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試練の幕開け


 ちょっとした苛立ちと焦りを感じていると、先程の話は無かったかのように天使は話しかけた。



『...まず、選択してもらう。ここから出て無意味な努力と自己満足に浸る生活を送るか、ここへ残り試練を受けるのかを。』



「...何?試練?」



『そうだ。我は慈悲深く、全ての者に平等に手を差し伸べる。偶然とはいえ、ここまで到達し、我と対話ができる所まで来た。その幸福と貴様の意思に免じ、我が手を差し伸べよう。

 試練を終えた時、お前はあの魔王を討伐出来る可能性を得ることが出来よう。』



 俺にとっては聞き捨てならない言葉。試練の内容なんて分かるはずもなく不気味、しかしそれを気にさせない言葉は俺の心を素直に動かした。



「魔王を!?俺が...倒すことが出来るのか?」



『あくまで可能性の話。試練を乗り越える事が出来るのなら、その目標にも手が届くかもしれないという可能性を与えることが出来よう。しかし、易々と手にできる訳では無い。その命をかけることになる試練、お前は受けるか?それとも外に出るか?

 いくら悩んでも構わないが、時間が惜しいというなら早く決めた方がいい。』



 その答えに俺は即答する事が出来なかった。そもそも、この天使とかいう存在が嘘かもしれない。魔王軍による罠の可能性もある。

 俺の現状からすると、この二択はどう考えても試練の方を選ぶ。魔王に勝てる見込みがない俺に、何故わざわざ選択をさせるのが謎だ。


 もしかしたら、これはある種の判別なのだろうな。命を賭ける事になったら、俺が怯むのかどうか。俺は俺自身の言葉に酔っているだけじゃないかって。

 

 ....天使は言っていた。積み重ねた人生観は捨てろと。俺のお粗末な頭じゃ、考えたってしょうがない。罠かどうかの見分けがつけれない今、ここで怪しんで帰った時、死に間際になって後悔するのは御免だ!



「...試練を受ける。本当かどうかは知らないが、やってやる!試練を乗り越え、魔王幹部のナガール....そして魔王を倒したいんだ!!」



『よろしい。貴様の選択を尊重し、我が救いの手を差し伸べよう。理不尽ない、公正で公平な試練を貴様に与える。』



 天使がそう言うと、俺の周りに光の粒子が発現し、それは俺の中へと溶け込んでいく。全身が癒され、ちょっとした浮遊感のような不思議な感覚を得ることが出来た。



「な、何だこれ?」



『貴様に我の加護をくれてやった。この空間にいる間、貴様の空腹は常に満たされ、睡眠を必要としなくなる。体力も持続で回復するようにしておいた。』



 加護?スキルとか魔法とかと同じ感じなのか?でも凄い。薄ら感じていた空腹感が完全にない。腹八分目の飯を食べたような感じだ。



『これからお前は聖獣という我の生みだした生命体と戦ってもらう。悪しき者を罰する聖獣、奴らは貴様という悪しき者を討ち滅ぼし、その罪を浄化する為の制裁を行おうとする。要するに、死ぬ前に死を望むほどの拷問を受けるという事だ。』



 聞くだけでも恐ろしい末路だ。俺みたいな屑を殺すのに最適な相手ってことか。


 それと、聖獣というのがどれほどの実力なのか知らないが、この試練は大方予想が着く。

 寝る必要も飯を食う必要も無い、持続的に体力も回復できるから調整すれば永遠に動き回れる。聖獣とかいう化け物相手に戦い続けろって感じか。



『聖獣の数は貴様の罪に見合った数にしておく。お前の武器も破損したら持続的に復元出来るようにしておくので、貴様の予想通りこれから聖獣と戦い続けてもらう。

 試練の成功は全ての聖獣を倒した時、失敗は貴様の死だ。それ以外はない。

 説明は以上だ。何か最後に聞いておきたい事は無いか?』



「...ない。そもそも今の状況が意味不明だ。混乱しまくってる俺の頭で考えれることなんて何も無い。」



『....よろしい。なら試練を開始しよう。』



 天使の言葉が聞こえた直後、俺の目の前は眩い光が発生した。あまりに眩しすぎるその光に俺は目を閉じ、手で光を防いだ。

 何十秒にも続く発光が収まり、俺はゆっくりと目を慣らしながら瞼を開いてみると、目の前の景色に俺は頭が真っ白になった。


 全身の血の気が引き、すぐに戦意喪失してしまいそうな喪失感に襲われるのだった。


 俺の目の前には背景とはまた違う白い獣がいた。微かに発光するその獣達、形は様々であり、四足歩行もいれば二足歩行、大きな羽を広げて宙に浮いている奴もいる。

 既存する獣に似ているのもあれば、全くの初見もいる。一匹一匹の形はそれぞれが違い、似ているようなのはいても全く同じ聖獣はいなかった。


 俺が血の気を引いたのはその数だ。百や千どころの話ではない。視界に入れられないほどの大量の聖獣が目の前に現れた。まるで聖獣の軍隊、魔王軍の全ての魔物が集結されたような圧倒的な数に俺は腰が抜けそうになった。

 そして、あの天使の言葉が聞こえる。



『...我はこの世界に生きる全ての者に平等に接しなければならない。しかし、我も自らの意思を持つ生命体、感情がある。天使として間違った発言であることは百も承知だが、敢えて貴様に言おう。

 個人的に、貴様の存在は腹立たしくてならない。目障りであり、こうして貴様が生きているのも不愉快だ。

 貴様の罪に合わせた一億の聖獣に八つ裂きにされ、心底後悔しながら死に給え。愚かなベグド。』



 心が冷えきってしまうような冷酷な発言。その言葉が何度も頭の中に巡っていると、一匹の聖獣が動き始めた。子犬のような聖獣であり、両足にある微かに光る鋭い爪がチラつく。


 俺を痛めつけ、殺す為に近付くその聖獣に、俺は泣きそうになりながらも剣を構えるのであった。

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