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酒場での出来事

―――――――――――――――――――――――




 クエストを無事終えた俺達はスノマ王国の都心部にある宿へと帰ってきた。

 それもただの宿じゃない。人間界の希望の星とも言える勇者候補の俺が居るとなると、木造のオンボロ宿ではなく美しい石造りの頑丈な宿で泊まれる。しかも激安で。


 俺達は各々の部屋に荷物を置くと、早速冒険者協会最大級の酒場へと足を運んだ。もうすっかり日は沈み、夜空が綺麗な星々に染まっていき、街中もすっかり静かになっていた。


 だが、酒場はそんな夜にクソ喰らえと言わんばかりに賑やかだった。昼以上の話し声や笑い声が外にまで響き、中の照明も眩しいくらいだった。


 俺達はその酒場に入ると、すぐに店の中で充満している酒と熱気が漂ってくる。この匂いや雰囲気が苦手という者もいるだろうが、俺は当然大好きだった。


 そんな賑やかで大人数がいても、それ以上の席がある程この酒場は大きい。なんせ、ここは魔王軍に対抗する王国軍の首都であり、実力者で溢れる冒険者のギルド。

 冒険者は基本、軍の規則に縛られる兵士なんかよりフットワークが軽い。今は魔王軍が押している為、そんな魔王軍の戦力削りに国直々にクエストを依頼してくるし、依頼を受けてもらおうと必死になってこんな待遇をしてくれる。


 それも相まって今は冒険者がどんどん増えていき、冒険者ギルドの熱気も上がっていた。


 そんな事もあり、どんなに賑やかでも席が満席なのはそうそうない。俺はすぐに大人数が座れる長机がある空席を見つけ、今日の疲れを癒す作業の初めの合図かのように溜め息を吐いた。


 俺達がすぐに席に着くと、店の者が注文にすぐに来てくれる。これも王国から指示されている事なのか、全然来てくれない日なんか一度もなかった。


 注文を聞きに来た店員は、キノコの様なふんわりとした茶髪の髪型をしている胸がやたらに大きいモモという人物。俺のお気に入りの一人だ。

 そんな彼女は忙しそうにしながら来るが、俺達を見て笑顔へと変わっていく。



「あ!双赤龍(ダブルレッドドラゴン)の皆さん!今日もクエストへ行ってきたんですか?」



「あぁ、ゴーレム軍団の討伐にな。数はまぁそこそこあったが、対して強くなかったよ。あ、悪いけどこれを預かってくれるか?今回のクエストの報告書、提出してくれ。」



「それは勿論!なら、これはお預かりしますね。」



 俺が差し出した一枚の紙をモモは大事そうに受け取った。ここは酒場だが、同時にクエストの受け入れも出来る。ただ、最新のクエストはちゃんとした協会の施設がある為、ここにあるクエストは古びたものばかりだ。



「助かるよモモ。最近はどうだ?やっぱり忙しいか?」



「それはそうですよ。魔王軍の攻撃が激しくなって国からの冒険者待遇が良くなって、新規の方が後を絶たないんですから。でも、これ以上進行されたら、こんな景気は無くなります。

 だから、自分達の為にも、しっかり働いて下さいよ〜?」



 モモは目を細めながら俺達に念押しするかのように見てくる。

 こんな気軽な態度にプライドの高いレネは唇を尖らせたり嫌そうな表情を浮かべるが、偉くなった俺にとっては気軽に話せるようなモモは嫌いじゃなかった。



「それは他の奴らに言ってくれ。俺達はサボらず、クエスト三昧の日々だぞ?クエストの依頼受けてる数だけ、飯を食わせるってのはどうだ?」



「管理できる暇なんて無いですよ〜。でも、確かにそうですよね。全人類の救世主の存在、勇者。その候補として王様直々にベグドさんは認められ、今や冒険者パーティーの最高峰Sランクだとしても皆さん全然サボらないですよね。」



 関心するモモの発言にゴルドは机に身を乗り出す。子供のように満面の笑みで、酒なんか口につけていないのに頬を薄らと赤らめていた。



「そうだぜモモちゃん!他の勇者候補とかSランクパーティーとか殆どクエストとか出ないでダラダラ遊んでるだけだろ?それに比べ、俺らはめちゃくちゃ勤勉って思わね!?」



「そ、そうですね。凄いと思いますよ、アハハ....」



 モモはハッキリ言って美人だし、性格共に完璧とも言っていい。それでも、俺が彼女を狙わないのはゴルドが彼女に惚れてるからだった。これからも一緒に旅する仲間とこんな事で争いたくはないからな。


 ただ、モモはゴルドみたいなタイプが苦手らしく、ゴルドがそれに気が付いてないってのが皮肉な話だよな。



「....そんな話どうでも良くな〜い?ウラロ、もうお腹ペコペコなんですけど〜。ここに来る時いつも食べてるコース早く持ってきてよ〜。」



 ウラロは頬をカエルのように膨らませると、モモは慌てて厨房の方へと走っていった。そんな彼女の姿を見てゴルドはガックリとするのと共に、ウラロとレネは楽しそうにクスクスしていた。



「あ、あの!貴方、ベグド様ですか?あの勇者候補の....」



 急に後ろから話しかけられたから振り返ると、そこには女性三人が肩がぶつかる程に固まりながら立っていた。三人は別々の服装をしていたが、腕には統一して同じブレスレットを付けていた。

 格好と雰囲気からして、冒険者成り立ての新人チームだろう。



「あぁ。俺になんか用か?」



「や、やっぱりそうなんですね!私ら、ベグド様に憧れて冒険者なろうって思ったんです!まだ殆どクエストもやれてない新人なんですけど...その、もし良かったらサインとかお願い出来ますか?」



