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ラゾ3

 そんな気持ちのいい気分の時、様々な人や物音が飛び交う中、大声を上げて私の方に話しかけてくる若者がいた。私の償いの旅の同行者、ゴルド。



「おいベグド!!何ふざけたこと言ってんだ!!レネを助けてやれよ!!」



 彼もまた罪なき者を苦しめた罪人。まだ救いの光が見えていないのか、彼は混乱しているようだ。彼も私が救わなければ。



「ゴルドよ...これはレネの罪の償い。邪魔をしてはなりません。その身体を捧げ、他を喜ばせ、己の身体に生まれた苦痛を糧とし、罪を浄化しなければなりません。でなくては、真の救いは得られないでしょう。」



「何意味わからないこと言ってんだ!カルト神父みたいなこと言いやがって!!

 お前は人を助けまくって天国行きたいんだろ!?こんな所でレネが強姦されても、一時の満足感とレネの心の傷しか残んねぇ!!苦しみきるのが罪の浄化って....そんな簡単なもんじゃねぇだろ!!」



「分からない人だな貴方も。大人しく見ていなさい。レネが身体を委ね、全てが終わった時、彼女は清らかな姿になり得るでしょう。己の経験から他人に優しく出来る、これはその第一歩なのです。」



「っ!.......じゃあ言い方変えてやる。ベグド!!ここで苦しむレネを見放すのは正解とでも言うのか!?それが罪だって思わないのか!?人を救うことを第一としたいんだろ!?なら、まず俺達を苦痛から解放させてみやがれぇぇぇ!!」



 ゴルドの決死の叫び、それは私の心に深く響き、考えさせられる。確かに彼が言っている事は分かるが...仕方がない。ここは一つ彼らの気持ちを汲むことにするか。


 俺は左手で地面を強く押し、反動で立ち上がった。そして左手の指の第二関節を曲げ、拳というには歪な形を作り、レネを捕らえている男二人に攻撃する。俺がいきなり立った事で唖然としていた二人は同じ顔の高さでポカーンとしていた為、狙いは付けやすかった。二人の顎を剣で横に振り切るように拳を放ち、俺の拳は二人の顎の先端をかすめ、意識を両断した。


 二人とも一瞬で力が抜け、レネの横にバッタリと倒れた。すると、ラゾは嬉しそうに笑いながらレネから手を離し、立ち上がる。



「ハハッ!やっぱり演技かい。ずる賢いやつだなぁ〜?伝説的な男がなんとも情けない。」



「...情けなくていい。だから、もうこれ以上俺達には関わらないでくれないか?ゴルド達も離してやってくれ。」



「いいぜ〜?お前がワシを倒すことが出来るんならな!!魔法・雷鉄砲(ライトニングシュート)!」



 ラゾは予告もなしに右手を俺に向け、四年前の時のように魔法を放った。前とは違い威力もスピードも格段に上がっている。彼としてもやはりレベルアップしていたのだろう。しかし、天使の試練を潜り抜けた俺にとってはどうという攻撃ではなかった。


 俺は素早く自分の背にある大剣を引き抜き、その動作の流れでラゾの魔法を叩き切る。魔法は俺の前で散ることとなり、消えていく。

 ラゾの表情はそれでも変わらない。彼自身本気でなく、今のはほんのお遊びっていうのは彼の態度で分かった。



「へぇ〜?少しは成長したんだなベグド様よぉ〜?でも、これならどうだ?魔法・火球連射ファイアーボールレイン!!」



 今度は両手を広げ、人の上半身を飲み込める程の火の玉が何十個も俺に襲いかかってくる。

 四年前の俺なら顔を真っ青にして全弾命中で瀕死だろうが、今の俺はその逆になるだろう。


 俺の予感は的中した。全ての火の玉を紙一重で交わし、切り、防いだ。何発来ようとも当たる気配はなく、俺は大きな余裕を感じる。

 それでも変わらずラゾは連射してくるが、俺の捌き様を見て焦りを感じているのか彼の顔から笑みが消えていた。



「く、クソッ!当たれ!当れェェ!!」



 心の中で願っていたのだろうか、自然と口から漏れていた言葉。それでもその願いをへし折るように、俺は結局カスリもせずにやり仰せた。


 火の玉の嵐が終わり、いつの間にか広場は静寂に包まれていた。誰しもが俺を見て口をだらしなく空け、ラゾの荒れる呼吸が大きく聞こえるほどの静けさ。昔の俺はこの光景に酔いしれていた....今ではなんとも思わないが。



