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決意


 そしてある日、地方の小さなダンジョンを攻略した際、近くの村で休もうとした。そこでゴルド、ウラロ、レネがいた。三人とも小さい頃からずっと一緒で、冒険者というだけで目を光らせていた。


 冒険者は今時の若者にとっては夢の役職とも言えるので、三人の反応は至極当然である。三人は己の実力が冒険者に通用するかどうかを楽しそうに俺達の前で見せ始めた。

 俺達はそこまで忙しくなかった為、付き合ってやることに。結果から言うと、三人とも悪くなかった。筋はあったし、それぞれ分かりやすい特徴を私生活で少しつづ磨いていたのが分かった。


 ロワンは三人を褒めながら鑑賞していたが、俺の目は一人の人物に釘付け。レネだった。彼女の綺麗な姿に加え、弓を放つ時の凛々しさが俺の心をも射抜いた。

 完全な一目惚れ、これだけ聞くとただの浮ついた話だが、ここが俺とロワンの人生の分岐点だった。



 俺の熱弁でロワンを押し込み、ゴルド達は俺のパーティーに入ることになった。ロワンは三人に平等に接したが、俺にとってはレネだけが目的。彼女のことばかり気にしていた。

 そんな盲目的な俺だったからこそ、良くない方向へと走ってしまった。


 クエストを全員でクリアし、喜びを分かち合う。それは嬉しいし、共に戦うのは楽しくもあった。

 だが、レネは俺ではなくロワンとよく関わりを持っていた。ロワンは見た目から可愛らしいから、そんな容姿をからかい、ロワンが顔を真っ赤にして恥ずかしがる。


 ゴルドもウラロも微笑んでその光景を見ていたが、俺の心の中はどす黒く染まっていく。


 なんでそいつを褒めるんだ?なんでそいつを気にするんだ?俺の方がカッコイイ筈だし、活躍してるんだぞ?そいつは後ろで補助魔法かけてるだけじゃないか....実際にパーティーを指示して皆を引っ張ってるのは....俺だろ!!?


 その想いが爆発し、俺はその日からロワンを憎むようになった。そして、ロワンが嫌われるように仕向け始めた。そこで初めに思いついたのはスキルの弱体化だった。

 感覚を鈍くする魔法、鈍る反応(スローリアクション)をスキルを使うのと同時にかける事を俺はアイツに進めた。


 当然納得をする訳もないが、俺は最もらしいセリフを吐いた。



「アイツら俺に相談してきた事あるんだ。もっと強くなりたいって。このままじゃ、アイツら冒険者諦めてパーティー抜けかねないって思ったんだ。

 だからよ、俺達の感覚を操作することで、『ロワンのスキルに頼ってるわけじゃない、俺達が強くなってるんだ!』って自信に繋がると思うんだよ。」



「そっか...でも、それって結局意味無いんじゃない?その場しのぎっていうか....成長はしないと思う。なんだか、ゴルド達を騙してるみたいで僕...」



「そんな事ないって!必要な嘘なんだよ。別にずっとじゃない。経験を積めば、次第に実力も付いてくる。アイツらに自信が付いてきたら、デバブを使うのを辞めればいい。俺が判断してやるからさ。

 なぁ、頼むよロワン。俺、アイツらとこれからもずっと一緒でいたいんだ。な?俺達、仲間以上に親友だろ?」



 俺はその時、微塵も思っていない"親友"と言葉にした。その言葉が嬉しかったのか、ロワンはニヤニヤしており、その時の俺は「馬鹿だ」と思っていた。


 この経緯があって、ロワンは孤立していった。ゴルド達は経験を積めば積む程強くなり、感覚操作の影響で全く成長しないスキルと勘違いをされたロワンは少しづつ馬鹿にされていく。


 何年もの罵倒の嵐をロワンは耐え続けてきた。その時には、俺はロワンの存在が鬱陶しくて仕方がなく、クビにしようと考えていた。

 だが、感覚操作のおかげでロワンのスキルがどのような影響を受けるかどうかが分からない。こっそり代わりの者を探そうと思っていたある日、アイツは俺に訴えかけてきたのだった。


「我慢の限界」、「皆と肩を並ばせて歩きたい」、「自分はただの足でまといじゃなくて、みんなと対等に仕事をしたい」とほざいた。それに対して俺は何を言ったのか覚えていない。覚えているのは、焦りと鬱陶しさでキレ散らかして、突き放した事くらいだ。

