別れ?
そんな話をしていると、眠そうな呻き声を上げながらウラロが片目を擦りながら起きた。少々、会話の声が大きかったか。
「あ、すまんなウラロ。起こしちゃったか。」
「ん〜?.......ベグド!目が覚めたんだ!!良かった〜!!」
ウラロは俺の胸元に飛びつき、頭をスリスリと擦ってきた。俺はウラロの反応が嬉しく、微笑みながら頭を撫でてやった。しかし、顔見知りとはいえ、女性に抱きつかれた衝撃は凄まじい。すぐに頭がピンク色に染まり、股間が急激に元気になってしまう。
ベットの上だが最大限に腰を引き、レネやウラロに悟られぬように笑顔を向けていると、ドタドタと慌ただしい足音と共にゴルドが現れた。
「ベグド!やっと起きたのか!!」
「あ、あぁ。すまんゴルド、心配かけたな。」
「そんなのは良いって!それより丁度良かった。今家の前に王国の兵士が来ててよ、お前に話があるってさ!!」
「俺に?...分かった。すぐに行くよ。」
俺は怠さを感じる身体を動かし、ウラロを退かして立ち上がった。
格好は何処からどう見ても寝間着だが、この身体で着替えるのは結構しんどそうだし時間がかかるだろう。待たせるのも悪いから、無礼かもしれないがこのまま行くか。
俺は兵士の急な訪問に緊張しつつ、玄関へと向かった。当然、腰を若干引かせながらだ。
玄関にはゴルドの言う通り三人の兵士が俺を待っていた。三人とも戦闘態勢と言わんばかりに銀色の甲冑に身を包み、二日前の戦闘で見た事のある顔つきだ。
「休息なところ申し訳ない。無礼も承知ですが、こちらも仕事なので。そこの所をご了承ください。」
「別に構いません。それで、自分になんの用ですか?」
俺は真剣に丁寧に話していたが、後ろからゴルド達のヒソヒソ声が聞こえた。「ベグドが敬語使ったぞ?」「俺じゃなくて自分ですって。」「何かベグド気持ち悪い〜。」若干笑われながら三人の囁き声に俺はイラついた。
そんな三人の挙動を兵士はチラッと目線を向けるが、すぐに俺の方へと固定された。
「....先程この家の者に聞きましたが、貴方は以前王都で活躍なさっていた勇者候補のベグド様らしいですね。間違いないですか?」
「えぇ、まぁそうですが...それが何か?」
「そうですか。いえ、我々としても突然現れて魔王軍を追い払った人物は不気味で仕方がなかったのです。ですが、身元を知ることが出来て幸いです。
しかし、貴方は四年前に軟弱者のレッテルを貼られて王都を出ていったと聞いておりますが....随分と噂と違う実力ですな。何か理由でも?」
あぁ〜、あの惨めな思いをした出来事を鮮明に思い出しちまう。本当に、あの時の記憶を消すことができるなら、俺はどんな代償でも払える気がする...
「あはは....何の理由も無いです。あの時は偽の実績に浮いていただけ、軟弱者のレッテルは間違いでは無いです。今はそれよりかはマシにはなっているとは思いますが、まだまだ...
