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ロワンの祖母

「....いい?死んだ後にロワンさんに会いたかったら人を目指して。身も心も清らかになることを目的とはしないで。

 ロワンさんは人だった。あの人は限りなく優しく良い人だったけど、聖人じゃない。他人に怒りや憎しみ、悪戯心を持つことだって出来る人だった。

 だから、これからはアンタは少なからずそんな人間を目指すべきよ。じゃなきゃロワンさんには会えない、聖人では会えないのよ。」



「聖人?人になれ?何言っている...は、ハッキリとしてくれ。俺は...なんなんだ?俺の目標は間違ってるって言いたいのか?」



「違う、間違ってなんかない。それ自体はいい事だと思うけど、物事には限度がある。ロワンさんに会いたかったら、聖人じゃなく善人を目指して。人の範囲を越えようとしないで。」



 困惑して話の内容が殆ど理解出来ていないのは分かっているのか?カリはそんな俺にしつこく意味の分からない言葉をかける。相変わらず意味不明だが、必死に伝えようとしている彼女に悪気を感じることは無いため、俺は理解せずとも言葉は覚えようとした。

 少なくとも彼女は俺の事を憎んでいる。なのにこれだけ必死になってくれるのは余程のことだろう。



「....分かった。とにかくいい事ばかりやりすぎるなってことだよな?仕事中にちょっとズル休みするみたいな感じをしろってことか?」



「まぁそんな感じよ。本質は分からないだろうけど、それだけは心の端で覚えておいて。

 ...ベグド、私はまだあの時のことを忘れられない。だけど、本当に悪いって思ったからこそ今のアンタがいるって思うから....もしロワンさんに会うことが出来たのなら、私のことを伝えておいてね。」



 カリは悲しげな表情になり、俺に軽く頭を下げた。憎き俺にお願いをした、それは彼女にとって屈辱的にも思えるだろうに...カリの意味深な言葉のマシンガンで穴だらけになった小さな脳みそだが、それだけは強く記憶しておこうと俺は決意した。


 力強く頷く俺の答えに満足したのか、カリは少し晴れやかな顔つきでその場を立ち去った。他三人の女も俺に意味不明なお辞儀を何回もした後、カリの元へと向かった。


 とりあえず、カリに謝るっていう目的は終わった。俺はこれからもう一人の方へ会いに行こうと足を進めるが、そこでレネが声をかけてくる。



「ベグド、ちょっと悪いんだけどさ、三人で先に行っててくれない?私用事思い出しちゃってさ。」



「用事?ここでなんかあったのか?俺達も付き合うよ。」



「あ、いいのいいの!本当に先行ってて!王都の東側の大門で落ち合う感じにしましょ!それじゃ!!」



 冷静沈着な彼女に似合わない行動に俺は首を傾げ、消えていく彼女の背中を見ていた。



「....なぁゴルド、レネから何か聞いてたか?」



「いいや?別に俺達には何も...それよりどうする?こっそり跡をつけてみるか?」



「いや、レネの様子からして他人に干渉されたくなさそうだからな。俺達で行こう。

 本来は俺一人でいいんだが....ゴルドとウラロは何か用事あったりするか?もし良かったらそっち優先にしてもいい。」



 そう聞いてみるが二人共首を横に振る。仕方がなくレネを除いた俺達三人で探しているもう一人の人物に向かって歩を進めた。



 向かった先は居住区。先程の兵士や冒険者のいる実力者揃いが住まう所とは違い、ただの民間人が住んでいる。四年前からここは多くの人が住んでいたが、魔王軍の進行で人間の領地が減った影響か大人気の祭りかと思わせるような密集率。

 馬車が余裕で五台通れるほど広々とした道も今では人に埋もれる。移動するのにも一苦労で俺達ははぐれないように固まって行動する。


 そこから逃げるように裏道へ逃げ込み、迷路のような道を進んでいく。バルブレッドから一応地図は渡されているものの、結構アバウトで辿り着けるかは運次第だろう。



 そして恐らく目的の人物がいるであろう宿屋へ俺達は辿り着いた。緊張で高鳴る心臓を抑えながら、俺達はある部屋の前で立ち止まり、ノックをする。


 すると、少し時間を置いてドア越しに物音が聞こえ、ドアを開いてくれた。すると部屋から顔を出したのは白髪の老婆、ロワンの祖母だ。



「えぇっと〜〜...どちら様で?」



「お久しぶりです。自分はベグドと言います。四年前の話になってしまいますが、一度ロマ村でロワンを探して貴女を訪ねたことがあります。」



「あぁ〜あの時の。ごめんなさいね気が付かなくて...少し印象が変わったように思えたから....その後ろのお二人もあの時の方々よね?」


 


 婆さんがそう話を振ると、あまりいい思い出では無い為ゴルドもウラロも苦笑いで会釈した。



「そうかいそうかい、懐かしいね〜。

 ....まだあの子の事を探してくれているのかい?それだったら」



「あ、その事は自分達も知っています。...本当にお気の毒です。

 ....実はその事もあってここに来たんです。自分達はロワンに....酷い仕打ちをしてきたんです。だから、それが原因で彼に悲劇が...申し訳ありませんでした。」

 


 俺はすぐにその場に座り、婆さんに土下座で謝った。この人には本当に頭が上がらない....本当に申し訳ない...

