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実力証明


 王は右手で指を鳴らすと、左側に立っていた兵士の列から一人だけ王の横へと移動する。短い金髪にそれを象徴するかのような褐色肌、右目には黒い眼帯をつけ、歴戦の強者というよりイケてる若男というイメージが着く凛々しい顔立ちをしていた。

 その者は俺達の方を向いて「顔を覚えて欲しい」と言わんばかりに堂々と凛々しく立っている。

 この者の顔はゴルド達も知っているので、背中から小さく声が漏れるのが聞こえ、俺はこれから何をやらされるのか想像ついた。



「覚えているかベグドよ?彼は五年前、ワシに実力の披露にと手合わせをさせた兵士。騎士団団長のバルブレッドじゃ。」



「えぇ、覚えております。しかし、その方は確か....」



「そうじゃ。この者は前まで副団長だったが、先代団長が魔王軍との争いで戦死してな、この者が団長へと就任した。しかし、ただの繰り上がりではない。団長同等の力を持っているのは証明済み。

 ベグドよ、この者と戦ってもらいたい。ワシにもう一度君の実力を示して欲しい。君の力量がいかなるものか、この目で確認したいのだ。」



 王が発言した直後、バルブレッドは高見を降り、王の目の前を中心に少し間を空けた所で俺を待った。新品のような輝きを放つ銀色の剣を手に取り、俺をひたすらに待った。



「剣を構えて頂きたいベグド殿。これは王へ貴方の実力を示す披露会のようなものですが、私は五年前貴方との立ち会いで敗れた過去があります。手加減は致しません、その首頂くつもりでいきますのでそのつもりで。」



 冷静さを装っている風だが、言葉や口調から少なからずちょっとした意地というのを感じる。彼に不似合いな暑苦しさを感じるが、俺はそれに当てられず、意識して冷静を保とうとした。



「....スキルの使用は如何します?それと、勝利条件は?」



 バルブレッドは剣を構えて何時でも戦闘態勢に取れる準備をしているのにも関わらず、俺はまだ片膝を着いて呑気に彼に尋ねる。

 五年前に出会ってそれっきりで彼のことは殆ど分からないが、彼は極めて冷静な人物だと俺は思っていた。時の流れか、団長に就任したプライドなのか、彼はそんな俺の態度に少しばかり苛立ちを感じているように見えた。



「...勝利条件は相手が敗北を認めるか、王の中断によるものとさせて頂く。一度倒した男には負けないという自信があるのか知りませんが、あまり余裕」



 彼が話しているその真っ最中、俺はすぐに全身に力を巡らせ、一瞬で貯めた力を放つかのように全力で飛び跳ね、俺はバルブレッドに突進する。俺の緩急つけた対応と予想だにしなかった奇襲に彼は驚きの表情を見せ、剣を振ろうとする。


 しかし、その油断の差はそんな彼の行動をすぐに埋め尽くす。すぐに背後へ回り、後ろから大剣を彼の喉元へ当てる。彼はあっという間の出来事に固まり、唾を飲み込むことしか出来ずにいた。


 圧倒的実力の差を証明できた。王だけでなくゴルド達も目を見開いて驚いていたが、こんなのはただの誤魔化しに過ぎない。

 五年前、彼とやり合った時は少してこずったが勝てた。今の俺の実力は五年前と差程変わらないのは、スキルを使用した時の景色が物語っている。それに対してバルブレッドは団長にまで登り詰め、確実に実力をつけたはず。


 勝てるかどうかも分からない相手だったし、何より俺は圧倒的な存在でなくてはならない。底が見えず、実力が未知数な存在でなくては。少なくとも、この王城から出るまでにはそうでないといけない。



「卑怯、などと言わないで頂きたい。戦場では寧ろこれが正攻法。そうですよね?騎士団団長殿。」



 俺は大剣を彼から離し、少し距離を置いた。荒れる息を整えていただけの彼は少しすると俺の方を見る。睨みつけるのでも尊敬の眼差しでもない、感情が読み切れない目付き。俺はここから第二回戦が始まるのではとヒヤヒヤしていたが、彼は溜め息を吐いて剣を収め、王に一礼した。



