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天使

 意識が飛びそうな重力の力と風圧、思考もまともに働かない中、俺は取り憑かれているかのようにロワンのアクセサリーを力強く握った。


 

 これは....必ず守る。ロワンの形見だ。これを失くしたり壊しちまったら....もし、生き残ったとしても、俺はまたいつか自殺するって予感がならねぇ!



 俺は全身に力を入れ、落下の衝撃に備える。この落下スピードと距離、どう足掻いても死ぬのは必然だが、もしかしたらと頭に浮かんだら俺は全力で行動をしていた。


 落下は更に加速していき、どんどん身体に圧がかかる。それでもまだ地面には到達しない。これは自分の頭が生み出した幻覚なんじゃないかと疑ったその時、逆に加速が弱まっていくのを感じる。


 摩訶不思議。落ちているのにだんだん圧力が引き、宙に浮いている感覚になっていく。頭の中が混乱していると、俺の全身に冷たい何かが触れる。壁か何かが当たったのと同時に浮遊感も落下の感覚も消えた。いつもの重力を感じる。


 俺は恐る恐る目を開けると、目の前の景色を見て唖然とする。


 目の前。否、俺の周囲は真っ白な空間に染まっていた。何処か壁なのか、どこまで広がっているのか分からない真っ白な空間。自分の足が着いているのは紛れもない床だが、それも白。しかし、周りの空間とはまた違う白色で辛うじて見分けることが出来る。


「な、なんなんだここ?一体どこだ?」



 ボロボロの服もいつの間にか治っており、摩訶不思議な現状に俺が混乱していると、俺の頭に何かの服が当たった。俺はそれを手にしてみると、先程のロー・オークが身につけていたと思われる衣類だった。ガタイに似合わない薄い服で、中心は粘っこくて生臭い液体が染みていた。



「な、なんてもん触らせんだ!!」



 俺はそれをすぐに叩き捨て、荒れる呼吸を戻そうと深呼吸をした。何がなにやら分からないこの状況で必死に冷静さを保とうとしていた。



「フーっ...本当に、ここはなんだ?俺以外誰も居ないし、そもそもロー・オークの奴らは一体どこだ?俺と一緒に落下したはずだが....」



 俺はふと真上を見てみると、白い空間には不似合いな真っ黒な道が上に伸びていた。



「本当に落ちてきたんだな。どのくらい落ちたのか?遠すぎて上が見切れない。というより、俺はよく生きていたな。」



 少なからず思考が回復してきたが、それでも訳が分からない。真っ白な空間に落ちてきた、それ以外の情報がほとんど無い。このままここに取り残されて餓死してしまうのではと考えていたその時、何やら声が聞こえてきた。



『悪運強きベグド・ロバイル、よくぞここへ参られたな。』



 女のような男のような中性的な声が聞こえてきた。俺は周りを見渡すが、話しかけてきた声の主の姿を捉えることは出来なかった。



『探しても無意味だベグド。我は遠く彼方から貴様の頭に話しかけている。最も、目の前に姿を現しても、貴様の目で我を見ることが出来るのか怪しくはある。』



「な、何なんだあんた!?何者なんだ!?この空間は一体なんなんだ!?」



『我は...貴様らを、この世界を監視する天使だ。突然のことで理解が追い付かないのも無理はないが、そう納得しろ。愚かなベグド。』



 はぁ?天使だ?何言ってんだコイツ....世界を監視するとか訳わかんねぇ...大体、そういうのは神様的な奴らだろ?



『神はご多忙だ。貴様ら人間や世界の管理は我ら天使が請け負い、神は我々天使を管理する。

 愚かなベグドよ、貴様の理解力に付き合うほど我も暇をしていない。貴様の積み重ねた愚かな人生観は捨て、我の話に集中しろ。』



 心の中まで読んでるのか...信じたくもないし信じられないが、本当の天使って思う他ない。



『この場所は、人と天使が会話出来る場所とでも言っておこうか。ここは滅多に人が訪れる事は無い。貴様の場合はあらゆる因果が交差し、接触し、稀に見る偶発的な現象でここへ来れた。

 貴様の理解力に合わせて簡単に言うと、貴様はとてつもなく運がいいという事だ。』



「....ってことは、俺がここに来たのはアンタの仕業じゃないってことで合ってるか?」



『左様。そもそも、ここは人であるものが生涯善行を重ね、我らに成る資格を持つ者だけが来れる場所。貴様のような聖域を汚すような穢れた存在が訪れていい場所ではない。』



 さっきから人の事を愚かとか穢れたとか散々言ってくれるな。思いやりって気持ちないのか?...いや、まぁ本当の事なんだけど。俺なんてそういう類いの代表格みたいな所あるし....


 でも、そう思ってくれてるのは俺にとって好都合だ。天使にとっても俺は邪魔者。特別な用事はない。なら、俺が望むのはただ一つ。



「なら、ここから出してくれないか?俺は元いた所でやらなければならない事があるんだ。」



『...世のため人のため、打倒魔王。己の実力不足を解消しようと、Sランクの称号を持つ剣士、ヴィルバガに会いに行く事か?』



「そうだ。俺は何がなんでも、死んだ時にはロワンに会える資格を持つ人間に生まれ変わりたいんだ。俺の罪は人の手伝いとかで解消されるほど軽くないのは分かってる。だから、魔王を倒して世の中が平和になれば、多くの人が救われる。

 天国に行くには欲丸出しの行為だけど、俺が出来ることをやりたいんだ。」



 俺は嘘偽りのない本心を言葉にして言い放った。どこから見ているかも分からない天使は、俺の心の内を読み取ろうとしているのか無言が続く。すると、暫くして天使の言葉が聞こえた。



『貴様は....そんなに特別なのか?』



「は?」



『求める事柄やその決意は何一つ言うことは無い。が、魔王討伐というあまりに無謀な目標。貴様は本当にそれを叶えられると思っているのか?

 魔王がこの世界に誕生したその日から、貴様ら人間はどれ程蝕まれてきた?その上、貴様には仲間と呼べる者もいない。

 強大な魔王という存在を、多少考えが変わっただけで倒せると思っているのか?多くの訓練をこなせば勝てると思うのか?お前は、何千年に一人の逸材とでも言いたいのか?』



 こっちが薄々感じてた事を容赦なく言われ、心が傷んだ。

 別に俺だって出来るとは思ってない。俺なんか特別な才能はないし、性格もゴミ。そんな俺が一生懸命頑張ってもたかが知れるさ。

 だけど、分かっててもやらない訳にはいかない。足を止めた時、俺はどう償えばいいのか分からなくなる。死んで償うなんて無責任すぎる事以外思い浮かばなくなる。



「だから...やらなくちゃいけないんだ。俺のエゴではあるけれど、例え目標に届かなくても俺はロワンに誠意を見せたい。本当に反省してると、お前は何も悪くないって行動で見せたいんだ。」



『そのロワンが見ていないとしてもか?そもそも天国という場所がなく、彼の存在そのものが消えていたとしてもか?』



「そうだ。このまま時間を呆然と過ごしたり、すぐに自殺したりするのよりはよっぽどマシだ。確認する術が無いなら...見ている前提での生き方しか俺は取らない。

 ....そうだ!アンタ天使なんだろ?天国とかあるのか?ロワンは見てくれているのか!?」



 俺は天使に語りかけるが、天使はそこからまた無言だった。自分から天国の存在をチラつかせた癖して、何で黙り込むんだよ!

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