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 日の光が真上から世界を照らす頃、再結成した双赤龍(ダブルレッドドラゴン)の俺達は総勢二十人の兵士に囲まれながら村を出た。王都までの道のりは長く、何日か日を跨いだ。その間、兵士達からは若干恐怖の色が残りつつも俺達に対しては高待遇だった。

 飯から身体の疲労のケア、挙げ句の果てには性欲処理だと異性の相手を促したりなど様々。

 まるで移動しながら王族の生活を体験させてもらっているようだった。


 しかし、過去の出来事とこれからの人生の姿勢を考えると甘える訳にはいかず、極力兵士達の世話は受けなかった。流石に性欲処理に関しては凄い後悔は残ったが、兵士達に半強制的に従わされている女数名は嫌気が表情に出ていたことから手を出さなかった。



 自分の理性と戦いながら歩き続けて間もなく、俺達は王都へと辿り着いた。四年前とは差程建物などは変わっていない。

 何百年も続いてきた王都だ。状況が厳しくなっているとはいえ、たかだか四年で変化するわけが無い。


 ただ、人口の数は四年前とは比べ物にならない程多くなっている。毎日が祭りなのかのように慌ただしいが、そこには笑顔などなく幸せの余裕など感じられない。誰しもが必死に仕事をこなし、仕事を探しているという感じだった。


 そんな者達の間をくぐり抜け、俺達は王が住まう王城に足を踏み入れた。外の慌ただしい雰囲気とは一点、まるで真夜中の草原にいるかのように静寂そのもの。品性を表すかのようにホコリ一つない絨毯にシャンデリア、高そうな金品が廊下の橋に並べられ、花すらも輝いて見えた。



 ここにきたのは五年前、俺が勇者候補として来た時振りだ。外は変わっているのに、この城は本当に変わってないな...



 そう心の中で呟いていると、いつの間にか俺達は見上げるほどの大きな扉の前に立たされていた。まるでオークが住まうように巨大で、城壁門のように厚く存在感のある扉。それを兵士二人がかりで開け、中の謁見の間へと誘導される。


 まるでダンスの会場かのように豪華で広々な謁見の間、赤い絨毯が奥へと伸び、それに合わせるかのように何十人の兵士が武器を構えて壁際に立ち、剣先を向けないよう上を向かせていた。

 そんな兵士の間を絨毯に沿って歩いていると、俺達より少し高みに座っている老人が見える。まるでこの王城を擬人化したかのようなあらゆる高価な装飾品を身につけ、尚且つ清潔感が漂う服を身につけていた。


 ラバラル王、俺達人間を統治している男。


 その王と目が合うと、すぐさま周りの兵士は片膝をつき頭を下げる。そしてすかさず俺も同じように頭を下げ、レネはボーッとしていたウラロとゴルドの頭を持ちながら同じように下げた。




「陛下!ナブリット村の戦闘任務を終え、ただいま帰還した事を報告させていただきます!そしてこちらが、魔王軍を追い払ってくれた者達、双赤龍(ダブルレッドドラゴン)の方々であります!!」



「ふむ...ご苦労だった。君らは下がれ、ワシはこの方々と話があるのでな。」



「はっ!」



 一人の兵士の返事と同時に周りの兵士もまた一段と頭を下げ、全員が同じタイミングで立ち上がり、謁見の間を去っていく。俺の視界は赤い絨毯に染まっていたが、その綺麗すぎる足音は変な感覚を覚えた。



「.......面をあげよ。」



 王の呟く声に合して俺達は顔を上げた。王は頬杖で片手に寄りかかり、威圧的な目線を向ける。



「ワシの事を....覚えておるか?勇者候補ベグド。」



「勿論であります。五年程前、まさにここで勇者候補と王が認めてくださいました。あの日のことは忘れようもありません。」



「ふむ...確かに五年前、ワシはここで君に勇者候補の肩書きを授けた。しかし、五年前とは見違える姿だな。まるで別人のように感じる...

