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悲劇

「は?」



 意味が分からなかった。真っ白な頭の中が更に濃い白色で染まり、俺はまともな思考が出来ずにいた。ゴルド達もそうだった。何も言えず、完全に石化の如く固まっていた。



「申し訳ございません...ワシらが.......ワシらが不甲斐ないばかりに....ロワン君が......」



「は、ははは!面白い冗談を言うじゃないか。何言ってんだお前?ドッキリにしては下手くそ過ぎるぞ?」



「本当に...本当にもう申し訳ございません!!大切なパーティーメンバーであったロワン君を....このような...」



 ザブは俺の前で急に土下座をした。床に頭を擦り付け、小刻みに震えながら何度も何度も床へ額を打ち付けた。

 それに対して俺は動揺はしていたが、思考する力は回復していた。すぐの奴らの魂胆を見抜き、ロワンの死を装った小道具をゴルドに預け、笑って見せた。



「あはは!なるほどな、ロワンを手放すのが惜しくなったのか。それとも、こんなバレバレの作戦はロワン立案だろ?えぇ?」



「すいません...すいません.......」



「あのな、謝る演技はもういいんだよ。バレバレだからさ。俺はロワンと仲直りがしたいんだ。アイツを不毛な扱いしちまって...俺はアイツに謝りに来たんだ。悪かったって、また一緒に冒険しよって。」



 俺は懇親の演技をした。涙を薄ら浮かべつつ微笑み、後悔して謝罪しにここへ来た者の姿に変わった。そんな俺を見てザブは涙を流しながら放心していた。

 やはり演技。俺が反省しきってるのなら、ロワンにとってこれ以上ない戦果だ。今すぐそんな演技やめて、ロワンと会わせろ。



 だが、俺の思惑とは裏腹に、ザブは更に大粒の涙を流して頭を床へ叩きつけた。



「本当に申し訳ございません!!そのような想いで来てくれたのにも関わらず!このような結果にしてしまい....お詫びの仕様がない事は百も承知!ですが...本当に....本当に申し訳ござい」




「そんな演技はいいって言っただろうがぁ!!さっさとロワンに会わせろ!!つまらねぇ演技に付き合ってる時間はねぇんだよオッサン!!」



 俺は我慢の限界を突破。土下座するザブの胸ぐらを掴み、至近距離で思い切り怒鳴った。しかし、ザブは動揺するでもなく、涙で顔を染め、小声で何度も謝っていた。

 なんだよその態度...それじゃあまるで本当のこと言ってるみたいだろうが。



 すると、胸ぐらを掴む俺の手を女が掴んできた。演技続行不可と見て、俺を止めに来たと思いきや、彼女も涙を流しながら悔しそうな表情を浮かべていた。



「もう辞めてくれ!!....アンタらにとやかく言える筋合いじゃないのは分かってるさ!でも...でも分かってよ....受け止めて...ロワンが死んじまった事に.......」



 泣き声を殺して泣く彼女、そして男の方も声を殺して同じく涙を零していた。俺は分からなかった。コイツらがロワンの指示で演技してて、俺を後悔させたいのは分かった。だが、俺の目には演技には見えなかった。



「.......じゃあ説明してみろよ。それが本当だって言うんなら、説明出来るよな?嘘ついてる癖して変に粘りやがって!!今すぐ説明してみろオラァ!!」



 俺はザブを突き飛ばすと、ザブは尻もちをついて涙ながら口を開いたのだった。


――――――――――――――――――――――――

 

 ロワンとの出会いはヴィルバガの言う通り一か月前。突然ヴィルバガがロワン、そしてロワンと同じ時期に失踪してここまで付いているカリが現れた。

 ヴィルバガはSランクという最高峰の実力者だったが、彼自身人付き合いはよく、ザブ達とも何度か飲みに行く仲だった。


 そんないつも世話になっている彼からの推薦、最近辞めた人間が出て人手不足中という身、断る理由は無かった。


 ヴィルバガが推薦しただけあって和気あいあいとしたパーティーで、ロワン達もすぐにその中に溶け込み、共にクエストをこなしていた。


 カリは素早い盗賊のスキル持ちで、ロワンはスキルを隠して何故か戦闘員の魔術師としてそこそこ活躍していた。


 前線と言うだけあって厳しい戦いも何度かあったが、五人は力合わせて困難を乗り越えていった。

 五人は一心同体となり、今後も上手くいくだろうと誰しもが思っていた。


 しかし、そんなある日の事。いつものように雑魚の魔物を狩り、帰ろうとするとロワンが皆を引き止めた。

 その日は体力も有り余っていた事もあり、小規模ではあるが魔王軍の基地を攻撃しようと提案する。ザブ達は最初は嫌々だったが、妙にやる気に満ちていた仲間の意志の強さに折れ、最前線にある魔王軍基地へと向かった。


