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試練の実態

 天使の試練を開始してから五分、まぁ正確な時間は分からないから体感五分後の事だった。俺は笑顔で剣を振っていた。

 何故か?それは聖獣と呼ばれる獣が襲ってきた時の事が原因だ。俺は襲ってきた一体を簡単に倒すことが出来た。スピードも鈍く、子犬と同じ体型のため攻撃範囲がとても小さい。


 遅い獣が飛びかかり、俺が動揺しながら振る大剣を受け止めきれず床に激突。対して力も入れていなかったのに、聖獣はプルプルと痙攣して立ち上がることもままならない。


 俺は恐る恐る近づいて刃を突き立てると、聖獣は光の粒子となって消えていった。


 今の一体が消えたことで他の聖獣が一斉に襲ってくるのではと恐れたが、次はほんの少し大きくなっただけの可愛らしい聖獣が向かってきたのだった。

 パワーもスピードも殆ど変わらず、それも易々と倒した。すると、また一体が迫ってくる。



 ここで俺は確信した。奴らは一体一体でしか俺を攻撃しないと。一億の数で俺を圧倒して八つ裂きにするかと思いきや、まさかのタイマンだった。しかも、相手の実力は天使が脅していた以上に弱かった。


 

 これなら行ける!例え一億だろうが、どいつもこいつも弱い!時間はかかるだろうが、試練突破も既に見えたな。まぁ、こんな弱いやつを一億匹倒したところで、魔王を倒せる程の実力が得られるとは到底思えんな。



 時間の割に得られる力が低いと悟った俺は、生き残れる嬉しさと力を得られない失望感で心の中が混ざっていた。ただ正直な所を言うと、暫く苦戦続きだったので、こうして一方的に敵を倒せる事が少し楽しくも思えていた。いくら改心したとはいえ、屑の心が心の隅で小さくとも存在していた事に気が付く。



 試練を開始して体感十分、俺の笑顔が消えた。理由は単純だった。聖獣が強くなってきていることに気がついたからだった。

 全く同じ聖獣はいない、つまり一億の攻撃パターンがある。それぞれが微妙に違う戦法で襲い、微妙に違う性能を活かして攻撃してくる。一体一体が初見、それも含まれているのであろうが、だんだん俺は手こずるようになってきた。


 ついさっきまで一撃で倒せていたのに、次の一体は一撃を耐える耐久力。鼻で笑ってしまうような遅い動きが、少し集中力を必要とするもの程になる。



 俺の不安は要らなかったみたいだな。段々強くなっていく聖獣、一億匹目にはどれほど強い聖獣が出てくるんだろうか?でも、何も絶望することは無いんだ。

 奴らとは必ずタイマンになるし、相手が強くなっていき俺が苦戦すればする程、俺も成長していくはずだ。それに、俺は体力も回復していく。道のりはしんどいかもしれないが、天使の言う通りこれを突破出来れば俺はかなりレベルアップしている筈だ!


 多少の不安もありつつ、俺はやる気に満ちていた。ナガールや魔王を倒せる力を得ることが出来る、それだけで集中力がどんどんと高まる。

 そしてこれから訪れる強い聖獣に向け、弱い聖獣相手にも全力で向かった。それもただ全力で打ちのめすのではない。浮かんだ作戦や動きを全力で披露する。

 傍から見ればいつでも倒せるのに遊んでいたぶっていると見られるかもしれないが、俺はそんな悪戯心などなく、自分の生存に必死だった。


 

 そして体感一時間後だろうか?俺の中に焦りが生まれた。

 一時間前の楽々な気持ちは消し飛び、ただただ不安に推し潰れそうになりながら、また一段と強くなっている聖獣を相手にしている。この時点で五十匹だろうか?まだまだ余裕をもって倒せる事が出来る。俺が不安に思っているのは聖獣の強さではなく、また別のところだった。


 相手にしていた聖獣が弱りきって痙攣している隙に、俺は右手を見つめた。俺の右手首には短い赤い線が一本引かれていた。俺の血液がゆっくりと溢れて肌を汚し、ヒリヒリと痛みを感じる。



「クソ....やっぱり直らないのかよ...」



 天使は体力を回復してくれる。空腹を満たし、睡眠を必要としない身体にしてくれた。そう、この試練で受けた傷については一切触れていない。体力も傷の治癒に関係しているのかと信じたかったが、怪我に関しては天使の加護は受けていない。怪我を負ったらいつも通り血が出て瘡蓋がゆっくりと止血するのだった。



「これからどんどん聖獣が強くなっていくっていうのに...怪我が治らないのに一億の聖獣を相手に出来るのか?