それより、今日は自分の身元を把握する為にここへ来たのですか?」
「いえ、実は王都から招集がかかっています。勿論、我々もそうですが貴方も。先日、王都へ連絡したところ、貴方を是非迎え入れたいと。この村を、そして魔王軍を追い払った手助けをしてくださった礼をしたいのです。」
なるほどな....そりゃあ、王国側からすれば魔王軍をすぐに追い払える実力者を見失うわけにはいかないだろうな。礼というのはただのついで、本当の目的は俺を次の戦いに引き立たせることだろう。
「...一応聞きますが、もしそれを断ったら?」
「その時は我らの命を犠牲にするつもりで貴方と戦うつもりです。勝てる気は更々ありませんが、もしここで我らを殺害すれば、王国から指名手配犯にされるでしょう。人間からも魔王軍からも狙われて、生きていけないのは目に見えています。どうか、我々と来て貰えませんでしょうか?」
お願いするにはヤケにパンチの効いた脅迫もするもんだ。しかし、今の王国の現状を考えれば当然の事だし、こういった待遇で王国へ呼ばれるのは俺にとっても好都合だ。
俺はこくりと頷いて了承すると、三人の兵士は内に秘めていた緊張感が解けたのか分かりやすく微笑んだ。
「そうですか!それなら、明日の朝にお迎えさせて頂きます。申し訳ありません、本来ならこんな脅迫無しに貴方を出迎えたかったのですが...」
「これも仕事、何ですよね?分かってますから。それじゃあ、もう少し自分は休ませてもらいます。良い夜を。」
俺は軽く会釈すると、三人の兵士も嬉しそうに会釈を返してくれて、俺は玄関のドアを閉じた。
俺はソファーの方へ戻ってもう一眠りするつもりだったが、ゴルド達三人はまだ部屋から俺の様子を顔を出してみていた。
「フッ....ということだ。俺は明日から王都へ向かう。本当、大変な時に家を貸してくれて感謝してるよ。」
「感謝されるほどじゃねぇよ。四年前のことを考えればこんなの軽すぎるって。それより王都へ行って良いのか?多分、お前を兵士として迎え入れるつもりだぞ?」
「大丈夫だ。そこら辺は不本意だが考えがある。まぁ、そんな物騒な話じゃないさ。もう、俺は誰の人生も狂わせる訳にはいかないからな。
...ここへ来て、お前達と会えて本当に良かった。魔王軍との戦いが一段落ついたらさ、この日のお礼と四年前の償いをさせてもらうよ。悪いが強制でな。」
俺は笑みを混じえながら話すと、ゴルドとレネも俺に微笑み返し、部屋から出て廊下で俺と面を合わせて声をかけてくれた。
「俺も、またお前と出会えて良かったと思ってる。四年前のことを考えると、どっちも謝り合戦になってキリが無いからな、まずお前の償いを楽しみに待ってるよ。」
「そうね。その後は私達の番だから快く受けるのは当たり前よね?ここで私達なりに必死に考えるからさ、逃げるんじゃわないわよ?
....死なないでねベグド。アンタに言いたいことも聞きたいことも山ほどあるんだから。」
見送りでもないのに二人はそんな言葉をかけてくれた。出会って謝罪した、罵詈雑言を受ける覚悟だった俺の気持ちを気持ちよく吹き飛ばすかのような二人の反応は素直に嬉しかった。ただ、一人だけモジモジして一向に出てこないウラロが気になる。
そんなウラロにレネは気が付き、彼女の背中を叩いた。
「ほら、何やってるのウラロ?考えたくもないけどもう会えないかもしれないから、早く言いたいことあるならいいな?」
「う、うん...ベグド、あのね?.......本当に我儘なのは分かってるんだけどさ...私達ってもう一度パーティー組めない....かな〜って...」
俺もゴルドとレネも予想だにしていなかったウラロの発言。俺は呆然ととしてしまったが、ゴルドはすぐに食いついた。
「ウラロ!お前何言ってんだ!!」
「だ、だって!四年前に冒険者辞めて、ずっと村で過ごしてきたけど...やっぱりあの時は楽しかったし、忘れられなかったんだもん!また、冒険者やりたいって思ってて....」
「俺だってそうだが、今のベグドの力を見ただろ!?俺達が付いて行ったって足でまといがオチだ。その上怪我でもしてみろ?足でまとい以上の存在になる。もうこれ以上、ベグドに迷惑かけるわけにもいかない。そうだろ?」
ゴルドが諭すと、ウラロは目を麗せながら頷いた。納得出来るが、名残惜しさを持っていたのはすぐに分かる。