ラゾ2
「ククク...逃がさないぞベグド?お前、よくもまぁ戻ってきたよなここに。四年も経てばほとぼり冷めるとでも思ったのか?もしこんな風に喧嘩売られても、その傷と怪我で追い払えると思うか?
確かに、お前が何者か知らなかったら近付きずらいが、お前の実力をよ〜く知ってるワシにとっては良い笑い話だよ。」
「た、頼む。本当に用事があるんだ。それが終わったらここからは去る。だから見逃してくれないか?」
「嫌だね。お前の選択肢はここでワシと戦うか、敗北認めてここにいる全員の小便かけられるかの二択だ。ワシは構わないぞ〜?ま、もし負けた時は痛い思いした上での小便だがな〜。」
ラゾは両手の指を鳴らしながら俺にゆっくりと近づいてくる。彼には勝利の光景しか見えていないのか隙だらけだし、援護重視の魔術師だった者とは思えないほどの近距離。恐らく俺はラゾを難無く倒し伏せることは出来るだろう。しかし、今の俺にとっては彼を倒すメリットが何一つない。
近付いてくるラゾに対し、俺はいきなり正座をする。突然の俺の行動にラゾも目を丸くしていた。
「どうした?早く立って向かってこいよ。それとも早速戦闘放棄か〜?」
「その通りだ。俺はお前より格下で勝つ見込みはない。だから小便でも何でもかければいい。ただ、俺も急ぎの用がある。出来れば早めに済ませて欲しいし、暴行も遠慮して欲しい。」
俺の願いを予想だにしていなかったのか、ラゾは困惑と苛立ちを混合させた複雑な表情を浮かべた。
「は?お前本気でそう思ってんのか?...へっ!四年前まではあんなに猛威を奮っていた奴が情けないこと言いやがる。そんなに痛いのが怖いんでちゅか〜?ベグド様ぁ〜?」
「そうだ。痛いのが怖いし、今すぐここから逃げ出したいんだ。だからもう勘弁してくれ。許して貰えるなら靴でも何でも舐めるから....」
「.......じゃあ舐めてみろよ。ほれ、この砂埃で凄い汚れてるこれを舐めて懇願してみな。」
俺の潔い態度が気に入らないのか、ラゾは睨みつけて怒りを表情に灯していた。そして俺の前に言葉通りに汚れている右側の靴を差し出してきた。俺はそれを見て何の迷いもなく顔を近づけた。別に後悔などない、こうすれば誰も傷つかず問題を解決できる。そう信じていたから。
俺の舌がもうすぐ届くというところでお預けと言わんばかりに靴は俺から離れ、その直後後頭部から衝撃が走り俺は何かに押さえつけられていた。地面に顔を擦り付け、後頭部には革製の何かがグリグリと押し付けられる。俺は頭をラゾに踏まれていると直感した。
「ははは!情けない姿だなベグド!!おい見ろ皆!これがかつて最強とまで噂されたベグド様のお姿だぞ!?」
ラゾは皆に宣言するかのように叫ぶと、周りのギャラリー達は歓声を上げた。笑い声が混じる歓喜と興奮の嵐は俺を中心として渦巻いていた。
俺は踏まれながら何も抵抗しなかった。ただ地面に目線を向け、今自分が置かれている状況を心の底で感じとることだけに集中していた。すると、その集中を引き裂くレネの叫び声が聞こえた。
「ベグド!あんた何一方的にされてんのよ!早く立ち上がりなさいよ!!」
俺は目線を変え、ラゾの取り巻きに掴まれながら必死に声をかけるレネに目線を合わせた。
「私はアンタのそんな姿は見たくない!早く戦ってこんな王都出ましょうよ!ベグド!!」
「黙れレネ!!」
俺は彼女に一喝した。その俺の怒号はこの広場全体に広がり、雨のように降り注いでいた歓声はすぐに消えた。
「これは俺の罰、償いなんだ。この屈辱、この悔しさ、これ以上の事をロワンはされてきた!!なのにアイツは変に暴れたりせず、ずっと耐え続けてきたんだ!!これを我慢するのは当然、俺にとって適正な償いの一つだ!!」
俺の言葉にレネだけでなくゴルドもウラロも目を見開いて驚いている様子だった。無理もない、差別する意味ではないが俺と彼女らの覚悟はまるで違う。だからこそ、こんな状況に苛立ちを感じ、嫌気が勝って行動に起こすんだ。俺は違う、俺は自分の罪を洗い流せるのなら何でもする。
すると、ラゾは相変わらず俺を踏みながら話しかけてきた。
「償い?何の償いだ?長い年月、威張り散らかしてすいませんってか?」
「いや、気にしないでくれ。お前は思う存分怒りを俺で発散すればいいんだ。続けてくれ。」
「いいや、お前にはもうしない。そんなふざけた態度をいつまで続けられるか試してやるよ。
おいお前ら!さっき騒いでたあの女をこいつの目の前で犯せ!」