「はぁ...はぁ....なんだよ?なんだよその顔は!!このワシを憐れむようなその顔は!?ただ攻撃を避けただけだろ!?長所のすばしっこさがアピール出来て嬉しいか!?」



「そうだ。俺はあんたを倒せるような技量を持っていない。こうやって避けるのが精一杯...もう怒りを鎮めてくれないか?昔の俺の威張っていた態度で何かしら嫌な思いをしたのなら謝る。だから....」



「ふざけんな!!ここまで来ても逃げ腰か!?このワシに恥じ掻かせて、無事で帰れると思うなクソガキ!!魔法・地獄の業火(ヘルフレイム)!!」



 怒りに染ったラゾは両手に魔力を集中させ、魔法を発動させる。彼が放とうとする魔法は決闘や喧嘩で使うようなものでは決してない、魔王軍に向けるべき致死的な魔法。そしてその魔法が発動すれば俺が避けても避けなくてもこの広場に甚大な被害をもたらすのは目に見える。

 決して難しくない未来予想、広場に居た者達は全員その事を察して慌ただしく射線から少しでも離れようとバタバタしている。


 だが、そんな事は必要ない。魔法を放つ前に全てを終わらせればな。


 俺はスキルを発動し、一気に地面を蹴った。すぐにラゾの目の前に移動し、一瞬反応遅れてラゾは驚愕した。

 そしてその隙に俺は左手で彼の両腕と首を左右に一瞬だけ触れた。ただそれだけだ。友達の肩を叩くくらい優しく、そして彼が反応出来ないスピードでそれを行った。


 すると、ラゾは呆然としながら魔力を収め、その場にぐったりと座り込んでしまった。出会った時のあの自信満々の表情は消え失せ、作り上げた誇りが壊れたような様子だった。


 俺が行ったのは合図。お前をいつでも殺せたんだぞっていう警告だ。こんなに人の目を集めて敗北した彼には気の毒だが、彼を傷つけない上「魔法を放てていたら分からなかった」というプライドの逃げ道は用意した。これが最大限の彼にしてやれることだ。



 俺は戦意喪失の彼には何も声をかけず、拘束をぬけたゴルドとウラロが駆けつけていたレネの元へと向かった。俺は彼女の前に立ち、同じ目線で語ろうと俺は膝を落とすと目の前には俺を睨みつけるレネの顔がある。ただ、それは激怒という訳ではなく少し恨まれているといった印象。少なくとも感謝はしていると表情で語っていると俺は感じた。



「...すまんレネ。お前が嫌がるような事に俺は助力しちまった....」



「...うん。分かったから....取り敢えず少しの間は話しかけないで。別に拒絶とかなんかじゃないしパーティー抜けるとかは言わない。ただ、気持ちの整理だけさせて欲しいの。」



「あ、あぁ。分かったよ。」



 顔を暗くさせて悲しげな表情を浮かべたレネ。そして俺はふと彼女に寄り添うゴルドとウラロを見ると、二人共俺が異常者と言わんばかりに困惑した目線を向ける。

 俺はそんな二人の目線に耐えられず目を逸らす。


 確かに俺はどうかしてたな。ウラロが強姦されかけた事の辛さを身をもって体感したのに、レネの時は逆に助力した。そして何より変に思うのは、未だにそこまで間違った選択をしていないと感じている事だ。

 

 よくよく頭で考えると俺のしたことは間違えでしかない筈なのに、レネに強い罪悪感は感じない。我儘言う子供に渋々譲ったようなそんな感覚を感じている。


 きっとストレスのせいだ。これから会おうとしている二人には笑顔で会えるような関係じゃない。そんな二人の元へ行くのが辛くて、変に混乱してしまっているだけ。少し時間が経てば治るよな....


 気味の悪い不安感を少しでも消し去ろうと自分に言い聞かせ、俺はとにかくここへ来た目的に必死になることで気を紛らわそうとした。

 俺が怒り狂って暴れるのを恐れるように、広場にいる大勢の人は俺の様子を伺っていた。そんな人達を俺は見回し、探している人物がいるかもしれないと希望を持って探す。


 すると俺は探していた人物を見つけた。その者の顔を見ると心臓が引き裂けそうに痛み、俺はゴルド達に話しかけた。


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