 するとゴルドもウラロも後ろで謝るのが感覚で分かる。


 婆さんは何も言わなかった。俺達を諭したり罵倒したりせず、ただただ俺達の謝罪を見ている目線だけはハッキリ感じる。



「....貴方達があの子に何をしたのかは知らないけど、その行動だけで十分よ。こんなこじんまりな所で生きている私に態々謝罪に来るんですもの、言わなければ永遠に分からなかっただろうに...

 有難うね、貴方達。」



 その優しさは鋭い刃物のように俺の心に突き刺さる。目元が緩み、嗚咽を出しそうになるのをグッと堪えるので精一杯だった。

 俺達はアンタの孫を殺したようなもんだ。身内はロワンだけだったろうに、そんな大事な孫を殺した俺達にその言葉をかけるのは....酷いですよ...


 俺は泣きそうになりがらも首にかけてあるブレスレットを左手で苦戦しながら取り出し、婆さんに差し出した。




「これはロワンが付けていたもの...アイツの遺品です。事情があって今更になってしまいますが、自分の所にあるより貴女の側にいる方がロワンは喜びます。お受け取り下さい。」



 正直、これは手放したくはなかった。これを身につければロワンが近くで俺の行動を見てくれていると信じていたし、これがあったから天使の試練というあの地獄を乗り越えられた。

 だが、我儘は言えないよな。それも唯一の遺族の前でそんな事は出来ない....


 しかし、婆さんの口からは俺が予想にしてなかった言葉が出てきた。



「それは...貴方が持ってなさい。こんな先の見えた年寄りが持ってても仕方が無いもの。」



「そ、そんな!そんな訳には行きません!俺なんかより余っ程....」



「それはね?あの子の両親がどこからか買ってプレゼントしたもの。何やら幸運を呼び寄せる御守りらしいわ。貴方の方が先は長いんだから、私なんかより余っ程適任よ。

 それをあの子の代わりだと思って、色んな景色を見せてあげて頂戴ね?」



 婆さんは孫の仇である俺に優しく微笑み、その優しい光は俺の心を砕き、目から涙を流させる。歯軋りをしてそのブレスレットを包み込み、後悔と悔しさが入り交じり合う。

 何が幸運を呼ぶだよ...全然嘘っぱちじゃないか!!俺達にいびられて、孤独で死んでいったロワンの何処が....何処が幸運なんだよ!!


 身をも焦がすその後悔は俺を苦しめ、逆に糧としていく。絶対に魔王を倒し、ロワンの元へ行くという強い誓へと変化した。



「...わかりました。それではこれは預からせてもらいます。....あいつの為に俺、後悔ない人生を精一杯歩んでみせます!!」



 その誓いを最後に、俺達は婆さんの元を去った。あの人はあろうことか俺達に茶や菓子を振舞おうとしてくれたが、俺達は断った。

 身内がいなく、こんな人がごったがえしていると知り合いを見つけにくいだろう。会話に飢えているのかもしれない、付き合ってあげるべきだったと思うが、あんな環境下で余裕のある生活ができているとは思えない。魔王軍との戦いが終わったら少しでも楽になるよう、せめて資金援助をするか。



 もう王都で用事はない。俺達は待ち合わせの東の大門に向かうと、既にレネの姿があった。



「レネ、もう用事は済んだのか?」



「えぇ、もう大丈夫。もう出発よね?その前にゴルド、ウラロ、ちょっとこっち来て。ベグドはそのままそこにいなさいよね!!」



 レネは何故か俺だけ仲間外れにして三人でごにょごにょと話し合っていた。これはさっきのささやかな復讐か?

 会話の内容は俺には聞こえないが、三人は俺を仲間外れにして何かしら悪さをしてやろうという雰囲気ではないのは感じた。三人はピリついた表情で会話をし、小さな言い争いが何度も起きた。気になって俺が近づこうものなら、三人で俺を睨みつけてその場にとどまらせる。意味がわからない。


 暫くして会話がひと段落ついたのか、レネが手招きをしてくる。仲間外れにされた分会話に参加できると思って少し浮かれた俺は足早に近寄った。




「お、俺にも説明してくれよ。何話してたんだ?」



「何話してたかは言わないけど、一つルールを決めたいの。絶対に守らなくちゃいけないルール。」



「は?ルール?別にいいが...なんなんだ突然?」



「ルールは簡単なものよ。何かしら策とか行動をする時に反対意見が一つでも出たら多数決をとる。もし負けたらどんなに嫌でも絶対に従うこと!それと、半分に割れたらどっちかに偏るまで口論!いい!?」



 ....カリの時といい、意味不明な現象が起こりすぎて脳みそが張り裂けそうだ。もう考えるのはよそう、理解しようとすると戦う前に精神がすり減りそうだ。



「それは...いいんだが、さっきの時といい結託するんじゃないか?それじゃあ不公平だろ。」



「大丈夫、これから何があるか分からないんだし結託の仕様がないわ。」



「いや、そりゃあそうだけどさぁ...一体なんでそんな取り決めをするんだ?理由を」



 俺がそう聞いても三人揃って顔を険しくして黙っている。さっきの事を怒っているのか?レネに関しては分かるが、ウラロとゴルドまで....ただ、俺に悪気があるようじゃなさそうだ。仕方が無い。



「はぁ〜、分かったよ。それじゃあそういう取り決めで、行こうぜ。魔王軍潰すためにさ。」



 こうして俺達は王都を出て、魔王を目指して戦場へと向かった。

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