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弟子入り

 決心をした翌日、俺は早速ギルド・希望の旗(ホープフラッグ)へと向かった。目的はただ一つ、Sランクの剣士・ヴィルバガに会うためだった。彼に会うのにこのボロボロの姿で行くのは失礼だったかもしれないが、俺は構わずに足を進める。

 時間は有限、自分が生きている間に出来ることをしていかなくては。


 お日様は真上に登ろうとしていた頃に俺はギルドへ入った。昨日と同じく慌ただしく、埋め尽くす限りに人がいた。

 俺は背伸びをしてヴィルバガか彼と同じパーティーメンバーを探してみる。だが、目当ての彼らの姿は目視では発見出来なかった。


 仕方がないと思った俺は受付の仕事を一つ増やしてしまうが、やむを得ず受付に並ぶ列に参加した。俺の正常ではないボロボロの姿に周りからの視線が痛く、ヒソヒソ声が気になって仕方がなかった。


 だが、ロワンにしてきたことに比べればこれは天国。そう自分に言い聞かせ、俺はその苦痛の時間を耐え続けた。


 一時間以上経ち、ようやく俺の番が回ってきた。俺の前に立つ受付嬢は昼間だと言うのに疲労の色が顔に出ていて、俺は罪悪感を感じつつ話しかけた。



 「あぁ〜...すまないが、人を探してるんだ。ヴィルバガは今何処にいる?場所を教えて貰えるだけでいいんだ。自分で逢いに行く。」



 俺はそう聞くが激務の疲労からか、受付嬢は嫌そうな顔を浮かべて睨み付けてくる。俺はハッとして口を抑えた。

 この言葉遣いは不味いよな。ただでさえ忙しくてイライラしてるだろうに、こんな高圧的な態度....言葉遣いも気をつけねば。



「失礼...すみませんが、探していただけますか?とても急ぎの用事があるのです。今すぐ彼と話がしたいんです。」



「....ヴィルバガ様はこのギルドによく顔を出しています。待っていればいいのでは?そうすればいずれ会うことは出来ますよ。」



 遠回しに「そんな事で話しかけてくるな。」「人探しくらい自分でやれ」と言っているのが分かる。王都のギルドの受付嬢とは天地の接客対応。俺が勇者候補だったってのもあるが、ここまで違うか...

 だが、俺だって引けない。忙しいのは分かるし、人にあまり迷惑はかけたくないが、悪いが引く気は無い。



「すみません。ですが、本当に急ぎの用事なんです。本当に場所だけでいいので。伝言とかそういう手間は取らせませんから。」



 慣れない敬語で俺は話すと、受付嬢は溜め息を吐きながらカウンターの下にある紙の山に目を通した。嫌々ながらもひたむきに業務に務める彼女の姿に、俺は心が痛くなった。



「.......ヴィルバガ様はラビレット山のダンジョン攻略に行きました。朝一番で行きましたので、無事に帰ってくるなら二日以降になります。」



「そうですか!あ、ありがとうございます!」



「そんなのいいですから、早くどいてくれませんか?仕事の邪魔なので。」



 今までの生活のせいか、こう言った素っ気ない態度に耐性が薄かった。俺は心底傷付きながら頭を下げ、ギルドを後にした。


 何傷ついてんだ?ロワンの事を考えればこんなの楽なもんだろ!それに、ヴィルバガの居場所を教えてくれた。それだけで御の字ってもんだ。


 俺はすぐにカバンに入れてあった地図を広げ、受付嬢に教えてもらったヴィルバガの位置を探した。


 俺がヴィルバガに会いに行く理由、それは彼に弟子入りする為だった。今の俺はBランク、或いはAランクの低下層程度の実力だ。今以上の力をつけないといけないと感じた俺は、彼に頭を下げるつもりで探している。


 俺の人生目標、死んだ時に天国へ行けるようにする。だから、なるべく善行をしていきたい。天国へ行く為には少々欲が出しすぎだし、そういった感情無しでの善行かもしれないが、やらないよりかはマシだ。


 善行で真っ先に思いついたのは他人の利益になるであろう行い、魔王軍を滅ぼすことが真っ先に思い浮かんだ。

 魔王を倒せれば文句はないが、今の俺からしてあまりに非現実的すぎる。故に、当面の目標は幹部を倒すこと。出来ることなら...ロワンの仇であるナーガルを倒すことだ。いや、仇じゃないな。自分のせいで引き起こした負の連鎖の集大成、言わば過去の自分の尻拭いの相手だ。



