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ロワンの実家

 まるで追い出されたかのように王都を出てきた俺達。今まで貢献に貢献を重ねてきた俺達に対してあまりに酷い仕打ち、俺は怒りで脳みそがおかしくなりそうだった。


 しかし、それ以上苛立つ事もある。仲間である三人の態度だ。

 あんな恩知らずの馬鹿集団から離れてから一週間も経つ今ですら、顔を暗くして寡黙だ。俺が何回声をかけても返事は生返事、まともな会話の一つも出来やしない。


 苦楽を共にした仲間に対してここまで苛立つのは初めての経験だから、俺自身少し困惑している。そして同時に思うこともある。こんな時にロワンが居れば、あの三人もこんなアンデットみたいな始末にはならないだろうと。

 

 苛立ちの全てをはけ口にロワンを使っていたからな。やっぱり、ロワンはこのパーティーに必要不可欠。クビにしたのは明らかに俺自身の早とちり、反省しないと....



「自分自身に刻まないとな...あんな優秀な操り人形、早々に手放しちゃダメだよな?ククク....」



 俺はまともに会話ができない代わりに、対話するかのように独り言をブツブツ呟いていた。普段独り言をあまりしない俺がこうして小声で言い始めると、気にしている三人の目線が気が付く。そして、三人とも更に顔色を暗くさせるのだ。


 気が付いた時点で本来の俺なら謝るのだが、ロワンというはけ口が居なくて困っているのは俺も同じ。ロワンが戻ってくるまでの短い期間だが、そんな仲間達のしょげた顔を見て不満を解消していた。


 殆どの会話が無く一週間、ついに俺達はロワンの故郷へと辿り着いた。古びた小さな村で、村人の大半は老人ばかりといういつ無くなってもおかしくないロマ村。老人が好きそうな自然豊かな所だ。


 ここへ来たのなら流石に三人とも顔色は戻り、先程までの気まずい雰囲気など消し飛んでいた。

 ゴルドはその景気づけと言わんばかりに伸び伸びと背伸びをした。



「よっしゃあ!とうとう着いたな!!もう歩き疲れたぜぇ〜。ったく、どんだけ遠くにあるってんだよ。」



「あんまりはしゃぐなゴルド。まだロワンがいるかどうかも分からない。喜ぶのはまだ早い....ロワンのババアに話聞くまではな。」



 俺は元気が戻ったゴルドに釘を刺すが、俺自身気持ちが楽になったので微笑みながらそう言った。昨日までならこんなことを言われたら口を閉ざしていたが、俺の笑みを見て安心したのか、ゴルドも嬉しそうに口を塞いだ。



「そもそも、ロワンのやつが俺達より早く来たかどうかも分からん。どうだ?何処かでちょっと休憩でもするか?」



 俺は三人に問うと、すぐにレネの奴が首を横に振りながら反対した。



「いいえ、すぐに行きましょうよ。王都で余計に時間取られてるし、遅れてることはないわ。それに私、早くロワンを連れ戻して王都に帰りたい。アイツらに一刻も早く復讐したいし...」



「だね!ウラロが止めてって言っても止めなかったんだから、アイツらもウラロ達よりもっと酷い事しなくちゃ気が済まないよ!さっさと行って、ロワンを連れ戻そ!!」



 ゴルドだけでなく、レネもウラロもいつもみたいに戻ってきた。ロワンっていうサンドバッグが戻ってくれば、俺達はいつも通りに戻る。不安な未来からおさらばだ。



「よし、それじゃあ俺についてこい。一度しか行ったことないし、うろ覚えだから文句言うなよ?」



 こうして俺を先頭にロワンの実家目指して歩き始めた。どれもかしくも似たような家ばかりで見分けなど殆どつかないが、俺はボヤけている記憶の中にある家を探した。


 そして俺達はある一軒家の前で立ち止まった。他の家よりも老朽化が進んでおり、所々穴が開いている。もし、この家を見てアンデットの住処と例える者が居るのなら、誰もその者を非難しないだろう。


 俺は自分の思い通りに事が進むのを願いながら、壊れそうな扉を叩いた。古びていても鍵はしっかりしているのか、ドアは音を鳴らすだけでビクともしない。何度かノックすると、家の中から薄らと生活音が聞こえ、こちらへ誰かが向かってきているのが分かった。


 俺が一歩下がるのと同時に、扉は悲鳴を上げるような音をしながら開き、中から老婆が顔を出した。

 動物に乱雑に引っかかれたかのような多数の細かい皺、雲のような形をする白髪、そして枝のように細い腕と脚、俺が記憶しているロワンの祖母だった。

 記憶はぼんやりしていたが、数年経っても変わらない老婆の姿に俺は微笑んだ。それは勿論、相変わらずなお婆さんっていう少しほのぼのとした意味でなく、遺影の変更はしなくていいなという侮辱の意味だ。



「...どちら様で〜?あんた達見たいな人....村では見かけないけどねぇ...」



 フッ、姿形は変わらないが記憶力はねぇんだな。姿は充分干からびさしたから、今は脳を腐らせてんのか?



「....お久しぶりです!俺の事、覚えていませんか?ロワンと一緒に以前ここへ来たことがあるのです。ロワンの仲間、ベグドです!」



 俺も大人だからな。心で思った事を素直に口に出す程子供じゃないし、これからロワンを引き戻そうってんだ。記憶が残るか可能性は薄いが、良い印象があって損は無いだろ。


 俺は礼儀正しい若者の仮面を付け、本当は蹴飛ばしたい心を我慢して紳士に話す。すると、記憶の片隅に残っていたのか、ババアは滑稽な程笑顔になった。



「あぁ〜!あの時の貴方ね!確か...」



「ベグドです。すみませんね、覚えずらい名前で。」



「いいのよ〜、私が悪いんだから。この歳になると人の名前を覚えるのも大変で....」



 そんな分かりきってる事を大事みたいに言うなよ老害。さっき名前言ってんのに忘れてるなんて、獣の方がまだ賢いぞ?



「あはは...それより、俺がここへ来たのはロワンを探しに来たからなんです。ロワン、急に居なくなってしま」



「あ、ちょっと待っててね?今家の片付けをするからね。家の中でお話しましょうか。」



 俺が喋っている最中でもお構い無し、ババアはすぐに俺に背を向け、急いで家の中に入っちまった。



 このクソババア!!誰もテメェの古びた家なんか入りてぇなんか言ってねぇんだよ!!ロワンの場所教えるだけで、てめぇはさっさとポックリ逝っとけ!!



 ストレスを解消するかのように俺は心の中でそう叫ぶが、それだけで収まらなかったストレスは身体の震えとして現れた。ババアの勝手な行動に俺がイラつき、ゴルドが心配して近付いてきた。



「お、おいベグド。大丈夫か?ここで暴れんのはマジィぞ?」



「分かってる。分かってるが...クソが!人をイラつかせるのが上手いな、あのババア....」



 俺自身に溜まっている苛立ちを仲間の声と深呼吸で中和し、何とか冷静さを保っていると、ババアが家の中に入るよう言ってきた。

 俺とゴルドは普通に入るが、女子陣はこの家に入るのを嫌がっていた。ロワンが戻るまではいくらボケたババアでも悪印象をつけるわけにもいかず、俺とゴルドは説得し、少しして女子二人も渋々家の中に入るのだった。



 内装も外装変わらず老朽化が進み、一歩進めばギシギシと床が軋む。案内されたリビングも同じでどれもかしくもボロボロだ。もし強盗が居たとしても、ここへ来ようとは思わないな。

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