 たまたま油断して切られて気が付いたのがまだ幸運か?調子付いて大きい一撃貰う前に知れて良かった。」



 自分を元気付けるかのように俺は呟きながら言った。そうしなければ乗り越えられないと直感で感じたからだった。


 それに、俺のスキルがある。いざとなったら逃げまくって聖獣に隙が出来た時に安全に攻撃すればいい。十とか百じゃない、一億相手だ。ズルいかもしれないが、とやかく言ってる状況じゃねぇさ。


 大きな気付き、そして俺のスキルの特性。これ二つを材料に、先が長く険しい道のりを耐えられるよう自分自身を奮い立たせた。



 それからどのくらい時間が経ったのか分からない。もしかしたら一ヶ月なのかもしれないし、もしかしたら数時間かもしれない。

 とにかく、体感的には二年程経った頃。いや、それ以前からそう。俺は絶望に浸っていた。


 

 次々に強くなっていく聖獣相手に俺は必死に逃げていた。攻撃がギリギリじゃないと躱せない訳では無い。なのに、俺の顔には余裕なく、死力を振り絞った必死の顔になっていた。


 何度もオークのように大きい聖獣の拳が飛んできて避け続けていると、足に鋭い痛みが走って俺は転んでしまった。



「グッ...く、クソォ!足がぁ....」



 俺は倒れながら自分の足に目を向けると、足が微痙攣していた。服に包まれているためどうなっているか分からないが、足の筋力が限界を迎えていた。

 

 天使の掛けてくれた加護、一見完璧に掛けてくれたと思ったがそうではない。これまでは怪我を治してくれないのが唯一の欠点とばかり思っていた。しかし、そうではない。長い時間をかけて発覚したもう二つの欠点が存在した。


 その一つがこれ、体力問題。持続的に回復するし、もし危なくなったら逃げまくればいいと思っていた。だが、相手はどんどん強くなる聖獣。当然、俺のスピードにも少しづつ追いつくような聖獣が現れた。こうなると、どんなにきつくても休むことは出来ない。


 呼吸が荒れ、足の筋肉がパンパンだった。唯一休めるのは、聖獣を半殺しにした時だけだった。しかし、聖獣は自分がもう動けないと確信すると自害する習性があった。

 何の得があってそんな習性を持っているのか知らないが、もし手加減を間違ったら、ボロボロの身体のまま次に更に強くなっている聖獣と戦わなければならなくなる。



 今回は正にそれ、俺は疲労のピークだった。相手は図体が大きいためスピードはあまりなく、破壊力と耐久力に優れた聖獣。故に、戦いながら休めるような絶好の相手だったが、俺は休みの時間を作れるような余裕がなかった。


 逃げ続けて休みの時間を確保しようとして逃げ回った結果、足の疲労が限界を迎え、俺は脚力を失ってしまった。



 何とかして立ち上がろうとしても、産まれたての羊のように立ち上がったと思ったら膝が曲がってしまう。

 そして、そんな弱っている俺を見逃す程聖獣は馬鹿ではなかった。


 奴は大きな手で俺を掴み、自分の目の前まで俺を持ってきた。握力が強く、全身が大きな岩に潰されそうな感覚だった。



「グワァァァァ!!クソッ!離せ!離せぇぇぇぇ!!」



 俺はそう叫ぶと、その言葉通りにするかのように、聖獣は俺を地面に叩きつけた。地面に石を投げ捨てるかのように、俺は聖獣の足元に叩きつけられ、全身に激痛が走り血反吐を吐いた。


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