表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/64

懇願


 後ろでゴルド達の息を飲む音が聞こえる中、俺は小さくから笑いをした。



「ハハ...それは断れませんね。」



「そうだ。これに関してはワシも気が進まぬ故、謝罪させてもらう。こんなことなどしたくないが、魔王軍にこの世界を侵略させる訳にもいかぬ。分かっておくれ....」



「えぇ、十分に自分も理解はしております。そのお言葉を貰えるだけで有難いというもの、ありがとうございます。」



「うむ。強制であるからな、四人離れ離れというのは止めるようワシから釘を刺しておいたから安心しておくれ。

 それでは早速動くとするか。騎士団には既に君達の装備と役柄を決めるよう手配してある。バルブレッドよ、彼らを案内してあげなさい。」



 王の命令を受けてバルブレッドは一歩前に出て王へ一礼、そして俺達の元へと歩み寄ろうとした時、俺はバルブレッドと王に向けて左手の平を向けた。

「待て」という俺のシグナルハンドにバルブレッドの足は止まり、少し表情が緩やかになった王は再び険しい表情へと変わっていく。



「...なんだベグドよ?何か異議ありか?」



「いえ、自分達が騎士団に入る事を拒もうというわけではありません。ここへ来る前、自分は兵士に「戦場での戦果に見合うお礼をしたい」と言われてここへ来ました。乞食かもしれませんが、まだそのお礼を受け取っておりません。

 これは一兵士の個人的感情ではなく、王国からの命令。王自身の言葉だと解釈出来ますが...」



「...確かにそうだったな。なら、お前は何を望む?金か?装備か?それともその傷を癒すというのか?」



「自分の望む事はただ一つ、魔王が死ぬまで自分の行動を制限しないこと。つまり、魔王軍との戦いで自由行動を許して頂きたいのです。」



 その言葉にバルブレッドは目を見開いて驚き、王に至っては怒りの表情を浮かべていた。それも当然の話だ。この要求は騎士団を抜けて冒険者をしたいと言っているようなもの、結果的に王の要求を断るというものだ。



「そのような要求...ワシが許すと思うか?真っ向から否定するのではなく、一度承諾したその盆をワシの前でひっくり返すとは....許すわけがなかろう!?」



「王のお怒りは最もです。ですがどうか許可をお願いしたいのです。自分達の自由行動に!」



「ならん!これ以上の問答は無用だ!!バルブレッド!今すぐ彼らを連れて行きなさい!!」



 王が怒り口調で彼に命令する。しかし、彼はジーッと俺を冷静に見つめ、まるで人形のように棒立ち。そんな彼の態度は王の怒りの炎に薪をくべるのだった。



「おいバルブレッド!聞こえておるのか!!?」



「...王よ、彼の話を聞いてはいかがでしょう?まだ本質は見えませんが、彼の考えている事はそう悪くございません。」



 激怒している絶対的権力者に向けてバルブレッドは涼し気な顔つきで話した。悪しき思惑も同情もなく、冷静なその目付き、それに当てられた影響か王の怒りは少し落ち着いてくる。

 彼は王からかなり評価を受けているのか、顔色変えないバルブレッドの表情を見て王も抜き取っていた鞘を徐々に収めていく。



「.......言ってみろベグドよ。何故自由行動などを望む?命がそんなに惜しいのか?ここで王国が滅びれた人族などすぐに絶滅するだけというのに。」



「いえ、自分は決して人生残りの時間を優雅に暮らそうなどと考えておりません。寧ろ、戦いを望んでおります。魔王軍を全滅させ、人族皆に希望の光を灯す、それが自分の人生目標であります。」



「それなら騎士団に入るのは何より手っ取り早いではないか。...何故拒む?」



「....自分は多くの者に迷惑をかけ、死人まで出しました。自分が魔王軍に刃を向けるのは、犯してきた罪の償う為の戦いなのです。今まで不幸にしてきた人の分、人々の笑顔を取り戻したいのです。

 騎士団に入れば話はせずとも同志が増え、戦友と呼べる者も出てくるでしょう。ですが、その者達を自分の償いの戦いの犠牲にはしたくない。これ以上、他人を巻き込みたくないのです...」



 俺は心で思ったことをありのまま話した。言葉にすればするほど覚悟が深まり、自分の周りで死んでしまう死体を想像すればするほど悲しみも深まる。言葉にするのが辛くなり、息すら詰まる。



