公開解雇
その言葉にロワン以外は樽ジョッキを持ってすぐに駆け付けてくる。ロワン以外は話が通っているので分かっているが、ロワンにとっては突然の事で驚き、慌ててついてくる。
メンバーが揃うと、俺は両隣にロワン以外を立たせ、ロワンを俺と対立する形で立たせた。
「ロワン、お前には色々と苦労かけたな。サポート役だから俺達の私生活全般の家事とか、クエストの荷物持ち、クエスト中は保護スキルや保護魔法を耐えずに行ってくれた。
それに、色々と傷付くような言葉も気にしたんじゃないのか?」
「え?...う、うん。...それはそうだけど....」
「そっか。そうだよな....でも、もう安心してくれ。そんな我慢なんてこれからはする必要なんてない。お前はこれからの人生は好きな事をして生きていけばいい。
これから...一人で生きるんだからな。」
俺は諭すようにロワンに伝えた。ロワンの奴は俺の言葉が信じられないのか驚き、言葉すら出なかった。優しくロワンの肩を叩き、俺は再び大声で宣言した。
「皆に報告したいと思う!今日をもって双赤龍から魔術士ロワンが脱退することになった!!」
「え?え!?な、なんで!?」
「こいつはサポート役だがクエスト中、俺や周りの指示にすぐに対応出来ない!行動一つ一つがトロイ上、俺達にストレスを与える存在でしかない!俺は仲間には何度か命を救われるような場面があったが、コイツに限っては一度たりともない!そんな奴を抱えて魔王軍に勝てる訳が無い!」
ゴルド達三人は俺の言葉に賛同するようにニヤニヤしながら頷くが、ギャラリーの奴らはシーンと静まっていた。
奴らはコイツが近くにいるだけでストレスを与える存在だと言うことを知らないし、偽善者の皮をかぶり続けている。俺がその皮、剥いでやるよ。
「だからロワン、お前はクビだ。長年見てきたお前の魔術士としての実力は最低のCランクレベル。だが、このまま返すってのも可哀想だからな。俺達からお前に餞別だ。遠慮なく受け取りな!」
俺は動揺しているロワンに目掛けて酒をぶっ掛けた。そして、それとほぼ同時にメンバー三人も酒をロワンにかける。ロワンはずぶ濡れになった身体を呆然と見つめ、酒臭さが漂った。
「...ぷ!クハハハハ!!良かったなロワン!その酒美味いんだぞ!?喜べよ!」
「そうそう!ゴルドの言う通り!ウラロ達が今まで我慢してたのに、お酒まであげたんだよ?感謝して欲しいくらいなんですけど〜。」
「そうね。アンタなんかにここまでしてあげるなんて、私達くらいよ。ほら、お礼言いなさいよ。あ、でもこれからは人に近付かない事ね。アンタ臭いし。フフフ...」
三人のメンバーに笑い声と酒をかけられたロワンは一丁前に泣きそうな面を見せる。今まで見た中で最高の顔だ。
ふと、俺は振り返ると、周りの奴らはまだ偽善者の皮を被っていた。
「お前達、遠慮しなくていいんだぞ?それは俺の酒だ。今俺達は、コイツの未来の人生を願ってやってんだ。コイツにとってはご褒美。その証拠にこいつ、感動で泣きそうにしてるぞ?ククク...」
そう声をかけても誰も乗らない。どいつもこいつも気まずそうにして、俺から目線を逸らそうとした。やっぱり他人が動かなくては意味が無いか。
俺は周りを見渡し、先程声をかけてきた女パーティーを見つけた。さっきのように三人ではなく五人揃ってこの光景を呆然と見つめており、彼女達と目が合うと俺は手招きした。
彼女達は気まずそうに俺に近付き、積極的だった真ん中の子の樽ジョッキを持つ手を掴み、ロワンに目線を向けさせ、再び耳元で囁いた。
「ほら、君もやってあげて?彼の為を思ってさ。」
「で、でも...これって....」
「酷いって?そんなわけが無い。俺が良いって言ってるんだから良いんだよ。第一、原因は彼の日頃の行い。さぁ、酒をぶっかけて笑い飛ばしてやろう。俺と熱い夜を交わしたかったらさ。」
俺は彼女の背中を少し強めに押した。樽ジョッキを持った新人冒険者が酒場の中心へと現れ、ゴルド達も彼女に場を譲って退く。
不安そうに彼女はロワンの前に立ち、こちらを見てくる。俺が頷いてやると、彼女は意を決してロワンに酒をかけた。
シーンと暫く静寂が訪れると、俺達は思いっきり笑い飛ばしてやった。
「いいぞ!いいかけ方だ!ほら!皆も遠慮せず酒をかけていいんだぞ?勇者候補の俺が言ってんだからどんどんぶっかけろぉ!!」
俺達双赤龍が爆笑し、俺が大声でそう言うと、冒険者の女が避けた後から少しづつ周りのギャラリーがロワンに酒をかけてくる。次第に数は増していき、笑い声も飛び交う。
ロワンはずっと下を見つめて両拳を握り、酒場の全員による酒と笑い声に耐えていた。全員がかけ終わると、俺は豪雨の中にいたようなロワンに近付き、酒臭さを我慢しながら最後の声をかけた。
「じゃあなロワン。お前みたいな無能魔術士は俺達のパーティーには要らない。さっさとどっかいけよ。」
俺は前蹴りでロワンの腹を蹴った。ロワンは悶絶し、涙を浮かばせた目で俺を見つめると、我慢出来ずに大事な杖を持って酒場を出ていった。
その後もギャラリーの笑い声は止まらず、寧ろ盛り上がった。そんな光景を見て俺は確信する。
俺は間違ってなんかいないと。
「さぁお前達!どんどん楽しく飲もうぜ!!無能ロワンの脱退記念だァァァ!!」
酒場は一気に熱を灯し、銃声のような盛り上がりは騒音のように響き渡った。酒に酔い美味い飯を食い、ロワンの話をツマミにする。それが最高に楽しくて仕方がなかった。
ゴルドが呑み潰れるのをキッカケに俺達は宿へ帰宅した。俺とレネで協力してゴルドの大きな身体を支え、ゴルドの個室で寝かせ、レネとウラロはまだまだ飲み足りないと言って酒場へと帰る。
それなら俺は楽しくやらせてもらうだけ。俺のファンと言って声をかけてきた三人の女と夜を共にした。酒場での熱を再現するように柔らかく色っぽい身体と声を堪能した。
喋るのが苦手と言っていた子はいつの間にか姿を消しており来れなかったのが残念だが、俺はロワンの居なくなったストレスなのか、今夜の交わりはとてつもなく心地よかった。
それは神様からのご褒美だと俺は信じきっていた。CランクパーティーからSランクパーティーに上がるまでクエストをサボった日はない。地道にコツコツやっていき、遂には勇者候補まで登り詰めた。
苦労続きの俺への褒美だと、寝ている裸の三人の女に挟まれながら俺は確信していた。
だが、そうではなかった。これは神様による最後の慈悲だとこの後、そう気付く事になるのはもう少し後のことだった。