 そしてその怒りを抱えたまま、勢いで俺は翌日にロワンをクビにしたのだった。



 ――――――――――――――――――――――――


 俺は過去の事を思い出して放心していた。今更であるが、ロワンのスキルの強さは過去と比較にならないほど強力になっていた。それ即ち、罵倒とイジメの嵐を受けつつ、ロワンは頑なに約束を守り、耐え、そして努力してきたことが分かる。ロワンは馬鹿なんかじゃない、人を心から思える善人なんだと実感した。


 暫くして痛みで軋む身体を起こし、右手で顔を隠すと笑いがわき起こる。



「あははははは!!何だよ俺!ここまでなんないと分からないもんかな!

 ...人が死んで、仲間に見捨てられ、女にぶたれないとこんな簡単なことにも気付かない!」



 そう、簡単なこと。あまりに簡単すぎること。俺は何故それに気が付かなかったか?今じゃ分かる。俺は認めたくなかったんだ。自分のした行いは当然であり、しょうがないものだと。薄ら存在していた良心的な何かを塗り潰し、他人のせいにして自分を保っていた。

 だが、そんなのは大きな間違いだった。



「....全部、全部俺のせいじゃねぇかよ。俺が全ての弓引いて、放った矢が他人を巻き込んで自分に当たっただけじゃねぇか.......」



 自分は悪くないといった長年の自己催眠が解け、抑えていた良心による罪悪感が津波のように襲ってきた。俺の心はグチャグチャに分解され、俺は年甲斐もなくその場で泣きじゃくった。

 子供のように声を我慢することなく、まともな呼吸が出来ずに苦しかった。だが、そんな苦しみなどどうでもいい。心の激痛に比べればそれは些細な問題だった。


 悲しみが右肩上がりに登っていき、どんどん辛くなったその時、俺はカリに言われた事を思い出した。



「..........そうだ。俺、死なないと。...俺みたいな奴が生きてていいはずないもんな。」



 俺はゆっくりと立ち上がり、ロワンの墓の前まで行った。墓の横に口をつけていない最後の一瓶を置いて、俺は墓の前に座った。ロワンの墓を見つめながら、俺は懐にあるナイフを手に取り、それを首元へ持っていく。



「すまない...ロワン。俺のせいでお前が死んでしまった....今からそこへ行って、お前の前で謝るよ。」



 俺は夜空の先に居るであろうロワンに話しかけ、覚悟と共に軽く微笑んだ。

 ナイフの先端をゆっくりと首に置き、一気に力を込めた。


 しかしその時、ロワンの顔が浮かんだ。ロワンと初めて会った時、初めて仲良くなった日の笑顔のロワンを。まるで実際に目の前にいたかのような鮮明度高いロワンが脳裏に飛び込んできた。


 俺はナイフを自らの首ではなく、地面に突き刺した。ボロボロと涙を流し、ナイフを握る震える手を見つめながら俺は軽く笑った。



「ははは...俺はとことん屑人間だな.......まだ何も分かっちゃいない。何勝手に死のうとしてんだ俺?何勝手に楽になろうとしてたんだ?辛い現実から逃げようとしただけだろクズ野郎が...」


 謝罪は相手に許してもらおうとしてする行為じゃない。自己満足ではなく、相手が満足する形で非を認める行為。俺はまた自分の事しか考えてなかった。こんなあっさり死んで、あの世で謝罪したって、後悔してましたよアピールって言われてもおかしくない。ロワンは満足なんかしない。


 アイツにしてきた俺の行いは、そんなんじゃ収まらない。そもそも、アイツはどう考えても天国行き。俺なんか地獄確定もんだ。謝罪する事すら出来ねぇじゃねぇか!



「俺は....生まれ変わる。偽善って言われようが、どんな酷い目に逢おうが構わない。生き地獄の苦痛に耐えまくって、自分の為じゃなく他人の為に生きるんだ。言葉じゃなく、行動で示す。

 だからよ、ロワン。また迷惑かけるようで悪いが、見ててくれ。お前の望む謝罪は出来ないかもしれないが、お前の元へ行けるようにしてみせる。

 天国へ行く資格....お前に謝罪する資格を取ってみせる!!」



 俺は涙ながら、果てしなく遠い天に向けて拳を振り上げる。今までの人生で最大の決意を胸に、俺は生きることを選択した。

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