「王よ、お願いです。これ以上、自分に償いきれない十字架を背負わせるのはやめて頂きたい。魔王を倒した暁には報酬など要りません。自分の命尽きるその瞬間まで王国の為、人々の為、この身を捧げます。ですから、今一度自分の我儘を聞き入れて貰えないでしょうか!?」



 俺は片膝を崩し、感情のままその場で土下座した。自分の目から零れそうな涙を誤魔化すように、必死に額を床に擦り付けて全力で願った。そんな俺の姿を見てゴルド達も頭を床へと着けていく。


 唾を飲み込む音すら大きく聞こえるような静寂に包まれ、王はゆっくりと息を吐いた。



「....バルブレッド、彼の言っていることは本心。間違いないな?」



「えぇ。注意深く覗きましたが、彼の思いや今の言葉に微塵も汚れはありません。この言葉は信頼されてもいいかと...」



 バルブレッドの言葉を聞いた王の顔から怒りの感情は消えていく。そしてその代わりに哀愁漂う表情に変わっていき、俺達を哀れんでいるように見ていた。


 


「...ベグドよ、ワシは君の想いに応えたい。しかし、現実はそう甘くない。騎士団に入り作戦を練り、戦う。被害は出るが、そちらの方が我ら王国軍にとって有益であり強力。四人のパーティーで突撃しても、成果はたかが知れているのではないか?」



「少数人だからこそ通りくぐれる隙間があり、大打撃を与えることも可能です!そして自分自身を過大評価させていただきますが、自分は過去稀に見る実力者。

 奴らの懐に入った際には相当の打撃を与える事ができると確信しています!王国軍にもそれは有益な筈です!!ですから....ですからどうか!!」



「はぁ...分かった。君達の要望に応えよう。」



 その言葉を俺達は聞き逃さなかった。すぐに顔を上げ、ゴルド達は小さく大きな歓喜を表現し、俺は激しく動揺していた。



「ほ、本当に宜しいのですか?お認めになって頂けるのですか?」



「あぁ。君達を騎士団に入れたとしてもその実力から早々に前線へは出せまい。君らの出番が来るのはこの王都が攻撃されてからで、宝の持ち腐れになる可能性も十分にある。

 元々、君は行方不明だったんだ。本来は無かった戦力....捨てるようではあるが一か八かに出しても良いだろう。...バルブレッド、お前はどうだ?」




「異論ありません。」



「よろしい。それではベグド一行は騎士団へ入団、そして自由行動を許可する。装備や食料は騎士団から補給するといい、お前達は騎士団員なのだからな。

 それでは、解散とするかの。」



 王はゆっくりと腰を上げて疲労を顔に浮かべながら裏扉から退室しようとした。そんな王の背に俺達は今一度頭を下げ、感謝を表す。

 謁見の間にいた兵士達もゾロゾロと解散していく中、俺はすぐにバルブレッドの元へと向かった。



「ば、バルブレッド殿!先程はありがとうございました!」



 駆け寄りながらお礼を言う俺に対し、彼は冷静の体現者かのように顔色変えず振り向いた。



「お礼はいりません。貴方が本心出なかったら、その首を切り落とす準備はしていましたから。」



「そうでしたか...しかし、何故自分が実力を誤魔化したのを王に報告しなかったのですか?怪しいと思わなかったのですか?」



「とても怪しくは感じましたが、貴方の心は驚く程綺麗でしたのでね。五年前は真っ黒な汚水のように穢れていた心が綺麗に取り除かれていたので、貴方が考えていることに興味を持っただけです。」



 そうだったのか....一見非常にも見えるような態度だが、中身は結構人想いではあるのか?...フッ、もし彼が女だったら惚れていたかもな。



「惚れて貰っても困ります。私は巨乳の長髪清楚な女騎士派なので。」



「....人の心を読むのもアウトだが、それを会話にしないでくれ...」



「失礼。ま、奇襲に対しての仕返しということで。それでは。」



 バルブレッドは顔が真っ赤になった俺に軽く一礼をするとその場を去ろうとする。しかし、彼に話しかけた俺の本題がまだだった為、再び呼び止めた。



「ま、待ってくれバルブレッド殿!忙しい身であるのは承知しているが、頼みたいことがあるんだ!」



「....何でしょう?そんなに急ぎの用ですか?」



「自分達はここへ遊びに来た訳では無い。準備が出来たらすぐに戦いに行くつもりです。その前に片付けておきたい。

 ...二人、この王都にいるかどうかは分かりませんが二人の人物を探してもらいたい。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