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ゴブリン

「確かに...そうだな。」



「その上、行き先も行き先だ。何故魔王軍の最前線近い街を目指す?実家でのんびりすればいいものを、何故そんな危険地帯に足を踏み入れる?何か意図がある筈だ。....さっぱり分からんが......」



 俺は思考をフル回転させ、あらゆる可能性を探していた。だが、全くといって良いほど、しっくりくる理由が浮かび上がらない。

 しかし、パーティーの中で一番のキレ者レネ。彼女は顔色を更に暗くさせながら、頭の中に浮かんだ可能性を話した。



「もしかしてだけどさ...その女、ロワンの力に気が付いたんじゃない?その力を証明する為に、そんな場所を目指したんじゃ....」



「それだとおかしくない?だって、証明するだけだったら王都でも良くないってウラロ思うんだけど...そこら辺のダンジョンでも強くないけど、ある程度の奴らっているし。」



「王都には私達がいるから来れないとして、ロワンを凄腕と認めさせるんじゃないかしら?それの付属品として自分も近くにいて、その街にいる凄腕のパーティーに仲間に入れさせてもらう。

 最前線だからね、Sランクのパーティーも居るはずよ。」



 正に最悪の想像。俺達がもっとも恐れていた、ロワンの実力が明らかになり他パーティーに加わってしまう。ゴルドは分かりやすく慌てて俺の肩を掴んだ。



「や、やべぇよベグド!レネの推測が正しかったらよ、ロワンを連れ戻せねぇぞ!?ここから二週間程度なんだろ?故郷へ戻ったのは一ヶ月前、もうアイツとっくにその街に着いちまってるよ!!」


 

「お、落ち着け!レネの言った事は確かに信憑性はあるが、ただの推測だ!....だが、認めたくはないがかなり可能性は高い。

 ...手遅れかもしれんが、急いで向かうしかない。ロワンを何がなんでも連れ戻す、それしか俺達の未来はないからな。」



 浮かれていた気分から一転、俺達は心臓を掴まれているかのような悪寒と苦しみを味わいながら、全速力でナズラドム街を目指した。


 休憩もほとんど取らずに歩きっぱなし。野宿も限界まで始めるのは遅くし、出発するのは夜明け前。疲労と眠気が交差し、歩くだけでもキツい。

 だが、誰も弱音を吐かない。否、吐けない。事態が深刻というのもあるが、会話をしない無言の空間になると、ロワンがもう既に手が届かないところにいて現実に潰される自分達を想像してしまうからだ。


 普段身体を動かさない上、体格も一番小さいウラロも口を閉ざして一生懸命歩いていた。本来の彼女なら子供のように喚きながら文句を言って、勝手に休むかゴルドの背に乗っかっていたが、彼女自身理解しているのか文句一つも零さない。



 俺達はSランクパーティーで王国一番の期待の星。故に魔王軍関連のクエストも何度も行っていた。それこそ今向かっている西方面には数え切れない程行ったことがあるが、今歩いているのと全く別の道。

 未だ経験のない未知な道のりに困惑しつつ、俺達は地図を見ながら着実に目的地へと近付いていく。



 目的地のナズラドム街手前まで来ると、より一層苦しくなる。ロワンがいる前提の話にはなってしまうが、もし奴自身、自分の力を理解したのなら俺達の所へ来るのは限りなくゼロに近い。強行手段を取ろうとも、跳ね返されるのがオチだ。