 その夥しい傷や怪我にまみれた外見だけでない。内面も変わったようだ。前の君は礼儀正かったが、今の君ほど自然体ではなかった。」



 確かに五年前は度重なる実績と賞賛による頂の称号を手に入れた気分だったからな。自分の力で手に入れたものじゃないのに、俺の中は傲慢に溢れていた。嫌な記憶だ。



「お褒めの言葉、誠に恐縮です。」



「礼などいらぬ、本当に思ったことを言ったまで。しかし、だからこそ思ってしまう。君は偽物ではないかとな。ナブリット村での戦果は疑いもない事実だが、ベグドの名を語り何か良から無いことをしようとしているのではと...

 本物なら無礼極まりない事だが、状況も状況じゃ。すまんが、本物だという証明を見せて欲しい。」



 自分が本人だと示す、それはとてつもなく難しい事だろう。常に特定の個人を監視している訳でも無いし、その者でしか持っていない物を提示すればいいだろうが、そんなものは持たされていないし略奪したと疑われたらそれまで。しかし、この世界にはスキルがある。唯一無二、偽装することなどできない最強の身分証明が。


 俺は心の中でスキルを唱え、身体全身が青い光の粒子に包まれた。そして、俺は素早く自分の背にある大剣を引き抜き、古びた刃を王に見せつける。王にとっては一瞬の出来事だったろう。



「スキル・神速(ゴットラッシュ)、とてつもなく素早くなれるスキルです。これは以前、王の前でも披露した筈です。」



「うむ、どうやら本物のようじゃな。だが、本題に入る前にもう一つ君に聞いておきたい。君は四年前、行方不明になる前に軟弱者と呼ばれていたそうでは無いか?初めて聞いた時は驚いたよ....ここで君の実力を見たワシにとっては有り得ないことだ。

 しかし、君が格下の男に倒されたというのも事実のようだ。不意打ちとは呼べず、勇者候補なら避けられるであろう攻撃を避けられなかった。事実か?」



 恐らく当時Sランクのラゾとのいざこざの事だろう。俺達がアイツらに酷い目に遭わされ、そのせいで一ヶ月は王都で足止めをくらった。...あれがなければ、ロワンに生きている間に....


 いや、何俺は怒りを感じている?あの足止めがなかったらロワンは生きていたが、頭が空っぽの俺がもっと酷い事をしているに違いない。ラゾを恨むのはお門違いだ。



「えぇ、その通りでございます。」



「そうか...訳を話して貰えないか?ワシにはどうしても信じ難い。君が見してくれたあの力は、軟弱者と言われるには到底値しない。」



「あの時は....もう一人居たパーティーメンバーのおかげなのです。彼が自分達を支え、自分を勇者候補へ押し上げてくれた。五年前の称号は自分ではなく、彼に与えられるべきでした。しかし、その時の自分はそれを知らず、彼を無能扱い。結果、彼を追い出してしまった。

 その時、自分は敗北したのです。」



 王はうねり声を上げながら頭をポリポリと掻き、本来居るべきはずだった空白を見つめる。その視線が俺には何より痛く、苦痛だった。自分のせいでこの世から消えてしまった存在、それを感じるだけで涙が出てきそうだ。



「う〜む...あの頼りなさそうな彼がまさかそんな実力者だったとは....その者はどこにいる?まだ生きているのなら王国が全力で捜索をしよう。」




「いえ、その者は亡くなりました。自分の身勝手な判断で...彼を.......自分が殺してしまったようなものです。彼を余りに無下に扱い過ぎた...己自身の弱さに気が付かず、彼に不当な扱いを.......」



 言葉にすると溢れ出てくる悲しみ。そんなの俺なんかが感じる資格などないのは分かっていたが、理性とは裏腹に目からは涙が落ちてくる。



「そうか...君の見違える変化には何となく納得がいった。その傷、無くした腕、相当な訓練を要したのだろう。」



「いえ、彼にしたことに比べればこれは欠片にも入りません。自分の中にある罪悪感と比較すれば、この代償はあまりに軽すぎます....」



「...感傷に浸っているところ悪いが、これ以上の会話は不要だ。少しこの老いぼれの我儘に付き合ってもらうぞベグドよ。」


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