたんだが、俺の身体は俺が思っているより疲労が溜まっていたようで、すんなりと意識の底へと落ちていった。



 日は天から地平線へと落ちていき、オレンジ色の光へと変わっていく頃、俺達は戦場へ出発することにした。夜になれば魔物や野生の獣の活動が活発になるが、視覚は効きにくくなる。俺達にとっても致命的ではあるが、明るい時間で遠くからチラッと発見されるのを恐れ、この時間帯に出発することにした。

 

 俺達の目的は魔塔へ乗り込み、そこで派手に暴れる事。そして援軍である騎士団の軍勢が来るまで持ちこたえることだった。

 これは騎士団との共同作戦ということになっている。最も、念入りに作戦を練った訳でも事前に伝えていたわけでなく、ここへ着いて半ば強引に俺がそうしようと提案したものだ。


 騎士団の責任者は当然困惑していたが、俺が元勇者候補であることが分かると、そんな無茶苦茶な作戦に一応付き合ってくれる事になった。

 

 合図は俺達が派手な爆発を起こしたらだ。ただ、俺達は四人で敵地に潜り込むんだ。一発だけでなく二.三発爆発を起こし、魔塔の被害が甚大だと騎士団が判断してからようやく動き出してくれる予定。


 つまり、俺達が何も出来ずにいたらいつまで経っても援軍は来ないし、そのまま何事も無かったかのように時が流れる事も十分有り得る。



 敵地に潜り込み、騒ぎを起こし、すぐに来ることの無い援軍をひたすら待ちながら戦う。どう考えても無茶だし、自殺志願者の作戦だ。

 俺は別にそれで構わない。失敗したとしても、その絶望的な状況で魔物達から八つ裂きにされて死ぬ。ロワンを苦しめてきた俺にとってはお似合いな最後。

 

 しかし、レネ達の事を考えると申し訳なく感じる。彼女達と俺との覚悟は少なからず違いはある筈だから。しかし、三人共覚悟は決めてくれていたようだ。何度も釘を刺したが、逃げ出そうとは言わない。他人の顔色を見たのではなく、自分自身で決めたようだった。


 不安はあれど、同じ思いを志す仲間と戦えることに興奮しつつ、俺達は危険区域へと足を進めた。



 ロー・オークが練り歩き、多くの生命が消えていった区域。元々は村であったものも今では残骸でしかなく、大地は焼かれたように黒焦げ、木々も枯れ果てているものばかり。

 そんな所をロー・オークはこの区域の番人とでもいうかのように歩き回り、俺達は奴らに見つからないよう木々の陰に身を潜めながら歩き続ける。


 だが、これは四年前から散々してきた。故にレネ達の顔は少し余裕を感じられるが、俺は四年前に強姦されかけたのが頭にこびりついていた為、少し足に力が入りずらくなっていた。



 ここが危険区域となってからまだ間も無いのか、俺達は日が完全に落ちる前に魔王軍の前線へ間近に到着した。

 削って鋭くした大木の防御壁が視界に治まらない範囲でズラっと並べられ、すぐ近くには木材で作られた小さな基地が一つ。そして少し奥には木々で隠れているがもう一つの基地も見え隠れしていた。

 魔物達の殺気なのか、延々と続く魔王軍領地は不気味に薄暗く、大きく目立つ魔塔の存在感は絶大。俺達は思わず息を飲んだ。



「...何とかここまで来れたわね。どうするの?早速行く?」



「いや、まだだ。視界が効くうちに色々観察したい。今行っても見つかってしまう可能性があるからな、それじゃあ夕方に出発した意味が無い。

 ロー・オークに気をつけながら移動しよう。こんだけ魔王軍の進行が早いんだ。前線は固めているにしても、緊急で何度も建て直している。もしかしたら穴場があるかもしれない。」



 俺を先頭にして注意しながら移動をし、遠目で防御壁と基地の場所を出来る限り観察し続けた。

 望遠鏡でひたすら観察し続けると、ウラロが防御壁の穴を見つけ出した。

 大木で柵を作り、柵の隙間からまた別の大木の矢のように突き出している防御壁。ウラロが発見したのは、本来大木が付けられる筈だった空白だ。魔物が面倒くさかったのか、ただ見落としたのか分からないが、ゴルドの体格でもすり抜けられそうだった。



 俺達はすぐ近くの洞穴に身を隠し、ロー・オークに見つかってしまうのを恐れながら夜を待った。

 緊張感が張りつめる空間にいるせいか何時間にも感じたが、実際は夕方に出発したのもあって一時間すれば世界は闇に包まれた。


 暗闇の世界は人や魔物は自らの住処へ戻り、再び視界が効く朝を待つ。故に夜はとても静かなイメージがあるが、野生動物は夜こそが本番。俺達がいる所のすぐそこに森があるため動物の鳴き声がよく聞こえる上、ロー・オーク達もそんな動物達の習性に近いため、地ならしが耐えなく響く。



 ロー・オークは夜目が利くので油断は出来ないが、何もいないのに騒ぎ続けるお陰で奴らの場所や方向は何となく感知できる。


 俺達は洞穴をゆっくりと出ると、そのまま慎重に目的である防御壁があるであろう向きに足を進めた。俺を先頭にゆっくりと足並み揃え、はぐれないように後ろの者は前の者の服を掴んでいる。

