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謝罪

 すると、ゴルドの方から俺に話しかけてくれた。



「お前、ベグドでいいんだよな?...俺達の事、分かるか?」



「あぁ。ゴルド、レネ、ウラロ。双赤龍(ダブルレッドドラゴン)で勇者候補パーティーやってたよな。最後に会ったのは、四年前だ。」



「本当にベグドなのね....それよりアンタ、どうしたのその傷?右腕が無いじゃない...」



「これは気にしなくていい。言っても信じないだろうから、修行中の事故って事にしておいてくれ。」



 俺は失くした右腕の切断面を優しくなぞりながら呟いた。切断面は服に隠れていて見えないが、肌色を取り戻すくらいには回復していた。腕を切断した時、聖獣を瀕死にしたおかげで回復もある程度じっくりできたのが良かった。もし右腕が腐っていくのを見て、慌てて戦闘中に切断したら回復する暇なく、もっと悲惨な状況になっていただろう。



 「...とにかく、これに関しては俺は後悔してないんだ。名誉の負傷と考えれば何かかっこいいし、ロワンやお前達にしてきたことを考えれば当然の報いだよ。」



 俺は消えるような声で言い終わると、大きく深呼吸をした。流れ的に理想といえるし、ここで言わずしていつ言うのか分からない。言うんだ、「すまない」と。四年間戦い続けながらも片時も忘れなかった罪悪感を今ここで吐き出すんだ。



 「あの...三人とも、俺はお前達に言わなければならないことが」



 「ベグド!あの時はすまなかった‼」



 俺が意を決して、たった今から言おうとしていたセリフをゴルドが大声で俺の言葉をかき消すように言い放った。その次には顔が隠れる程に頭を下げ、俺に旋毛を晒す。俺の心を読んでいたかのように俺がやりたかったことをゴルドがやったのだ。予想もしていなかった行動に完全にカウンターをもらってしまった俺は言葉を失い、呆然としていた。



 「あの時、ナズラドム街で俺はお前を殴った。行き場をなくして、未来が真っ暗だと思っちまったら我を見失ってたんだ。だからあの時、俺はお前を心底憎悪したし、挙句の果てには全部の責任を擦り付けようとした。今思い返しても、何であんなことしちまったんだろうって。何であんな馬鹿みたいなことしちまったんだって!」



 「お、おい...ゴルド...」



 声は掠れ、地面にポタポタと絶えなく涙を落としているゴルド。俺はやめさせようと声をかけるが、それでもゴルドは喋り続けた。



 「一日経ったら俺は目が覚めたよ、なんてことしたんだって。だからすぐに謝りに行こうとしたんだ。でも、お前ラビレット山に行ったって聞いてさ。追いかけたくても俺達の実力じゃ死ぬのが落ちだし、代わりに別の冒険者雇ってお前を探させたんだが、見つからなくて....もうお前死んじまったと思って...俺、とんでもないことしてしまったんだって思ってさ...」



 ゴルドがそう思うのは無理もない。常識的に一人で危険地帯に乗り込んだら普通はそう思う。もし立場が逆だったとしても、俺もそう確信して諦めるだろう。



 「後悔だけが積もって、もう生きる気力さえなかった。抜け殻みたいな生活してて、もうどうしようもなかったんだ。

 なぁベグド、お前今までどこ行ってたんだよ...」



 普段から笑顔が似合う自信満々なゴルドが子供の様に泣きじゃくりながら聞いてくる。本当のことを言ってやりたいが、信じてもらえないのは明白、俺は無言を貫くことしかできなかった。

 すると、次はウラロとレネまでもが一歩前に出てきて、頭は下げずとも顔色を暗くさせて口を開いた。



 「ゴルドだけじゃないよ、ウラロも謝りたかったの。ウラロ、いろんな選択をみんなに任せて、もし何かあってもウラロは悪くないってしようとしてた。あの時も、ベグドが殴られるのは当然だと思って、死んじゃったと思ったらゴルドのせいにしてたの...本当にごめんなさい、ベグド、ゴルド。」



 「正直、私もウラロと同じ感じよ。あんた達のせいで人生狂ったって自分に言い聞かせてたよ。それが楽だって分かってたからね。...でも、そんなの本当にその場凌ぎね。時間が経つにつれ、結構きつかった。誤魔化してた分程にね。」



 三人の謝罪。それは俺の実力を見て復讐を恐れてしたものかどうかはすぐに分かった。三人の表情、言葉は嘘偽りのない真実だと。

 俺達はパーティーを組んでからいつも一緒にいた。だからお互いの事を分かりきっていると四年前は何となく思っていたが、今思い返してみればそんなのはただの妄想。そうあって欲しいという希望に過ぎない。


