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代わり探し

 俺は真っ暗な空間を歩いていた。光も無い漆黒の空間では俺の手足すら見ることすら出来ない。

 本当は無いのではないかと不安にも感じる事はあるが、感覚はしっかり感じる。



 俺は目的もなくただ歩いていた。この空間にいて当たり前、とにかく歩き続けないと、そんな洗脳のような奇妙な納得をしていた。


 暫く歩き続けても何も見えてこない。歩くことにも飽きてきたその時だった。



 バキッ!



 何かの木が折れる音が遥か先から響いてきた。その音が聞こえた瞬間に俺は立ち止まり、ギューッと胸が痛くなった。尋常じゃない喪失感を感じ、ボロボロと涙を流し、早く歩かなかった自分を何故か責めた。



「....ド......グド........ベグド!起きろよったく...いつまで寝てんだよおい!!」



 大きなゴルドの声が響き、俺はハッと目を覚ました。視界にはベグドの顔に俺の個室の天上。ゆっくりと顔を上げて周りを見ると、当たり前だが俺の個室だった。


 勇者候補として国からの高待遇で住み始めた宿、毎日清掃を任せているため新品のように綺麗だった。



「はぁ...朝か。」



「いや、もう昼だよ。とっくにお日様は真上だ。」



 もうそんなに寝ていたのか。確かに昨日は激しかったが、そこまで熟睡してたとは。



「頭が痛い....あの女達はどうした?」



「とっくに帰ったよ。居なくなった子を探すとか言ってたな。ったく、手を出すなって言わないけど、あんまりはっちゃけるなよ?変な噂をばらまかれても困るだろ。その涙も女関連の夢見たからか?女遊びは程々にしとけよ。」



「は?」



 俺は目元を触ってみるとゴルドの言う通り涙を流していた。見ていた夢は鮮明すぎて怖いほど覚えていた。だからこそ、この涙は不思議で仕方が無かった。


 確かに俺はあの夢で喪失感を感じてた。何でだ?あの枝が折れるような音に何の思い入れがある?


 所詮は夢の中の出来事で正解なんて出るはずもない。俺は涙を拭い、その事はキッパリ忘れようとした。



「ふぅ....レネとウラロはどうだ?もう帰ってきてるか?」



「あぁ。二人共二日酔いらしくて頭痛そうにしてるぞ。軽いクエストは出来そうだが、キツいのは無理だな。だから今日は魔王軍関係は」



「分かってる。そもそも今日は軽いやつにしようと思ってた所だ。丁度いい。」



 俺はベットから降りて下着状態からいつもの仕事へと着替え始めた。それに言葉通り軽めのクエストをするつもりなので、いつも身に付けていた鎧じゃなく軽装に着替える。



「珍しいな。普段は何でもかんでも難しかったり、魔王軍関連のクエスト受けようとしてたのに。お前も体調良くねぇのか?」



「それもあるが、そんなんじゃねぇ。ロワンの代わりを探して実力を試したいからな。変に怪我とかされたら色々面倒だろ。」



「そういうことか。でもよ、ロワンの代わりなんているか?俺達で十分だろ。」



「それもそうだが、念には念を押したい。強化できるサポート役は必要だ。俺達は魔王軍相手に何度も喧嘩を売ったが、幹部とは接触した事がない。もしかしたら化け物級に強いかもしれないからな。」



 俺は仕事着に着替え終え、部屋をゴルドと共に出た。宿の食堂へ向かっている途中もゴルドは俺に話しかけてきた。



「幹部か。どんだけ強いんだろうな?俺達って言うほど凄い苦戦した事ないから、幹部も案外弱いんじゃないか?」



「油断は出来ない。魔王軍の進行があって何百年も続いているが、幹部討伐って話は三度しか聞いたことがない。俺達レベルのパーティーが過去にいたかもしれないしな。」



 それでもゴルドはパッとしないのか、ブツブツ呟きながら天上を見つめていた。

 まぁそう思う筈だ。この不安は俺にしか分からない。ロワンが抜けた今、俺達の戦力がどれだけ下がったのか未知数。他メンバーだけでなく俺でさえ測りえない理由を俺は知っている。