ラゾはレネを捕まえていた二人の男にそう指示する。レネは勿論だが、取り巻きの男二人も予想にしていなかった指示に頭真っ白だった。
「は?いきなり何言い出すんだよラゾ。そんなの出来るわけないだろ?こんな大勢の中、そもそも俺はそんな趣味ないって。」
「関係ない!!いいか?俺達はこいつに舐められてんだぞ?こんなふざけた態度貫かされて悔しくねぇのか!?お前明日からどんな顔でここで住むつもりだ?格下に舐められて、王都でも出ていくってか!?」
そう言われるとレネを捕まえていた一人の男は何も言えず、二人の男は顔を見合わせて頷くとレネを無理矢理俺の目の前まで連行してきた。レネは激しく抵抗するが男二人には適わず、なすがままに連れていかれる。
そしてそんな幼馴染の危機にゴルドもウラロも顔を真っ青にして拘束を引き離そうとするが、それも阻止され、逆にギャラリーも公開強姦が見たいのか二人の拘束に力を貸す者まで現れた。
ゴルドやウラロの叫び声が鳴り響く中、レネは俺と同じくその場でうつ伏せで押さえつけられ、レネと目線があった。
「ははは!どうだベグド様!これから仲間がレイプされんだぞ!?動かなくていいのか〜?」
ラゾは嬉しそうにそんな事を言う。だが、俺はラゾには目線を向けず、今にも泣きそうなレネの表情をただ見つめていた。すると、彼女はポソりと呟いた。
「...助けて....ベグド......」
その小さな救援要請に対して、俺は何をすればいいのか分かっていた。迷う余地なく、俺はすぐに行動に移す。
俺は何もせず、笑顔を彼女に向けた。
「受け入れろレネ。これが償いだ。」
「..........え?」
「ロワンは俺達に屈辱の限りを受けてきた。だからロワンの味わったその思いを俺達は受け入れ、清めなくちゃいけない。
大丈夫だ、どんなに苦しく死にたくてもロワンの事を思えば乗り越えられる。嫌かもしれないが、これもロワンの元へ行き謝罪する為だ。自分の罪を償う為なんだ。」
俺は至極当然の言葉を発した。自分達の人生を振り返れば至極当たり前の事。しかし、それに気が付いていなかったレネだけじゃなく、彼女を捉えている男二人、そしてラゾまでもが目を見開いて驚愕している。
何を驚いてるんだ?逆にこっちが驚きそうになったぞ。
俺はゆっくりと手を伸ばし、固まった彼女の頬を優しく撫でた。
「お前が苦しむ姿を見るのは俺も辛い。だが、これは俺にとっての償いでもあるんだ。お前は一人で苦しむんじゃない、俺とお前の償いの試練だ。頑張れレネ、俺も頑張るからさ。」
俺は彼女に激励を送った。だが、相変わらずレネの表情は固まり、これから始まるであろう償いの試練がいつまでも開始されない。俺は不思議に思い、ラゾに純粋な疑惑の目を向ける。すると、彼は口を開いた。
「おいお前ら...いつまでそうしてる?さっさとその女犯せよ。」
「....は?む、無理に決まってんだろ?もう辞めようぜこんなの...こいつ、頭おかしくなってる。それで十分じゃねぇか。」
「うるせぇ!じゃあお前らは女抑えてるだけにしてろ!!ワシが犯してやる!!こいつのお望み通り、目の前で犯し散らかしてやらぁぁ!!」
ラゾは俺の頭を踏み付けるのを中断し、発情期の獣のようにレネの上に覆いかぶさった。両腕を押さえつけていた二人の男が引いている中、ラゾは彼女のズボンを下ろそうとし、レネは叫んでいた。
「いや!いやぁぁぁ!!辞めて!!やめなさいよオッサン!!」
「はは!どんどん泣き叫べ!そうすりゃあ盛り上がるってもんだ!!おいベグド!これでもお前は」
ラゾは彼女のズボンを途中まで脱がした所で俺を見て言葉を詰まらせた。何故なのか分からない。何を動揺し、何故行為を中断したのか。俺はただ寝そべったまま、レネを応援しているだけなのに。
「頑張れレネ。叫べば彼が興奮するというのなら叫ぶんだ。悲痛の叫びを上げ、彼にとっての利となりなさい。
この行為の後、貴女はまた一つ変われるでしょう。聖なるものへと導かれる者として、過去の罪を洗い流し更なる段階へ進める。これは償いでもあり昇格の儀式。さぁ、受け入れなさい。自分の罪を、償いを。」
不思議な感覚を感じる。自分の身体が自分の物じゃ無い感覚。私に別人格があるとして、その者が私の身体を乗っ取り会話をしているかのよう。だが、私は嫌な思いを感じない。寧ろ清々しい。綺麗な光を浴びているかのように心も身体も晴れやかになっていく。