第4話 俺の事情とあの会社の今
昼食を高岡さんの部屋となった305号室でいただいた後、改めてお礼の言われながら隣の304号室に戻った俺。
二人の幼女に懐かれたのは普通に嬉しいが、今の俺はそこまでの存在だと思ってる。
それに、出会って間もないしな。
そう思いながらパソコンでWEB小説の更新をしてから、正幸からのメールを見る。
『京也、あれから元気にしてるか? 俺もあれから少ししてあそこを退職したよ。 学歴がモノを言う考えについてこれなくなってな。 何せあの会社、本来は社長や人事部が担うはずの権利も全て課長一家や部長一家に握られてるぜ。 つまり、奴らのえり好みで好きなようにクビに出来るって事だろうな。 さらに労基や警察に相談させないように一族のパイプを使って根回ししたそうだ。 何人か不当解雇されたみたいだが、それに関する相談すらさせてもらえなかったらしい』
うわぁ。
相当の屑な会社に成り下がったみたいじゃないか。
人事すら社長や人事部ではなく、課長一族や部長一族が握ってるとは……。
しかも先回りして労基や警察などに不当解雇の相談などを受け付けないようにと圧力という名の根回しをしていたとは。
それが出来るパイプをあの一家共は持っていたのか……。
『まぁ、それによる影響かは知らないが、残った俺の友人曰くあの会社は多数の取引先から取引停止されてるらしい。 高卒であることを理由に頑張りを褒めない会社など取引したくないんだろうな』
しっぺ返しはやってくるもので、あの会社は多数の取引先から見限られているらしい。
学歴で対応を変えるような会社との取引はしたくはないのが本音だろうな。
しかし、正幸の奴はそういう交友関係もあるから正直羨ましいよ。
『あと、桧山と川崎がお前の事を心配してたぞ。 あいつらも俺と同様に退職したけど。 まぁ、あの会社も長くは持たないだろうから気にするんじゃないぜ』
川崎というのは、桧山と同期の女性の川崎 唯だ。
この二人は彼氏持ちなのに、よく俺を庇ってくれた。
それ故に、桧山はパワハラとセクハラを食らったが、川崎もそうだろうな。
俺が辞めたあの会社は、そろそろ持たなくなる……か。
それでも取引先が残ってるっぽい感じだから、首の皮一枚は残るだろうが……。
(とはいえ、気にするなとは書かれてたけど……、あの一家共に俺自身が否定された事に変わりはないからなぁ)
あの課長一家と部長一家の俺への暴言と成果の横取りは、今での俺の心に傷を残していく。
それによって、俺は転職活動が上手く行かず、コンビニ掛け持ち夜勤アルバイトで食いつなぐしか道はなかったのだ。
(俺は……、正幸や桧山たちみたいに強くはないし、冴えないからな……。 底辺は底辺らしく……か)
またしても、あの課長一家に言われた暴言を思い出す。
【高卒はみんな底辺なんだよ! 底辺は底辺らしく床で這いつくばってろ!】
成果を横取りしながらそう言われた日には、俺の全てを崩すには十分だった。
その後、桧山や正幸が慰めてくれたが、それでも立ち直れず、そのまま退職届を出したのだ。
俺と一緒に社長にも訴えたが、結局聞いてくれなかったから、そこで完全にプッツンと切れたしな。
それでも、あの会社の経営が急速に傾いているとはいえ、まだ潰れてないからな。
潰れたとしても、忘れる事は出来ないだろう。
「さて、WEB小説の更新を再開するか……」
正幸のメール内容を見るために手を止めていた俺は、今度こそWEB小説の更新を再開する。
更新している小説の内容は伏せるが、【異世界転生】モノかつ【さまぁ】モノであるとだけ言っておこう。
「さて、これくらいにしておくか」
一話分を今公開し、もう一話分は夜に予約投稿として処理した。
SNSでの宣伝も同様にしている。
趣味でやっているので、ポイントなどは気にしない。
「さて、動画でも見るか……」
モバイルWi-Fiルーターで繋いでいるとはいえ、パソコン経由だと動画サイトはそこそこ重い。
なので、専ら動画などもスマホで見ている。
やや大きめのスマホなので、動画も見やすいのはありがたいかな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、散歩に行くか」
一通り動画を見たので、外出する。
本来なら、ここで夜勤に備えて寝なくてはいけないが、今日の土曜日と明日の日曜日はお休みだ。
なので、気分転換に散歩をしようと考えた。
桧山や正幸への返事は、その後でいいだろうし。
「夕方か……」
外に出ると、夕焼けに染まった空が見えた。
いつもなら寝ている時間帯だし、この時間帯での外出はなかったので、新鮮に見える。
「高岡さんは大丈夫だろうか……」
小さい声でそう独り言ちた時に、三人の影が見えた。
その中の小さな影二つが、真っすぐに俺の元に向かってくる。
「「おじちゃーん!!」」
「おおぅっ!?」
奈々ちゃんと佐奈ちゃんだった。
二人は俺の足に抱きついてスリスリしてきた。
「もう、二人とも……。 こんばんは、宇佐美さん」
「買い物だったのですね、高岡さん」
マイバックを持って追いかけて来たのはやはり高岡さんだった。
買い物帰りだったのだろう。
その時の彼女の表情は、笑顔で彩られていたのだ。
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