 真ん中の茶髪の子が俺の顔色を伺うように聞くと、他の二人も緊張しているような顔をしていた。そんな三人の態度は誘惑かのように俺の内から熱い何かを感じさせ、三人の若くて柔らかそうな身体を見て思わず舌を舐めた。



「...サインか。それは全然構わない。それより、君らは三人で一つのパーティーなのか?」



「あ、いえ。あそこの席に座っている子がメンバーで、私達女パーティーなんです。ただ、あの子は初めて喋る人は苦手で...あ、それでも!あの子もベグド様のファンなんで、私達は正確にはファンパーティーかもしれないです。」



 女の指の方向を見ると、眼鏡をかけて見てわかる消極的な雰囲気に若くて良い体つき。今日の俺はついている。これからすることに神様も支援してくれるように、運が波のように迫ってくる。

 有難いことにファンパーティーときた。なら、問題もないだろう。



「そうか。俺をキッカケにこの世界に足を踏み入れてくれたなんて有難いが、そんな気を遣わなくていいんだぞ?当然、ここまで来れたのは俺一人の力じゃない。」



「あ!それは分かってます!双赤龍(ダブルレッドドラゴン)の活躍に憧れて、中でもベグド様のファンってことなので!魔王軍の千もの軍勢を倒し、山のように大きな魔物を相手に引きもせず、冒険者ギルド始まって以来の最強パーティーって!聞いただけでもウットリしちゃいますよ!」



「はは、何だか改めて言われると照れるな。」



 多少美化はかかっているものの、照れ臭く感じたのは事実。ポリポリと頬をかきながら俺は立ち上がり、三人に近付いて真ん中の子の耳元で囁いた。



「そんなに応援してくれるなら、俺からお礼をしたい。今夜、俺の宿に案内する。四人一緒に来てくれ。サインもするし、当然お前達を楽しませる。来てくれるな?」



 俺は優しく囁き、離れる時に彼女の頬を触りながら離れた。言葉の意味を完全に理解しているようで、その子は顔を真っ赤にしながら呆然。二人も薄らと聞こえたのか、頬を赤らめていた。


 そんな三人の表情に疼きながら、俺は机の上に乗り上げ、大きな声で宣言した。



「お前達!俺は双赤龍(ダブルレッドドラゴン)のリーダーであり勇者候補のベグドだ!今日はお前達に伝えたいことがある!!」



 その言葉は賑やかだった会場をシーンと静かにし、俺の登場に皆目を丸くさせてヒソヒソと話していた。そう、俺を知らない奴なんて誰もいない。俺は超有名人だからな。



「俺達パーティーはこれまで、幾度となくクエストを通して魔王軍の奴らと勇敢に戦ってきた!それは自分の為でもあるし、この世界で生きている皆のためでもある!

 なのに、他の勇者候補やらSランクパーティーはどうだ?名だけ立派になったらどいつもこいつも怠け者になり、奴らが現場に出た姿など最近見たか?俺は見ていない!」



 俺の言葉に全員が注目し、各々が納得しているかのように小さな声で話し込んでいる。それでも、俺は続けた。



「それは真に他人、人類を思いやれない証拠!自分さえ良ければいいって言うだけの傲慢な奴らだ!俺達は違う!どんなに活躍しても、ファンと名乗ってくれる子もいても、決して怠惰なんかにはならない!魔王軍と戦い続けてやる!」



 俺は力強く拳をあげる。その熱弁と拳に誰もが夢中になっていた。その目線と意識がとてつもなく俺の生の実感を与えてくれる。



「....勇者、この世界が出来てから誰しもが座ったことの無い椅子。勇者とは人類の希望であり、今で言う魔王という名の邪悪を滅ぼせる存在だ。今こそ勇者が必要だ!

 だが、そんな偉大な椅子に奴らが務まるか?務まりはしない!俺こそが勇者となり、Sランクパーティーと呼ばれる俺達は勇者パーティーへと昇格する!」



 高らかに宣言する俺に注目してくる全員の顔が明るくなる。伝説を目の当たりにする予感を感じるのか、今にでも盛り上がりそうな空気感。



「...そこでだ!俺の勇者昇格を祈願して、今日は俺がこの場の飯代、全て奢ってやる!お前達、思う存分飲め!今日というこの日を思う存分楽しんでくれ!!」



 その一言に会場は大盛り上がり。席に座っていた者も立ち上がり、机に乗り上げる者もいた。拍手喝采で期待と感謝の雨が俺に降り注いでいた。

 俺はパーティーメンバーを見ると、ゴルドは嬉しそうに首を振り、ウラロは相変わらずのマイペースで料理を楽しそうに待っている。レネに限ってはニヤつきながら俺を見ており、その表情の意味を理解した俺はニヤつき返す。


 そして俺はロワンを見た。奴は面食らって目を丸くしていた。俺の堂々とした宣言に加え、クエストでは少し優しくしてやった。"今日のベグドはどうしたんだろ?"なんて思ってるんだろう。

 その答え、今に教えてやる。



 盛り上がっている会場の最中、モモが料理と共に酒を持ってきてくれた。ナイスタイミングってやつだ。

 レネはすぐに全員に酒の入った樽ジョッキを配り、俺はそれを受け取ると、中に入っている赤黒いワインを見つめてニヤついた。



「それと!この場を借りて後一つ言いたいことがあるんだ!皆、酒持ってる奴は持って、真ん中を空けてくれ。」



 俺は机から降り立つと、酒場の中心へと向かう。俺の指示通り、樽ジョッキを持っているやつもチラホラおり、真ん中を空けて端へと移動してくれた。


 皆の円に囲まれて俺一人が立ち、俺は仲間たちに手招きした。



双赤龍(ダブルレッドドラゴン)、集合だ。来てくれ。」

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