「その為には...少なくともSランクの冒険者の力を借りたい。まぁ、Sランクパーティーでも幹部は倒せないだろうし、相手は一度も倒されていないナーガル。一人でやることになる俺にとっては、Sランクの実力を身につけるだけでようやくスタート位置に立てるってことか。

 先は、果てしなく長いな。」



 想像するだけで泣きたくなるような長くて過酷な道のり。だが、俺にとってはそれはどうでもいい。この先何が待ち受けようとも、俺の目標も行動も変わりはしないのだから。



「それよりも、居場所が分かってる時点で早めに行動しないと。ラビレット山は〜...あったけど、俺の今の実力で行ける場所なのか〜?」



 目的地であるラビレット山、それは魔王軍領地に存在していた。前線から比較的近い場所に位置しており、ヴィルバガは恐らく奇襲という形で潜伏しながらあそこのダンジョンを攻略するつもりなのだろう。

 俺も何度か魔王軍領地へ殴り込みをしたが、あれはロワンがいたからこそ出来たこと。今の俺にはまさに火炎に飛び込むような行為だ。



「....だが、良い機会だ。今の俺が魔王軍の勢力にどれ程通用するのかも知っておきたい。幸いに俺のスキルの売りはスピード、並大抵の魔物相手なら逃げ切れるだろう。」



 あまり自信はないが、そう思わないとやっていけない場所へ飛び込むんだ。覚悟を決めろよ、俺。


 だが、今すぐに行く訳では無い。時間がいくら惜しいからと言って、このボロボロの状況で向かって早々に早死するのは避けたい。

 俺はポーション屋に行き、体力と疲労回復のポーションを買い集め、それを飲んで回復に務めた。


 身体は少なからず違和感は残っていたが、痛みは完全に消えていた。俺は残された金を上手く使って装備を整え、立ち入り禁止となっている前線の領域の目の前で立ち止まる。


 ナズラドム街やその周辺は自然に溢れていたが、流石にここまで来るとそうではない。人間と魔物の激しい争いの証拠に木々は一本も姿を見せず、傷んでいる地面と石盤しかない。


 前線と言っても、すぐそこに魔王軍がいる訳でもない。人間の前線を超えて危険区域に入り、その先に魔王軍が待機している筈だ。


 自信なんて欠片ほど残っていない。俺の積み重ねた自信と誇りはロワンが作ってくれていたもので、今ではそれを俺自らの手で壊した。失うのはこの命だけだった。


 俺はポケットからロワンの遺品であるアクセサリーを首に巻き付け、赤く輝く宝石を見つめて呟いた。



「...こんなゴミ野郎にそんな気は起きないと思うが、敢えて言わして欲しい...どうか俺に力を貸してくれ、ロワン。」



 俺は大きく深呼吸をすると、意を決して人間界を離れたのだった。



 危険区域の特徴やらなにやらはクソみたいな過去の経験が活きてくる。まず、なるべく物音を立てないことだ。この区域には知能がまるでなく、魔王軍の言う事をまともに聞けない魔物が放たれている。


 ロー・オーク。それがこの区域に放たれている主な魔物だ。元々オークは知能が低く、細かい指示を受け付けない。そこで魔王軍はオークを自分達の意のままに操るために実験と錬成を繰り返し、生まれたのがコイツらだ。


 全身が青紫なのが特徴、通常のオークより能力は高いが、知識はゼロ。味方の魔物すら食糧にしようと襲いかかる失敗作。それをこの区域に送り込み、人間の奇襲にあうことなく前線を固めるのではと推測されている。


 コイツらに見つかると色々と面倒なので、基本はこっそりと移動するのが基本。俺に関しては単独な上に実力も不釣り合い、身を隠すのは当然だ。

 そして、人間によるものもあるが、魔王軍側が設置していた罠も注意深く見分けないといけない。基本音が鳴る罠であり、その音を聞いてロー・オークが反応して襲いかかる算段。


 俺は罠に注意し、度々見つけたロー・オークに注意しつつ、先へ先へと足を進めていく。

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