 小規模なだけあった魔物達は弱かった。否、ザブ達が力をつけていた。いつもなら勝てるかどうかも怪しかった魔物の集団にザブ達は勝利を納め、ロワンは生き生きしながら魔法を奮っていた。


 しかしそれが運の尽き。更なる慢心。危険と感じたら逃げるという公約の中、ザブ達は基地の完全破壊を目標に行動し続けた。

 今思えば正気ではなかったが、ザブ達もロワンの熱に惹かれ、限界を知りたくなったのだ。


 そんな慢心しきった者達に罰を与えるが如く立ちはだかったのは、まさかの魔王軍幹部。こんな小規模な基地に足を踏み入れる訳もない大物がそこにいた。


 魔王軍の幹部は何度か人間に殺されていたが、唯一魔王軍結成から幹部の椅子に座り続け、魔王の右腕となる存在。


 名はナーガル。死を与える者(デスリッチ)と恐れられた強大なリッチだ。


 そんなものを目にした時点でロワン達に逃げるという選択肢は無かった。背を見せたその刹那、首が跳ぶのは明白だ。


 自分達の死を実感し、絶望に震えるザブ達。しかし、ロワンは違った。初めてスキルを使用し、強化された己の魔力でカリ含めた四人を後方へ風魔法で吹き飛ばす。

 そしてある程度距離が離れると、石造りの通路を魔法で破壊し固定。四人が戻らないよう、そしてナガールが四人を追う時の時間稼ぎのためだった。


 ザブ達はロワンの意志を汲み取り、必死に戻ろうとしたカリの腕を掴んで強制的に外に連れ出した。


 すると、そこには王国の兵士や腕の経つ冒険者が勢揃い。全員が基地へ突入しようとしていた所だった。


 小規模な基地から漂うとは思えない膨大な魔力を感じ取り、幹部が居るのだと一斉に集まったのだった。因みに、ヴィルバガは丁度ほかの所に行っていて参加は出来ずにいた。


 魔王レベルで人間を怯えさせてきたナガールだったが、流石の大群に気が引けたのか、彼らが突入した時にはナガールの姿はなかった。

 あったのはザブ達が倒した魔物の死骸と、折れた杖、そして口から大量の血を出して息絶えていたロワンがいた。



――――――――――――――――――――――――



「....ワシらは止めることが出来なかった。嫌な予感はしてた...でも、ワシらなら行けると謎に自信が湧いてしまって....」



 ザブは大粒の涙を床へ落としながら、歯軋りをしていた。とんでもない後悔が奴を襲い、女の方も男の方もザブと同じ態度だった。


 俺の中には幾つも意見がが出ていた。何故ロワンはスキルを隠したのか?ロワンがそんな大胆な性格じゃない。つまらない嘘ばかりでどうにかこうにかロワンを守ろうとしてるんだろ。

 そう言いたかった。


 だが、俺は言えなかった。信じたくもない事実を直感で信じてしまい、目の前まで来ていた明るい未来が消えていく。それも永遠に灯りをともすことは無い漆黒、どう足掻いても、ロワンがいた時のような贅沢な天国の暮らしが出来ないのは確か。


 そんな絶望的な未来に俺は心底絶望し、頭が真っ白ではなく真っ黒になった。自然と身体から力が抜け落ち、その場に座り込んで力無く床を見つめていた。



「本当に.......死んだのか?ロワン......」



 その問いに誰も答えない。ゴルド達も何も言えず放心状態、サブ達も心の中に抑えていた後悔が溢れ出して言葉にならない。


 部屋の中は啜り泣く声しか聞こえなかった。

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