 俺達は食堂へと着くと、空席が目立つガラッとした食堂に、レネとウラロが頭を痛そうに抱えて座っており、片手には水の入ったグラスを持っていた。



「すまん二人共、遅くなった。」



「そんなのいいわ。寧ろもっと寝て欲しいくらいだわ。あぁ〜頭痛い....」



「うぅ...ウラロ、もう絶対にお酒飲まない!気持ち悪いしダルいし頭痛い...ねぇベグド、今日お休みにしない?」



 目をうるうるとさせてオネダリモードになったウラロの眼差しを受けるが、五年程彼女のオネダリモードを見ている為に完全に慣れている。俺の心は全く揺れ動かない。



「飲み過ぎは自分らの責任だろ?駄目だ。今日は協会へ行ってクエスト行くって言ってんだから自業自得。行くぞ。」



 俺の素っ気ない反応にウラロは頬を膨らませ、ブツブツと嫌味を小言で言い続ける。俺は溜め息を零しつつ、三人を引き連れて協会へと向かった。


 冒険者協会は最新のクエスト受注を行える場であり、冒険者を全面的にサポートする場。新規の者は必ずここで登録するし、クエストの質疑応答やクレーム、各々の成績も全てここが管理している。


 故に、人数不足のパーティーである俺達やパーティーを作成したい人達用にフリーの冒険者探しも同時にしてくれる。


 小さなお城のように堂々と建てられた協会に入ると、中には多くの冒険者達が各々何かしらしていた。だが、その目線が全部俺達に向けられ、薄らと聞こえる会話からして、俺達の存在を知っていて驚いている感じ。


 変な夢見てウラロの嫌味があったが、朝から気分がいい。あ、今は昼か。



 俺達は受け付けの方へ行くと、緑色の装備に頭には長めの帽子を付けているのが特徴的な受付嬢が待っていた。



「これは双赤龍(ダブルレッドドラゴン)の方々。お疲れ様です。何かご要件がありますか?」



「あぁ。実はメンバーが一人欠けてな。強化サポートを得意とする魔術士が欲しいんだが、フリーの冒険者はいるか?ランクも出来るだけ高い奴がいいんだが。」



「分かりました。少々お待ち下さい。」



 受付嬢は奥へと消え、少しすると分厚い一冊の本を持ってきた。表紙にはSランク冒険者と書かれており、目次を読んで多くのページをまくっていた。


 冒険者のランクはC.B.A.Sと別れ、Sに近い程優秀な冒険者として認められたことになる。

 協会はクエストの難易度と重要性を計算して点数を定め、それを一定の点数まで貯めるとランクが上がるシステムだ。


 パーティーランクはそうなのだが、個人は試験性だ。クエストで点数を集めた上で試験を行い、合格すればランクが上がる。因みに、俺は当然のことSランクでゴルドとレネとウラロも同じだ。因みに、今はいないロワンはBランクだ。


 冒険者の情報はランク事に束ねており、この受付嬢は当然のようにSランクの冒険者を探してくれている。気が利くな。



「...はい。ここからが現在フリーの魔術士でございます。スキルや代表的な使える魔法を記載されておりますので、ご自身で判断する事も出来ますがどうしましょうか?」



「勿論そうさせてもらう。借りることは?」



「出来ます。ただ、持ち運びは厳禁です。何かに記録する事も禁止です。宜しいですか?」



 俺は頷くと、受付嬢は快くSランクの冒険者集を差し出してくれた。Sランクということで数が少ないのか大して重くもなく、俺は受付嬢がまくったページが分からなくならないよう開いたまま空席へ移動する。

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