「王よ、ご覧の通り私の敗北であります。言い訳はしません、これは私の甘さゆえの結果です。」



「う〜む....しかし、これでは彼の実力が測れない。ワシの要望には答えられていない、違うか?」



「奇襲をしたのですから、彼自身にも事情はあるのでしょう。少なくとも五年前と同等以上の力を積み、そして王がご覧になる前で奇襲という選択肢を取れる勇気、期待して良い存在だと思われます。私のスキルを通しても、彼は彼自身の実力。誰の助けも得ていません。」



 バルブレッドは奇襲で恥をかかせたであろう俺の肩を持つような発言をする。それ自体も違和感ありありだったが、俺が気になったの最後の方だ。



「は?スキル?」



「えぇ。私のスキルは相手の心を読み取るスキルです。眼帯越しに相手の心をこの右目で見るのです。」



 そう言うとバルブレッドは眼帯をズラして俺に右目を見せてきた。彼の右目の瞳孔は黄色く光っており、何もかもを見通すような感覚を感じさせた。



「眼帯は敵にスキルを悟らせない為のもの。スキル使用時は目が極端に疲れるので、普段は使用していません。奇襲を読み切れなかったのはそのせいで、スキルを使ったのは奇襲をされた後でしたよ。」



 彼は敗北したにも関わらず微笑みながらそう話した。正々堂々ではなく奇襲という点からあまりプライドが傷つかなかったのか?

 それに五年前は明かさなかったのに、何故今になってスキルの説明を......ん?てことは、俺が実力を誤魔化したのをこいつは承知しているってことか?でもなんでそれを王に隠す....訳が分からない。


 

「...何故奇襲を行ったのかを読み取ることは出来ませんでしたが、決してやましい心故の行動ではないと私は感じます。

 いかがでしょう陛下?私としましても、先程の後に剣を構えろと言われると少々気が進みませんが...」



「油断していたとはいえ、団長を相手にさせない実力者というのが分かっただけでも吉とするか....

 もうよいバルブレッド、下がりなさい。」



 王の指示にバルブレッドは一礼すると元の列へと戻って行った。戻る際、こちらをジーッと見つめているバルブレッドには困惑したし、今も眼帯越しに心が読まれていると考えると緊張してしまう。


 しかし、王に俺がとてつもない実力者だと認識させるという難関はクリアした。これが無くては俺は兵士として王に操られる可能性が凄く高い。逆に言えば、実力者だということになれば多少の我儘も押し通せるというものだ。



「...すまんなベグドよ。老いぼれの我儘に付き合ってもらってな。」



「いえ、とんでもございません。王にとって自分は疑問だらけの存在でしょう、こういった対応はまさに適切かと。」



「うむ....それに加えてベグド。いや、他の仲間達に関してももう一つワシの我儘に付き合ってもらうぞ。我が王国の兵士となりなさい。冒険者ではなく、我らの騎士団に入ってもらう。」




 これに関してはゴルド達も懸念していたからか、小さな声で焦るように俺に話しかけてくる。しかし、俺はその言葉には耳を貸さず、目の前の王だけに集中した。



「...我々は冒険者です。騎士団になるか冒険者になるかは各々の判断で決める事が定められているはずですが?」



「状況が変わった。冒険者に依頼する者も仕事内容も魔王軍の進行上、出来る余裕はない。今の冒険者には王国からの仕事でしかなく、なにより騎士団より割安。騎士団に入った方が得なのは一目瞭然だ。」



「...それを分かった上でも冒険者でいたいと言いましたら?」



「すまないがこれは命令だ。従う以外道はない。もし抗うというのなら、王国から指名手配を出す。人間と魔物に追われる日々になるぞ?」



 王は俺を脅すように睨みつけ、「いいえとは言わせない」と言葉と表情で伝えてきた。

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