 今、三人の本当の心の内を知れたようになった俺は、謝罪したい気持ちよりも歓喜の方が遥かに増していた。俺は歓喜を涙に変え、地面に膝を付いて暫く泣いた。そして、溢れ出てくる涙を抑えず、俺は口を開いた。



「そんな事ない...三人が謝る必要なんて無いんだ。....ロワンの事も...三人のことも...俺のせいだ。俺が謝るべきなんだ。...本当にすまない.......本当にすまない!」



 俺は心の底に溜まっていたものを吐き出すかのように叫んだ。何度も何度も、俺は叫び続けた。そんな俺を三人は止めようとはせず、俺の言葉を聞いてくれていた。レネやウラロも涙を零し、黙って俺の謝罪を受け止めてくれた。

 四年の時を経て、ようやく俺は罪の償いを始めることが出来たのだった。



 その後、俺はゴルドの家に招待された。魔王軍によって半壊にはなっていたものの、雨風は防げるし、身体を休めることくらいはできる。

 俺はすぐにここから出ようと思っていたが、三人が俺を引き止めてくれると、そんな気も失せた。


 四年前までやってきた事を考えれば、こんな甘えた事は許されない。常に辛い沼の中にどっぷり浸かり、懺悔に全神経を注がなければならない。だが、俺は何かと理由をつけてその沼を一時期抜け出した。やはり、俺は屑人間って訳だ。


 俺はゴルドの家のボロボロのソファーに寝そべると、急激な眠気に襲われた。四年間、眠るという行動をしなかったせいか、死ぬんじゃないかと焦った。だが、その焦りもすぐに消え去り、休息という癒しに身を委ねた。



 長い暗闇の中に滞在し、俺は自然と目を開けた。薄暗い空間に包まれ、辛うじてボロボロの木の天井が見える。思考が鈍いまま、視界端から差し込む光に目線を向けると、そこにはレネがいた。彼女は椅子に座り、ランプが置いてある目の前の机に肩肘を起き、赤い宝石が詰まっているアクセサリーをジーッと見つめていた。


 それはアクセサリーを観察というより何かを思い出している、そんな風に俺は感じた。


 ふと目線を下に落とすと、ウラロは俺の身体に上半身を預けるように寝ていた。だらしなくヨダレを垂らし、俺の横腹がひんやりと冷たくなっていた。


 俺はウラロを起こさないようゆっくり上半身を起こし、レネに声をかけた。




「俺、どのくらい寝てた?」



「あ、起きたのねベグド。もう二日間くらい寝てたわよ?アンタ寝すぎ、死んだのかと思ってヒヤヒヤしてた。」



 そんなに寝てたのか...でも、四年間の不眠を考えれば軽すぎる症状だな。



「心配かけたな....ゴルドは?」



「今はこの家の屋根上よ、木材使って整備してる。アイツ、あんなデカい図体して妙に器用だから。」



「あぁ〜...確かにそうだった。初めて知った時は腹抱え笑ってたよ。」

 


「....あ、ごめんね?これ。ちょっと気になっちゃって...」



 レネは手に握られたアクセサリーを俺に見せつけた。俺はハッとして首を触るが、案の定ロワンの遺品が無かった。

 アクセサリーを取られて呆然している俺にレネは微笑み、近付いてアクセサリーを俺に手渡ししてくれた。



「返すわ。それ、ロワンの遺品でしょ?四年前貰ったやつ。お婆さんに返してなかったんだ。」



「あぁ...返そうと思ってたんだが、返す暇が無くてな。....あの婆さん、どうなったか知らないか?ここまで魔王軍が来てるんじゃあ、ロマ村はもう...」



「そうね。でも、ロマ村の人達は王都へ避難したらしいわ。だからきっと無事よ、安心していいわ。」



「そうか。それは良かった。....俺なんかより、あの婆さんのところにあった方が、ロワンにとっても心地良い筈だからな。」



 本当はこれを持っていてロワンに俺の生き方を見て欲しかった。だが、肉親が居るんじゃ仕方が無いな。

 王都か...ロマ村の人達を受け入れているんじゃあ、王都の今の人口は馬鹿にならないな。果たして見つかるかどうか....


 

「....アンタ、本当に見違えるくらい変わったね。その外見もそうだけど、中身も別人みたい。以前のアンタなら、そんな風に人を思いやることも無かった。なにかと悪口吐いて、怠そうにしてたのがアンタだったのに。」



「あの時はどうかしてたよ。積み上げられた実績と人気に完全に天狗状態だった。今俺が昔に戻れてたら、一発ぶん殴ってたな。」



 軽く笑いながら話す俺にレネは頬杖しながら微笑んだ。こうやってかつての仲間に会うのも勿論だが、ここまで軽やかな気持ちで話す日が来るとは思っても見てなかった。


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