第27話 母娘からのお願い
「「うさおじちゃん、いっしょにねよー」」
そろそろ寝る時間に差し掛かるのだが、当然ながら奈々ちゃんと佐奈ちゃんに一緒に寝ようとお願いされたので、一緒に寝てあげようと決めた。
「じゃあ、布団を敷こうか。 布団は二つくっつけば?」
「ええ、そうしましょう。 クリスマスイブですからね」
理由がややおかしいが、一応クリスマスイブだし、夜遅くまで奈々ちゃん達と一緒にいたので、紗友里さんも奈々ちゃんの隣で一緒に寝るみたいだ。
浴室に向かい、寝間着に着替えるようだ。
そういや、305号室だけはトイレと浴室が分かれているんだよな。
角部屋の特権なのかは知らないが、羨ましいよ。
紗友里さんが寝間着に着替えた後で、俺も寝間着に着替える。
その間に、紗友里さんが奈々ちゃんと佐奈ちゃんを寝間着に着替えさせていた。
「おまたせー」
「こっちも終わりました。 それじゃあ、布団に入りましょうか。 電気毛布も暖かくなってるので」
「そうしましょう。 それじゃあ、奈々ちゃんと佐奈ちゃん、お布団に入ろうか」
「「はーい♪」」
そう言いながら俺と紗友里さんが布団に入ると、その間に奈々ちゃんと佐奈ちゃんが布団に入ってくる。
奈々ちゃんの隣には紗友里さんが、佐奈ちゃんの隣に俺がいる格好だ。
「えへへー♪ なな、よにんでいっしょにねるの、ひさしぶりだよ」
「さなも。 まえのパパ、いっしょにねてくれなかったし」
「そっか……」
三歳児なりに、前の父親に対する不満はあったのだろう。
甘えたい盛りの年齢なのに、倒産で失職した八つ当たりをするその男に怒りが湧いてくる。
奈々ちゃんと佐奈ちゃんの前では、それは表に出さないが。
「そういや、子守唄は?」
「いつも私が歌っています。 この子たちが眠ってから私が寝るんですよ」
「少しでも親が一緒にいるのがまだ当たり前の年齢ですしね……」
佐奈ちゃんの頭を撫でながら、俺は紗友里さんと話をする。
子守唄で奈々ちゃんと佐奈ちゃんを眠らせた後で、紗友里さんも一緒に寝るという流れのようだ。
「一応、兄や姉も助けて貰ってるから、安心して子育てが出来ますしね」
「あの二人は親バカみたいな形ですしね。 姪っ子に対しては」
「そうですね。 さ、子守唄を歌いますよー」
「あ、そのまえにうさおじちゃんにおねがいがあったの」
「俺に?」
「うん」
そろそろ紗友里さんが奈々ちゃん達に子守唄を歌おうとした時、奈々ちゃんが俺にお願いがあると言ってきた。
どうやら佐奈ちゃんも同じようだが……、どんなお願いなんだろうか?
「うさおじちゃんに、ななとさなのパパになってほしいの」
「さなもおなじく」
「奈々、佐奈……」
幼い子からの純粋なお願いに俺は動揺した。
この子たちは確かに前の父親からはぞんざいな扱いを受けて来た。
その反動で、あるきっかけで俺に懐いてくれた。
やはり甘えてくれる父親の存在がまだこの子達には必要だったのだろう。
「今はまだ……厳しいかな。 でも、新しい場所に慣れたら……パパになってやれるよ」
「ほんとう?」
「ああ」
「やくそくだよ、うさおじちゃん」
まだコンビニの夜勤バイトをやっている間はこの子たちの父親にはなれない。
だが、達也の会社に転職して少しくらい慣れてきたらその願いは叶えられると思う。
だから、その約束をしておこうと思う。
「なら、同時に私のお願いも聞いてくれますか?」
「はい」
奈々ちゃんと佐奈ちゃんのお願いを聞いた紗友里さんは真っすぐ俺に向けながらそう言った。
「私の事は、下の名前で呼んでくれますか? 兄から聞いてはいると思いますので」
彼女の方からは、下の名前で呼んで欲しいという事だった。
達也からは彼女の名前を聞いていたので知っているが、あえて『高岡さん』呼びをしていたが、もうその必要はないだろう。
「分かりました。 これからそうしましょう、紗友里さん」
「はい」
「そして、紗友里さんで良ければ、転職先で慣れたら……奈々ちゃん達の父親になってもいいでしょうか」
「もちろんです。 えーと……」
「あ、すみません。 俺の下の名前は京也です」
「京也さんが一緒に暮らしてくれるなら、私も嬉しいです。 娘共々、これからもよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
自分の下の名前を教え忘れると言う失態があったが、奈々ちゃん達の為にも転職先で慣れたら父親になるという約束をした。
いわば、紗友里さんにとっては再婚という形になるだろう。
紗友里さんも望んでたみたいだし、これでひとまず安心かな?
「じゃあ、奈々と佐奈に子守唄を歌いますね。 それから私達もお休みしましょう」
「はい。 じゃあ、奈々ちゃんと佐奈ちゃん、お休み」
「「うん、おやすみー」」
笑顔で応じる幼い娘に癒されつつも、紗友里さんの子守唄によって二人はぐっすり眠っていく。
佐奈ちゃんは俺を抱き枕にしながら眠ったようだ。
「それじゃあ、俺達も寝ましょうか。 佐奈ちゃん、俺を抱き枕にしてるみたいですし」
「ふふ、そうですね。 お休みなさい、京也さん」
「おやすみなさい」
奈々ちゃんと佐奈ちゃんが眠ったのを確認してから、俺と紗友里さんも眠りについた。
二人の幼い寝顔を堪能しながら……。
こうして、俺の人生が一気に変わりそうなクリスマスイブは、終わりを告げたのだった……。
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