 まだ二十三歳だが、まるで人生最大の山場と俺は感じ、仲間達もそう思っているだろう。長い旅が終わりかかっているのに、笑顔なんて一瞬でも現れないのだから。


 薄暗い森の中を歩き、木々の間からナズラドム街らしき建物が遠くに見える。俺はそれを見て、深呼吸をして心を落ち着かせた。



 着くまでに後一日はかかるな。何処かで野宿をするか...明日は何が起こるか分からない。その為にも体力は少しでも回復させておくか。



「....よし、ナズラドム街まではもう一度日を跨ぐだろうから、今日は早めに野宿をしようか。明日の為に体力と心を養うんだ。」



 俺は足を止めて振り返ると、三人とも疲労を表情に写しながら頷いた。ウラロは既に限界だったのか、荒れる息を整えようとしながらその場に座り込んでしまった。

 そんな彼女を見ると、俺達も抑え込んでいた疲労が爆発。一気に疲労が押し寄せ、その場に座り込む。


 俺は完全に地面に背を着け、疲労の回復を優先した。どっと疲労が取れていく感覚はしたが、小石が背に当たっている感覚が気持ち悪く、寝返ったその時だった。

 俺が寝ていた所に一本の矢が勢いよく刺さったのだ。

 疲労など消し飛び、代わりに冷や汗が勢いよく吹き出てきた。俺の異常事態に仲間達も気が付き、すぐに立ち上がって周りを見回す。


 すると、薄暗い森の中、俺達は緑色で醜く小柄なゴブリンに囲まれていることに気がついた。



「チッ、小賢しい奴らだ。いつの間に俺達は囲まれていた?」



 俺はそうボヤきながら背中の大剣を抜き構えた。仲間達もそれぞれの武器を取り出し、ゴブリンの戦闘に備えんとする。

 ゴブリンは魔物の中では弱い部類。集団で行動するのでちと面倒だが、ロワン無き俺達でもそこまで焦る様な状況じゃない。

 ただ、気掛かりなのは仲間達の状態。俺は比較的にまだ動けるが、ゴルドやレネといった戦闘員はともかく、慣れない運動に完全にバテているウラロが心配だった。


 すると、木の上に乗っかっていた一匹のゴブリンが俺に向かって矢を放つ。ロワンが居なくなってSランクの実力は無くなったものの、非力なゴブリンが打つ矢は俺でも見切れた。その矢を弾き斬り、俺は疲労困憊の仲間達の前に移動した。



「お前ら!小賢しい真似してねぇでかかって来いよ!!そんな事してるから、低級の魔物なんだよお前達は!!」



 俺は全てのゴブリンに聞こえるように大声で挑発するが、奴らはニヤニヤと笑うだけで襲いかかってこない。分かりきっていたこと、奴らのずるがしこさは魔物の中でも特に目立つ。そんなヤツらにプライドなど存在せず、挑発に乗って来るのはほぼ有り得ない事だった。


 次にゴブリンは一匹づつ、ゴルドとレネに向かって矢を放った。しかし、疲労があるとはいえ戦闘員。二人ともその矢を難無く弾いた。


 何なんだ?何故一斉に矢を放たない?俺達を捕獲したいんだろうが、それでも狙いが余りに雑すぎる。まるでこっちの戦力を測るかのように...



 俺がそう思っていると、順番と言わんばかりにウラロに矢が放たれる。だが、彼女は回復に完全徹底して来た女僧侶、疲労の限界な彼女には矢を弾く術も避ける体力も無かった。



「クソ!....ゴルド!!」



「おうよ!任せな!!」



 ゴルドはウラロに矢が放たれているのを想定していたのか、俺の呼びかけより早く行動し、ウラロを守った。矢はゴルドの拳に弾かれて地面に落ち、汗だくなウラロは彼にお礼を言った。



「はぁ...あ、ありがと...ゴルド。」



「礼は後にしな。今はレネのとこ行け。ちゃんとくっついてんだぞ?」



 ウラロは頷き、震える足でレネの背中に寄り添った。

 すると、先程までの牽制とは違い、ゴブリンが一斉に襲いかかってきた。木の上から弓を放ち、何十匹のゴブリンが槍やら刀やら斧で距離を詰めてくる。


 俺達はいつもの連携をすぐにとった。全方向からなので、俺とゴルドがレネとウラロを挟むように立ちはだかり、レネは援護射撃。そしてウラロは回復魔法とロワンの代わりに補助魔法なのだが、今の彼女には期待は出来なかった。


 俺は大きく深呼吸をし、剣を構えて足に力を入れた。


「スキル.......神速(ゴッドラッシュ)!!」



 スキルを発動し、最初から全力で倒しにかかる。ロワン無しの神速(ゴッドラッシュ)、恐ろしいほどの弱体化に未だ慣れず、俺は気持ち悪い違和感を感じながらゴブリンへ剣を振った。

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