 今俺を掴んでいるのはウラロだ。魔物に気付かれないよう灯りを付けれず、漆黒の中にいる恐怖感で彼女の手はガタガタと震えていた。足にも力が入らないのか、俺が歩きたいスピードとはかけ離れて遅い。


 だが、それに関して俺は何も声をかけなかった。彼女が無理をしてくれているのは分かっているし、声を出すとロー・オークに悟られやすい。だから俺は声掛けの代わりに彼女の手の上にそっと自分の手を置いた。

 これで元気になるって確信はないが、少なくとも自分だったら安心するかと思ってやった行動だ。俺の感が当たっていたのだろう、ウラロの震えが少しだけ治まったように感じ、少しづつだが前へと歩けていた。



 洞穴から出て全く視力が効かない。自分が今どの辺に居るか、目の前に何があるか分からない。自分の足でさえ見えない...これ着いたとして串刺しになって死なないだろうな?もしそうだったらマヌケ過ぎる....



 そんな不安を抱えつつ、俺は慎重に歩いた。少しでも見えるように目を細め、片手はロワンの為に使っているため若干足を前に出して前の障害に気付こうとした。


 冷静になって客観視すると、俺はとてつもなく間抜けな姿で歩いているだろう。だが、俺にとってはこれが精一杯なんだ。この漆黒の空間、俺でさえ気が狂いそうになっていた。 



  暫くすると右足の先端に硬い何かがぶつかった。俺は思わず声に出しそうになったが何とか我慢し、ぶつかった何かを手と暗さに慣れてきた目で探った。

 俺がぶつかったのは目的の防御壁、それを見た瞬間俺は身体から力が抜けそうなほどの歓喜を感じるが、まだスタートラインに立ったことを意識して自分を律す。


 小声で後ろのウラロに伝え、彼女はその後ろのレネ、そしてゴルドへと伝達した。暗くて彼女らの顔は見えないが、限界が近かったのか安堵の声が聞こえる。

 そんな声を聞くと気を引き締めたばかりなのに緩みそうになりつつ、横にそって歩き、目的の欠損している防御壁を探した。


 俺達は欠損している防御壁目掛けて先程まで歩いていた訳では無い、寧ろ少し外れた所を目指して歩いていた。それが何を意味するか、もし狙いが少しでもズレれば左右どっちに狙いの防御壁が分からなくなる。それを防止する為だ。


 俺は自分自身を励ましながら、ゆっくりと歩を進めていると、狙いの防御壁の所へと到達した。


 思っていた以上に近かったな。余分に離れたところ狙わなかったら、永遠にここへは届かなかったな。


 俺はすぐに事前に拾っていた木の棒を取り出し、欠損部分を通りながら目の前の空間に向けて小さく振った。

 縦に、横に、斜めに。未知なる罠を予測し、目を凝らして足元のあるかもしれない罠に注意し、慎重に進む。



 .......よし!罠はない!単純な魔王軍のミスか。魔物は元々そこまで知能は高くないからな、助かった〜。



 俺は防御壁を抜けて大きく安堵の溜め息を吐いた。今まで溜めに溜めた分、とても清々しかった。

 後ろの三人もしっかりと付いてきてくれており、無事抜けて小さく喜びの声を上げていた。俺も嬉しさが大きいのだろう、注意しようにも小さな笑みが浮かぶ。



「おい、あんまりはしゃぐなよ?まだまだ序盤だ。ここからは基地だらけなんだから慎重にな。」



 そう声をかけ、俺達は再び歩を進める。完全にこの暗闇に目が慣れており、すぐ目の前に草むらがあるのが目に入る。森の入り口、俺達を包み込む為に大きくなった草むら。この中に入れば姿は消すことができ、魔物の目から逃れれるだろう。


 だが、俺達は獣道とはいえないが、足元にしか伸びていない道を進み、草むらと並行して移動することを選んだ。


 草むらの中に入っていたら音でバレてしまうし、中にどんな罠が張っているか見分けることも出来やしない。故に、草むらはどうしても入らないといけない状態でなきゃ侵入しない、一か八かの安全地帯とした。


 見つかってしまう恐怖に脅え、幾つもの基地へ到達する。高見から侵入者を探そうと見回っている魔物の目を盗み、危ない時は街で買っておいた煙玉を上手く利用してやり過ごす。


 周りはほとんど漆黒、喜びを得てしまいそうな光は見えるが、その全てが敵の所有物。俺達には敵しかいない。ストレスしか振りかからない状況で、俺達は握り合う手から伝わる体温で支え合った。

 言葉に出さずとも、「大丈夫だ。」「皆がついている。」そう言っているような気がした。


 そうして闇雲に前へ前へと進んでいくと、次第に空から光が差し登ってくる。暗闇からの解放で歓喜を覚えそうだが、俺達にとっては最悪の光。闇に紛れて魔物の目を盗むことが出来なくなってしまう。それに魔王軍の魔物達も次々に目を覚ましてしまうであろう状況で、俺達は冷や汗かきながら最大限歩を進めた。


 しかし、先頭の俺はすぐに止まった。二、三本で遮られている小さな木々の間から見えたのだ。魔塔ギングスタンを。



「...皆、やったぞ。目的地到着だ。」



 俺が親指を立てて笑顔を向けると、三人共笑顔を返してくれた。汗だくで疲労困憊なのは見て取れるが、それすら吹き飛ばすかのような綺麗な笑顔。

 俺は敵前にも関わらず、穏やかな気分になった

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